第3話 もう一度走り出す

文字数 565文字

「もう一度、走り出す」

■人物



■本編

女「もう一度始めるのに遅いことなんてないんだよ」

男のN「君がそう言ってくれたから。ようやく決心がついた気がする」

男のN「高校の頃はいつもゴールを目指してあんなに夢中に全力で走っていたのに。大学生になって、走ることをやめて、そのまま就職して、社会人になって、平凡で退屈な日常の中にいつの間にかうずもれてしまっていた。頑張らないのは楽だったから。でも、何かが欠けていた。東京に粉雪が降った日。君が僕に言った」

女「私はまた走った方がいいと思うな。走っていると生き生きしてたのに。本当にもう走らないの?」
男「あのころみたいには走れないから……」
女「あのころと比較するんじゃない。それってもう遠く消えてしまった過去の話じゃん。今の夢は?」
男「今の夢?」
女「触ってもすぐにとけてしまう、触れられない、そんな粉雪のような夢があったっていいじゃん! つかめないから目指すんだよ。だから、もう一度走りなよ!」

女「もう一度始めるのに遅いことなんてないんだよ」

男のN「その君の言葉で。僕の胸の中につっかえていた何かがとけた」

男のN「そして僕は今もう一度走り出す。今度はあのころとは違うゴールを目指して。背中を押してくれた君と、一緒に走るんだ」

   (おしまい)
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