(6)グルカの殴り込み
文字数 1,817文字
刻を少し遡る
公都郊外
拠点設営任務『黒き小鬼チーム』――
スワの者に協力すべく、グドゥ達小鬼 チームが住み馴れた“魔境”を離れたのが数日前のこと。
目的地である公都近郊の山麓に到着し、拠点の適地を捜し始めて早々に候補地たる洞穴を見つけたのは幸運でもあったが、それには運命を感じさせる流れが確かにあった。
そう。
人間には意味のない『小鬼のブレスレット』を持つ少女パユとの出会い。その少女パユを連れ歩いていたのが悪漢であり、どうやら秘密のアジトを築いているらしいこと。
果たして、グドゥ達は森の奥に洞穴を発見したのだが、思わぬハプニングによって拠点化の作業は着手すら許されぬ状況となってしまう。
先客 である悪漢達の存在?
普通ならそうであろうが、“強制立ち退き”の方針が決まっている以上、グドゥ達にとっては悩みもなくとりたてて問題視すべきことではない。
それよりも、安全確保のためにはじめた“森の掃除”に仲間のグルカが熱を上げ、猟果で一番になるまで止めようとしなくなったことが非常に厄介だった。
馬鹿げた悩みなのは確かだが、意固地になった相手に説得は効かず、また仲間内で力尽くともいかぬ以上、手の施しようがないのも事実。その上、自分達自身“魔境”の外への関心も高いため、周辺地域の現状を把握すべく付き合ってしまった面もある。
結果的に数日を狩猟ライフで過ごしてしまうことになったというわけだ。
「(……つい、いや、やはり俺が一番凄いことが分かったな)」
魔獣らしき首を足蹴にグルカが高らかに宣言するのをまばらな拍手でグドゥ達は健闘を称えた。「ついに」と心労のあまり口を滑らせたのは聞かなかったことにする。それより気になることがあるからだ。
「(あんな魔獣、この辺でいたか……?)」
「(いるはずない)」
長身のグナイと疑り合っているのを地べたに座り込んでいる小柄なグクワが切り捨てる。
「(あれは三つ山向こうの森に巣くっていたのを狩ってきたものだ)」
「(何だって?!)」
「(この目で見たから間違いない)」
淡々と語るのはいつも通りだが、声に疲れを滲ませるグクワの様子に「後を尾けたのか」と気付いて二人は呆れ返った。地べたに座り込んでいるのは足にきている証拠だろう。
そうした目で見てみれば、グルカもかすかに肩で息をしているのが分かる。足蹴にする右足の膝も震えているような……?
狩り尽くした周辺の森では無理と察して、猟場の範囲を相当広くとったようだが、さすがに限度というものがあるだろう。
強力な身体能力に物を言わせて、それでも体力を振り絞ったのは間違いあるまい。風体のみならず肉体的にもボロボロなのは当然の結果だ。
「(……お前が凄いことは、はじめから分かっていたことだ)」
嘆息を堪えてグドゥが重々しく告げれば。
「(! ――さすがはグドゥ。あんただけは見抜いていると思っていたぜ)」
「(けどな。俺たちだって意地がある。少しは華を持たせてくれてもいいんじゃないか? まあ、最後は結局、お前にぜんぶ持って行かれたがな)」
「これで最後」と話しの流れを持って行くグドゥに「うまい!」と二人が胸内で拳を高々と掲げる。これで「勝ち越すための勝負」なぞグルカが言い出すこともないはずだ。果たして――
「(悪いな。俺が望まなくとも、“強者の証明”ってのは自然とついちまうもんなんだよ)」
「(そういうことにしてやる)」
鼻高々にそれらしいことを口にするグルカへグドゥもほどほどに憎まれ口を叩いておく。この匙加減が難しいところだが、二人の小鬼もリーダー格の安定感に舌を巻いているはずだ。
「(ところでパユはさっきから何をしている?)」
「(え?)」
賢しき狼 の前に屈み込んで、右手の平を差し出している少女にグルカが声を掛けた。
空の掌を見れば、エサやりでないのは一目で分かる。人間ならば、大道芸人が見せる“お手”とも考えたが、そうではないだろう。たぶん。
ぽむりと前肢を頭の上に置かれた少女の姿を目にすれば。
どういう状況だ?
掌を差し出す少女に、前肢を少女の頭に乗せる犬――いや狼。
何とも奇妙な構図だが、これこそ種族の壁というものか、人間の考えなど小鬼であるグドゥ達に分かるはずもなく。
彼らなりに精一杯の解釈で感想を述べてみる。
「(……だいぶ打ち解けたみたいだな)」
「(も、もう仲良し……?)」
グドゥ達の、洞穴攻略――拠点設営作業の準備はようやく整った。
公都郊外
拠点設営任務『黒き小鬼チーム』――
スワの者に協力すべく、グドゥ達
目的地である公都近郊の山麓に到着し、拠点の適地を捜し始めて早々に候補地たる洞穴を見つけたのは幸運でもあったが、それには運命を感じさせる流れが確かにあった。
そう。
人間には意味のない『小鬼のブレスレット』を持つ少女パユとの出会い。その少女パユを連れ歩いていたのが悪漢であり、どうやら秘密のアジトを築いているらしいこと。
果たして、グドゥ達は森の奥に洞穴を発見したのだが、思わぬハプニングによって拠点化の作業は着手すら許されぬ状況となってしまう。
普通ならそうであろうが、“強制立ち退き”の方針が決まっている以上、グドゥ達にとっては悩みもなくとりたてて問題視すべきことではない。
それよりも、安全確保のためにはじめた“森の掃除”に仲間のグルカが熱を上げ、猟果で一番になるまで止めようとしなくなったことが非常に厄介だった。
馬鹿げた悩みなのは確かだが、意固地になった相手に説得は効かず、また仲間内で力尽くともいかぬ以上、手の施しようがないのも事実。その上、自分達自身“魔境”の外への関心も高いため、周辺地域の現状を把握すべく付き合ってしまった面もある。
結果的に数日を狩猟ライフで過ごしてしまうことになったというわけだ。
「(……つい、いや、やはり俺が一番凄いことが分かったな)」
魔獣らしき首を足蹴にグルカが高らかに宣言するのをまばらな拍手でグドゥ達は健闘を称えた。「ついに」と心労のあまり口を滑らせたのは聞かなかったことにする。それより気になることがあるからだ。
「(あんな魔獣、この辺でいたか……?)」
「(いるはずない)」
長身のグナイと疑り合っているのを地べたに座り込んでいる小柄なグクワが切り捨てる。
「(あれは三つ山向こうの森に巣くっていたのを狩ってきたものだ)」
「(何だって?!)」
「(この目で見たから間違いない)」
淡々と語るのはいつも通りだが、声に疲れを滲ませるグクワの様子に「後を尾けたのか」と気付いて二人は呆れ返った。地べたに座り込んでいるのは足にきている証拠だろう。
そうした目で見てみれば、グルカもかすかに肩で息をしているのが分かる。足蹴にする右足の膝も震えているような……?
狩り尽くした周辺の森では無理と察して、猟場の範囲を相当広くとったようだが、さすがに限度というものがあるだろう。
強力な身体能力に物を言わせて、それでも体力を振り絞ったのは間違いあるまい。風体のみならず肉体的にもボロボロなのは当然の結果だ。
「(……お前が凄いことは、はじめから分かっていたことだ)」
嘆息を堪えてグドゥが重々しく告げれば。
「(! ――さすがはグドゥ。あんただけは見抜いていると思っていたぜ)」
「(けどな。俺たちだって意地がある。少しは華を持たせてくれてもいいんじゃないか? まあ、最後は結局、お前にぜんぶ持って行かれたがな)」
「これで最後」と話しの流れを持って行くグドゥに「うまい!」と二人が胸内で拳を高々と掲げる。これで「勝ち越すための勝負」なぞグルカが言い出すこともないはずだ。果たして――
「(悪いな。俺が望まなくとも、“強者の証明”ってのは自然とついちまうもんなんだよ)」
「(そういうことにしてやる)」
鼻高々にそれらしいことを口にするグルカへグドゥもほどほどに憎まれ口を叩いておく。この匙加減が難しいところだが、二人の小鬼もリーダー格の安定感に舌を巻いているはずだ。
「(ところでパユはさっきから何をしている?)」
「(え?)」
空の掌を見れば、エサやりでないのは一目で分かる。人間ならば、大道芸人が見せる“お手”とも考えたが、そうではないだろう。たぶん。
ぽむりと前肢を頭の上に置かれた少女の姿を目にすれば。
どういう状況だ?
掌を差し出す少女に、前肢を少女の頭に乗せる犬――いや狼。
何とも奇妙な構図だが、これこそ種族の壁というものか、人間の考えなど小鬼であるグドゥ達に分かるはずもなく。
彼らなりに精一杯の解釈で感想を述べてみる。
「(……だいぶ打ち解けたみたいだな)」
「(も、もう仲良し……?)」
グドゥ達の、洞穴攻略――拠点設営作業の準備はようやく整った。