第54話 恋扇子

文字数 879文字

「恋扇子」

■人物
河野さん(16)高校1年生。
持田君(16)高校1年生。

■本編
持田君のMO「梅雨の間の珍しく雨が上がった放課後のことだった。からになった教室で、僕は君が机に忘れていった花柄の扇子を手に取っていた」

河野さん「持田君? 何してるの?」
持田君「こ、河野さん!」
河野さん「あっ。それ、私の扇子?」
持田君「い、いえ、これは僕のです!」
河野さん「河野君の? 花柄ピンク?」
持田君「はい……」
河野さん「すごい!」
持田君「え?」
河野さん「私とお揃いだったんだね!」
持田君「あっ、じ、実は……」
河野さん「もしかして、彼女からのプレゼントだったりして?」
持田君「か、彼女なんていませんよ!」
河野さん「そうなの?」
持田君「そうですよ……」
河野さん「じゃあ、持田君って乙女系?」
持田君「それも違います。ただ、なんかセンスいいなって」
河野さん「え? 扇子だけに?」
持田君「そ、そんなつもりじゃ……」
河野さん「持田君っておもしろい人だったんだね! あんまり話したこと亡かったから」
持田君「そ、そうですね」
河野さん「ああ、私の扇子、ないなー」
持田君「あ、あの! 一緒に探します!」

持田君のMO「すっかりうそを付いてしまった僕は、河野さんと一緒になって見つかるはずのない探し物をした。だけど、もうあとには引き返せない!」

河野さん「見つからないな。おかしいな。どこやったんだろ」
持田君「大事なものだったんですか?」
河野さん「お気に入りだったから」
持田君「そうですか……その、もし」
河野さん「同じのほしいから買いに行かない?」
持田君「え? あ、はい」
河野さん「でも。お揃いの扇子持ってたら誤解されちゃうかな?」
持田君「ご、誤解ですか!?」
河野さん「まあ、でも、私は気にしないけどね」
持田君「ぼ、ぼくも……!」

持田君のMO「河野さんには本当に申し訳ない! でも、僕はこの嘘を貫き通そうと決めていた。晴れ間に吹く風が梅雨明けの予感を運んできていた」

              (おしまい)
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