第101話 双子

文字数 2,304文字

 念願だったディズニーランドもシーも中崎さんは連れて行ってくれて、素敵な時間を過ごして(具体的には割愛)、そして今、私のお腹には赤ちゃんがいる。しかも双子だった。お母さんに言うと「やっぱり二人来たのね」と笑った。言いかけたことは双子ということだったらしい。
 軽いつわりがあって、私は結婚式は安定期過ぎてから…と思っていた。籍だけはすぐに入れて、その報告を梶先輩にしようと思っていたら、梶先輩が吉永さんと結婚するというので、驚いた。
「わぁ」と思わず私は声を上げた。
 女二人だけの飲み会だったけど、二人とも烏龍茶にして、梶先輩に入籍と妊娠の報告をした。
「私は妊娠はまだだけど…十子より先に結婚式になりそうね」
 梶先輩が急いで式を挙げる理由はお父さんの体調がよくないから、と言っていた。
「入院する前に…どうしても一緒にバージンロード歩きたいって聞かないから」
 お父さんの病気はちょっと重いらしい。大変だった梶先輩を仕事とプライベートで吉永さんは支えてくれたようだった。
「そう…ですか」
「彼…怒ってない?」と私にこっそり聞く。
「大丈夫ですよ」と私は微笑んだ。
「本当?」
「死んだら…不思議ですけど、みんな仲良くって感じなるんです。まぁ、いいところに行けた人は…ですけど。だから、きっと幸せにって言うと思いますよ」と私は言った。
 何より真田さんは梶先輩の幸せを願っていた。
「たくさん幸せになっちゃってください。真田さん、きっと待ってくれます。吉永さんだって…分かってくれてます」
「十子に色々相談してたみたいね」
「あ…はい。でも私も吉永さんにはお世話になりましたし…」
「十子は中崎のこと、本当に好きだったんだね」
「え?」と私は驚く。
「辛いことがあっても、中崎のことはすごく庇ってたし…」
「いや、あれは…」
「十子のそういう強さ、好きだな」と梶先輩は言ってくれる。
 恥ずかしくて、唇をちょっと尖らして「ありがとうございます」と言う。
 最近、私は自分が思ってるより、人に愛されてるし、意外と役に立っている気がしている。ちょっと自分に自信がついた。
「それで…体調はどうなの?」
「少しだけしんどいぐらいです。お腹空きすぎないようにしてます。空腹が気持ち悪くなっちゃって」
「そうなんだ。赤ちゃんが栄養欲しいって言ってるのかな」と梶先輩が優しそうな目で私のお腹を見る。
「二人いるなんて…不思議です」
「中崎…喜んでる?」
「はい。でも心配もたくさんしてて…。お姫様扱いです」
「…それは妊娠してなくてもでしょ? 私のとこまで迎えに来たり…。でも…ちょっと重くない?」と梶先輩に聞かれた。
「重い? ですか? 私、嬉しかったです…けど」
「十子がそう思ってるのなら、いいわよ」と烏龍茶を飲んだ。
「今日も迎えに来てくれるって言ってました」と私が言うと、梶先輩は肩を落とした。
 そんな話をしていると、中崎さんと吉永さんが二人で入ってきた。
「吉永さんも来てるじゃないですか」と私は嬉しくなって、梶先輩の肩を軽く叩く。
 吉永さんが私たちのところに来て「ごゆっくり。帰る時は教えて。俺たちはあっちで飲んでるから」と言う。
 中崎さんもこっちに来てくれる。やっぱり素敵だな、と毎日一緒なのに思ってしまう。
「吉永さん、おめでとうございます」と私は師匠の努力と快挙を喜んだ。
「十子ちゃんも。おめでとう。それからありがとう」と頭をぽんぽんしようとした瞬間、中崎さんがその手を掴んで「ごゆっくり」と言って自分達のテーブルに引き戻した。
「あぁ言うところ…意外だわ」と梶先輩が言う。
「…? そうですか?」
「仕事だと普通なのにね?」
 私は言ってることが分からずに「二人も仲良しなんですね」と言って、梶先輩が「そうかもね」と言って笑った。二人で楽しく飲んで、お会計して、みんなで帰った。吉永さんと梶先輩は引っ越しするらしい。
 二人用の新居を探していると言っていた。
 帰り際に
「それまでにまた泊まりにおいで」と梶先輩が言ってくれる。
「はい」と言って、私は二人に手を振って、横にいる中崎さんの手を取る。

「透馬さん、たくさん飲みました?」
「そうでもないよ」と言って、私を見て微笑んでくれる。
「二人とも幸せになって…よかったですね」と私は中崎さんに同意を求める。
 中崎さんはちょっと悲しそうな顔になって「本当に僕でよかった?」と聞く。
「え?」
「吉永じゃなくて」
「…吉永さんは…ちょっといいなぁって思っただけで…」と私は驚いてしどろもどろになった。
「僕は本当に十子ちゃんのおかげで…新しい人生を生きてる気がしてる」
 それをいうなら、私だってそうだ。今まで誰かに好きになってもらいたいのに、こっそり隠れて、影からきょろきょろ見てるだけだった。中崎さんに片思いしてる時は胸も痛かったけれど、私は好きだと真っ直ぐ伝えられたから、そんな私を誇りに思えるようになれた。
「くしゅん」とくしゃみをすると中崎さんは慌てた。
「風邪ひいたら大変だよ」と上着を脱いで私にかけてくれる。
「大丈夫です。きっと花粉です」
「本当?」と言って、手のひらをおでこに当てながら、真面目な顔で熱があるか調べている。
「透馬さん」と私は背伸びをして、おでこ同士をくっつけようとする。
 中崎さんが私の前髪を上げて、ゆっくり優しく触れてくれた。
「ほら…ね。だい…」
 そのままキスされる。夜だとは言え、道端なのに、と私は慌てた。
「今のは十子ちゃんが悪い」とキスして中崎さんが言う。
「透馬さんでしょー」と私は口を尖らせた。
「だって…可愛いのが悪い」と微笑まれたら、ずるい。
 空を見上げる。まだ夜は寒いけれど、春だから夜空の月も朧げだった。
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