第10話 雨

文字数 640文字

「雨」

■人物
少年(14)
少女(14)

■本編
少年のMO「激しい雨が降る街中を僕は走った。走って。走って。君を探した」

少年「どうか死なないで!」

少年のMO「君が発していたSOSにもっと早く気付いていたら。気が付けていたら。手遅れになるなんてことなかったんだ。それなのに、どうしてあんなひどい事、君に言ってしまったんだろう……。最悪の想像が僕の脳裏を駆け巡った」

少年「絶対に君を救うんだ!」

少年のMO「車が激しく通る大通りの陸橋に、赤い傘を差した君の姿を見つけた。君は半分身を乗り出して、眼下に走る灰色の車たちをじっと見送っていた。僕がほんのわずかでも君に手を伸ばすのが遅れていたら、君はそこに飛び込んでいたに違いない。君の腕をつかんだ僕を見て、君は静かに微笑んだ。その微笑みは震えていた」

少年「ご、ごめん……!」
少女「わたしこそ……」

少年のMO「君の瞳から涙が溢れるのを見て、僕は思わず君を強く抱きしめた」

少年「信じられるものなんて何もない! 誰からも愛されていない! そんな絶望の理屈なんて、もうどうだっていい! 僕じゃあ頼りにもならないかもしれないけれど。君がこの世界からいなくなるのだけは絶対に嫌なんだって! 強く強く思ったんだ!」

少女「ねえ、苦しいよ……」
少年「あ、ごめん」

少年のMO「急に自分のしていることが恥ずかしくなった僕を今度は君が抱きしめた。確かに君は生きている。僕の目からも涙が溢れた」

   (おしまい)
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