7.ジョシ会
文字数 8,089文字
次の日は朝早くから何やらバタバタしていた。
掃除などで人の気配がする時は、極力部屋で大人しくしていろと言われているので、こっそりドアに耳を当てて外の気配を探ったりしてみる。
掃除を短縮したり、地下に出入りしている感じ? こっち、とか、これ、とか言う声が聞こえてくる。
足音がひとつこちらに近づいてきた。
と。耳元でノックが聞こえて驚いた。
「どど、どうぞ」
どぎまぎしながらドアを開ける。
そこには朝食の乗ったお盆を持ってカエルが立っていた。
へらっと笑っている私を見て訝しそうな顔をしたけれど、中に入るとお盆を私に押し付けて、窓際の簡易机を椅子とベッドで挟む位置に移動させた。
呆気にとられている私を置き去りに、ひょいとお盆を奪って、そのまま机の上に置く。
「おまえはそっち」
ベッドを指差される。
だんだん扱いがぞんざいになってきてる気がする!
居候の身で文句も言えずに、すごすごとベッドに向かうと、カエルとすれ違った。
お盆の上にはパンの乗ったお皿と、ウィンナーと櫛形のフライドポテトが乗ったお皿、小ぶりの陶器の壷にスプーンが刺さっているものが乗っていた。
随分量が多いなぁと眺めていたら、ポットと木製のカップを二つ持ってカエルが戻ってきた。部屋の外にワゴンを置いてあったらしい。
ポットとカップを置いたら、机の上はもうぎゅうぎゅうだ。
ウィンナーをひとつひょいとつまみ上げ、口に放り込むと、少し私の方に机を押し付けてからカエルは座った。
昨日の所作がウソのように適当にカップにお茶を注ぎ、ひとつは私の前に差し出される。
昨日、専属だのと話していたので、朝から緊張して食事をとることになるのかと思っていたが、どうやら違うようだ。
カップを受け取って、いただきます、と呟いた。
「それ、意味とかあるのか?」
やはり複雑そうな顔でカエルが聞く。
「言葉の意味としては『頂戴します』とか『もらい受けます』って意味だけど……作ってくれた人や、生産者、自然の恵みなどへの感謝が篭もってるって言う人もいるから……。『召し上がれ』への返答だと思えば、おかしくない……よね?」
そこまで聞くと、物凄く意外そうな表情になった。
「まともな答えが返ってくるとは思わなかった。だが、まぁそう聞くと違和感は消えるかもな」
マトモって! むー!
「ここの言葉ではなんて言うんですか? そちらに言い換えれば少しは変な目で見られませんかね?」
嫌味に聞こえるように、丁寧に質問してみる。
「……スミーティオ、が一番近いか? けど……別にここに暮らす奴らはそこまで気にしないと思うから、堂々と口にしていればいい。異国の祈りだと思ってくれるさ」
「ビヒトさんもテリエルさんも、随分気にしてた気がするんですけど」
ぐ、と一瞬のどを詰まらせて、わざとらしくカエルはカップに口を付ける。
「……似たような言葉を聞いたことがあって……だから、皆、ちょっと驚いたんだ」
日本語を? いや、似たような、だから近い言語が無いとは言えないか……
「爺さんが居ればな。何か分かったかもしれんが」
「お爺さん? 物知りな方だったの?」
「世界中を文字通り飛び回ってた人だからな。少数民族とも友達になったとか、なんとか……そんな話をよく聞かされはしたな」
相槌を打ちながら、目線でフォークを探していたが、見つからない。
「なんだ?」
「……フォーク……無いのかなって」
きょとんと、ロールパンを2つに割ったまま、カエルがこちらを凝視した。
「摘まめそうなモンだったから、用意しなかったんだが……貧乏人なんだか、いいとこのお嬢様なんだか、さっぱりわからんな」
肩を竦めて立ち上がったので、私は慌てて引き止める。
「あ、いい! 取りに行かなくていいから! 私、超庶民だし! っていうか、私、朝も皆と食べると思ってたから、色々不思議でっ」
チョウ? と首を傾げながらもカエルは座り直す。
「昨日が特別だ。朝と昼は個人で取る方が普通だな。お嬢は朝から忙しくしてるし、俺は寝込んでることも多いから……」
彼はそこで一度言葉を切り、口角を少しだけ上げてにやりと私を見た。
「なんだ、給仕して欲しかったのか?」
「やめて。勘弁して……このスタイルがいいです」
慌ててポテトをひとつ口に放り込んだ。
別に、コンビニのオツマミ系をこうやって手で摘まんで食べることはよくあった。洗い物が面倒くさいから。
ただ、テリエル嬢みたいに、カエルもきっちり良いところのお坊ちゃましてるもんだと思っていたのだ。
とても仲のいい姉弟に見えるのに、ちょっと不思議だ。
……あれ? 姉弟じゃないっけ?
「お嬢も結婚するまではかなりいい加減だったぞ」
心の微妙なところを読み取られた。
それはそれで納得のいく情報だけれども……
「カエルとテリエルさんって……」
聞いていいのか判らなかったので、恐る恐る口に出す。
答えは意外とさらりと返ってきた。
「ユエとそう変わらない。俺は年季の入った居候だ」
さらりとはしていたけど、それ以上は聞ける感じでは無かった。
私は壷に入っていたマーマレード風のジャムをたっぷりパンにのせて齧り付く。
オレンジの爽やかな酸味の中に、ほろりと苦みが混じる。
美味しいのに、今の心情にハマりすぎていて、眉間に皺が寄ってしまった。
「2刻の鐘が鳴ったら応接室に行くように言われてるから、部屋に居ろよ」
手早く食器を片付けながらカエルが言う。
「2刻って……」
悪いとは思ったが、ここの時間の表現だと何時だか良く分からない。
カエルはぴたりと動きを止めて、まさかという顔でこちらを見る。
私は肩を竦ませるだけだ。
「後で教える。次に鐘が3つ鳴ったら2刻だ」
瞳に困惑の色を滲ませながら、慌ただしくカエルは出て行った。
ぽつりと残されて、深い溜息が出た。
とりあえず机と椅子を元に戻し、ついでに窓を開けて空気を入れ換える。
この部屋の窓は下の窓を押し上げて開けるタイプで、あまり大きくない。景色も見えづらいのが残念だ。
そういえば、と思い出して抽斗を開けてみる。
数枚の紙と筒状のケースに入った色鉛筆、昨日カエルが読んでいた本が入っていた。
本を取り出してぱらりと捲ってみる。
昨日は一瞬だったから謎文字しか見えなかったけど、じっくり見るとじんわりと日本語ルビが浮かんでくる。
少し読み進めてみると、冒険譚のようだった。ひとつの長い話ではなく、何話かで1冊になっている。
意外と面白くて、立ったまま読み耽ってしまった。
どこぞの村長の娘を魔狼から助け出す話の途中で、カエルが戻ってきた。
ノックに生返事をしたので呆れた表情で入ってきたが、立ったまま読んでいるのを見て苦笑された。
「面白いか?」
「うん。これ、本当の話? ただの創作?」
「かなり誇張された爺 の冒険譚。どこが装飾でどこが本当だか俺にもわからん。だが、本人に直接聞いた話とは結構違う」
「手作りなの?!」
印刷かと思っていたが、よく見ると物凄く綺麗な手書きのようだ。
「知り合いの吟遊詩人に話したら、纏められて売り出されたらしい」
売り上げの何パーセントかを、いまだに送ってくるということだ。
「爺さんの知り合いは変なのが多いんだよな」
と、そこで鐘が3つ聞こえてきた。
「――と、行く時間だ。後でゆっくり読め」
私は頷くと、本を抽斗に仕舞ってカエルに続いたのだった。
◇ ◆ ◇
応接室にはテリエル嬢の他に、メイドのような、エプロンを付けた恰幅のいい、人の良さそうなおばちゃんと、首にメジャーを掛けた、身なりのいい細身の女性、その助手と思われる大量の荷物を整理している若い女の子がいた。
カエルは私を案内し終えると、執事の礼をして下がっていく。
部屋の中はカーテンが閉められ、灯石が灯っていた。
「ユエさん、こちらへ」
テリエル嬢に促されて、彼女の隣に移動する。
「まず、うちの女中頭のアレッタよ。カエルやビヒトに言えないようなことがあれば、彼女に頼ってちょうだい。もちろん、私でもいいんだけど……ビヒトの目が無いことって少ないし」
彼女は少しおどけて肩を竦めた。
「今日はいい機会だから、仲良くなれるようよろしくね」
「あ、はい。ユエです。どうぞよろしくお願いします!」
アレッタさんにぴょこりと頭を下げると、戸惑いと驚きがないまぜになったような表情で彼女が口を開く。
「ちょっと変わってる、とは聞いていたけど……挨拶は頭を下げなくてもいいんだよ。あんたみたいなお嬢さんは、相手の目を見ながら優雅に膝を折ればいいんだ。アレッタだよ。気軽に接しておくれ」
頭は下げずに、優雅に膝を折る……
私は映画で見たドレスの貴婦人の挨拶を思い出す。
「私はお嬢様なんてもんじゃないですよ…」
と、いいつつスカートを両手で摘まんで、なるべく優雅に膝を落としてみた。
「よろしくお願いします」
今度は、おや、という声が漏れる。
「出来るじゃないか。セリフといい、昔のテリエルお嬢様を思い出すね」
「アレッタ。余計なことは言わないで頂戴」
ぷくっとテリエル嬢が頬を膨らませる。
「奥様、お客様の前ですよ」
アレッタは呆れ顔だ。
「いいのよ。ここに居るのは気心知れた者だけなんだから。今更取り繕っても仕方ないでしょ」
細身の女性も女の子もクスクス笑っている。
「ユエさん、そちらにいるのが服飾品を扱うロレットと見習いのヴィヴィ。どちらも昔からうちに来てくれているお馴染みさんよ」
「よろしく。ユエさん」
2人とも優雅な挨拶だ。
「よろしくお願いします……それと、あの、なんかこそばゆいんで、ユエ、と呼び捨てでお願いします」
私はぐるりとみんなを見渡してお願いした。
皆呼び捨てなのに、自分だけさん付けされると気持ち悪い。テリエル嬢にも言いたかったので、丁度良い機会だ。
テリエル嬢は面白そうに目を輝かせて微笑んだ。
「じゃあ、ユエ。まずは脱いでね」
「え?」
語尾にハートマークが付いていそうなほど甘ったるい声だったが、お陰で内容が頭に入ってこなかった。
気が付くとテリエル嬢以外の3人に寄って集られてパンツ一丁にされていた。
ひやあああああああああああ?!
あまりに唐突過ぎて声も出ない。頭の中で絶叫しながら『?』マークを飛び交わせる。
「腕を上げて」
ロレットさんの指示に反射的に従う。
何か細いものが体に巻きつけられ、採寸か、とようやく気付いた。
ちょっと冷静になると、私のブラをテリエル嬢とアレッタが矯めつ眇めつ眺めていた。
「その下穿きも随分生地が少ないのよね……採寸にはとても良さそうだけど……」
パンツまで剥がされそうだよ!
そう思っていたら、案の定、採寸が終わってすぐにズロースのような下着を渡され、穿き替えるように言われる。
お願い、お願いだから、洗濯してからじっくり見てね!
私の心の叫びが通じたのか、アレッタが下着類を持って出ていく。
いつの間にかドアと私の間に衝立が立っていて、ドアを開けても見えないようになっていた。
すぐにブラトップが渡される。今回のは胸下を紐で調節できるキャミソールタイプで、お尻が隠れるくらいの丈だった。
夏ならこの格好で水遊びできる自信がある。
「さて、テリエル様。どうしましょうか?」
すべてのサイズを記入し終え、ロレットさんは肉食獣のような目で私を見た。
「そうねぇ。まずはカエルの好きそうな清楚系でしょ。さっき着てたのに似た感じのがいいわ。それから――」
すでに、私の口の挟める雰囲気ではなくなっているけれど、1つだけ譲れないことがある。
「……あの、お任せしますが、スカートの丈だけは……少し短めで……」
聞いているのか、いないのか。次から次へと着せ替えられる。
一通り玩具にされた後、ようやくシンプルな普段着を着せられるようになった。
「帝国では上下別々に仕立てて着回すというファッションも徐々に出てきているようです。ユエさんなら童顔ですし、多少丈が短くとも大丈夫でしょう。開き直れば案外流行となるかもしれませんよ」
う〜ん、と丈を脹脛 、膝下と難しい顔で上げ下げする。
「ズボン状のはダメなんですよね? 黒いタイツでも足の形状が出ちゃうとダメなんですか?」
きょとん、とロレットさんが顔を上げる。
「男装がお好み?」
「男装とまではいかなくても……細身のズボンで、サイドに編上げとかリボンをあしらうとかフリルを付けるとかしても、男性ぽいですかね……」
「あら。面白い?」
きらり、と目を光らせて、ささっと何かをデッサンする。
「布地もプリント生地を使うとか……」
レギンスやトレンカを思い浮かべて、適当に言ってみると、ロレットさんはふんふんと頷きながら何やら書き足す。
「面白いから作ってみるわ。膝下丈のこのワンピースに合わせてね。えぇと、次は……」
「ロレット、前回私に作ったシュミーズ、ユエ用にも仕立ててくれない?」
うふふ。と企み顔でテリエル嬢が口を挟む。
嫌な予感しかしない。
「あれは……ユエさんにはちょっと大人すぎますでしょう?」
「いいのよ。そのうちちょっと薬を盛って、朝寝坊したユエをカエルに起こさせるの」
ロレットさんの苦笑を見ていると、もう企みの全貌が見えた気がする。
ってか、気軽に薬を盛るとか言わないで!
このお嬢様……奥様か。は、いったい何処に向かっているのだろう……
「要りませんからね? それなら、沐浴着のズボンの長い奴を作って欲しいです」
2人の視線がこちらを向いた。
「裾に紐を入れて、絞れるようにして……」
完全に作務衣だ。動きやすいし、楽だし。なんならパジャマ代わりにもなるし。
「ちなみに、いつ着るつもりなのかしら?」
「え? 作業着にとか。寝る時とか」
ロレットさんもテリエル嬢も複雑そうな表情だ。
え? そんなにダメ?
「お客様の前に出られる格好ではないですから……部屋着として着たいというなら、お作りしますけど」
どうせ暫くは館から出られないのだ。私は大きく頷いた。
「お願いします」
空気が少し落ち着いたところで、アレッタが戻ってきた。
手には初日に来ていたパーカーとショートパンツ、それにさっき毟り取られた下着も乗っていた。
あれ!? 洗濯は?!
「奥様も気になってると思ってね、乾燥まで一気にやってきたよ」
カラカラと笑って、そんなことを言う。
もしや、乾燥機があるのでしょうか。そっと触れてみるとほかほかしていた。
色鉛筆が珍しいのに、乾燥機は普通にあるって……
一見中世のヨーロッパ風なのかなと思わせておいて、ギャップが激しい。
そりゃあ、いくら似ていても同じ歴史を辿るという訳ではないだろうけど。
「のども乾いただろうし、ちょっと休憩してお茶にしよう」
端に寄せられていた長テーブルをよいしょ、と動かしてとりあえず全員が座れるようにセッティングする。
洗濯された私の服はテリエル嬢の腕の中だ。
アレッタに言われるままに、焼き菓子を切り分けて配膳する。
匂いからするとチーズケーキっぽい。んふふ。
アレッタがお茶を配り終わって座るのを見計らって、テリエル嬢が声を掛ける。
「どうぞ。召し上がれ」
「いただき……ます」
途中ではっとしたが、カエルの言う通り、アレッタやロレットさん達はちょっと不思議な顔をしたくらいでそれほど驚きはないようだ。
「お祈りかい? そのくらい短いといいね。帝国のオツシークだかいう神様には長ったらしいお祈りを捧げないといけないらしいけど、覚えられる気がしないよ」
「オトゥシーク、よ。アレッタ」
ふふ、と笑ってテリエル嬢が訂正する。
「数年前に新しく赴任してきた神官さん目当てに改宗する若い子が多いって、酒場のオヤジが嘆いてたよ。ヴィヴィ、あんたもかい?」
「い、いえ。私は……」
今まで黙々と仕事をこなしていた女の子が、急に話を振られてあたふたしてる。
小さく、友達の中にはいるけど、と付け足していた。
「あたしゃまだ会ったことないんだけど、そんなに見目がいいのかい?」
呆れ半分、興味半分でアレッタの質問は続く。
「それは、はい。とても。天からの御使いです、と言われても信じられるくらいです。さらりと長い青みがかった銀髪も、薄く光っているような瞳も。何よりお声が素敵なんです。するりと染み入るようなテノールの……」
するすると流れてくる賛辞の言葉に、雇い主のロレットさんも呆れ顔だ。
「宣教師としては、確かにいい人材なのね。ヴィヴィ、そういう人物にうちの服を着てもらえるようにしなくちゃね」
「は、はい」
近づくならついでに商売もしろ、と言外に言えるロレットさんは、かなりのやり手のようだ。
「うちもいくらか寄付しているし、お会いしたこともあるけれど……彼は『加護持ち』だし、教会側は手放さないでしょうね。こんな僻地に赴任させられるなんて、ちょっと疑いたくもなるのだけど、僻地にも帝国の力を届かせたい、と理解すべきなのかしら」
神官は結婚できないらしい。
それを盾に複数のご婦人と関係を持つような腐った神官もいるから、騙されちゃ駄目よ、と優しく諭される。
テリエル嬢はその麗しの神官を警戒しているようだ。
ヴィヴィはそんなんじゃないです、と顔を上気させてぱたぱたと手を振った。小さな笑いが漏れる。
「ユエも。近いうちに教会で視てもらうけれど『加護持ち』だと教会に無理やり取り込まれたりもし兼ねないから、充分に気を付けてね?」
宗教にも、綺麗な顔のアイドルにも、のめり込むタイプではないので大丈夫だろう。しおらしく、はい、と頷いておく。
でも、無理やりってところはどう気を付ければいいのやら。
そういえば、二か国語放送に随分慣れたのか、聞き取りが楽になっている。日本語じゃない方の音量が下がっているというか。
宗教を広めたい時って、確かに通訳って大事だよね。
もし、私がこの屋敷を出なければならないのなら、教会に庇護を求めるという生き方もあるということだ。
シスター? 私の中で一番遠い職業だけどね!
2刻の2つ目の鐘が鳴って、お茶会(と採寸)はお開きになった。
後半はブラとパーカーの素材で盛り上がり、似たようなものが作れないかロレットさんが持ち帰って研究するとのことだ。パーカーは素材以外は普通の編み物なので手元に帰ってきた。形は面白がられたが、所詮袖付きのマントとそう変わらない。
ヴィヴィとはアイドル神官の話をこっそり振ったり、編み物の話でちょっとだけ仲良くなった。
彼女らが帰った後、私は大量の下着という名のブラトップを抱えて部屋に戻る。ワンピの方は丈の直しが多かったので後日また、ということになったが、正直テリエル嬢が何をどのくらい注文したのか把握できていない。
このクローゼットに収まるのかなぁ……
というか、買ってもらってよかったんだろうか。借金という形で働いて返せる額なのか?
勢いに押されて流されたけど、なんか、色々不安だなぁ……
掃除などで人の気配がする時は、極力部屋で大人しくしていろと言われているので、こっそりドアに耳を当てて外の気配を探ったりしてみる。
掃除を短縮したり、地下に出入りしている感じ? こっち、とか、これ、とか言う声が聞こえてくる。
足音がひとつこちらに近づいてきた。
と。耳元でノックが聞こえて驚いた。
「どど、どうぞ」
どぎまぎしながらドアを開ける。
そこには朝食の乗ったお盆を持ってカエルが立っていた。
へらっと笑っている私を見て訝しそうな顔をしたけれど、中に入るとお盆を私に押し付けて、窓際の簡易机を椅子とベッドで挟む位置に移動させた。
呆気にとられている私を置き去りに、ひょいとお盆を奪って、そのまま机の上に置く。
「おまえはそっち」
ベッドを指差される。
だんだん扱いがぞんざいになってきてる気がする!
居候の身で文句も言えずに、すごすごとベッドに向かうと、カエルとすれ違った。
お盆の上にはパンの乗ったお皿と、ウィンナーと櫛形のフライドポテトが乗ったお皿、小ぶりの陶器の壷にスプーンが刺さっているものが乗っていた。
随分量が多いなぁと眺めていたら、ポットと木製のカップを二つ持ってカエルが戻ってきた。部屋の外にワゴンを置いてあったらしい。
ポットとカップを置いたら、机の上はもうぎゅうぎゅうだ。
ウィンナーをひとつひょいとつまみ上げ、口に放り込むと、少し私の方に机を押し付けてからカエルは座った。
昨日の所作がウソのように適当にカップにお茶を注ぎ、ひとつは私の前に差し出される。
昨日、専属だのと話していたので、朝から緊張して食事をとることになるのかと思っていたが、どうやら違うようだ。
カップを受け取って、いただきます、と呟いた。
「それ、意味とかあるのか?」
やはり複雑そうな顔でカエルが聞く。
「言葉の意味としては『頂戴します』とか『もらい受けます』って意味だけど……作ってくれた人や、生産者、自然の恵みなどへの感謝が篭もってるって言う人もいるから……。『召し上がれ』への返答だと思えば、おかしくない……よね?」
そこまで聞くと、物凄く意外そうな表情になった。
「まともな答えが返ってくるとは思わなかった。だが、まぁそう聞くと違和感は消えるかもな」
マトモって! むー!
「ここの言葉ではなんて言うんですか? そちらに言い換えれば少しは変な目で見られませんかね?」
嫌味に聞こえるように、丁寧に質問してみる。
「……スミーティオ、が一番近いか? けど……別にここに暮らす奴らはそこまで気にしないと思うから、堂々と口にしていればいい。異国の祈りだと思ってくれるさ」
「ビヒトさんもテリエルさんも、随分気にしてた気がするんですけど」
ぐ、と一瞬のどを詰まらせて、わざとらしくカエルはカップに口を付ける。
「……似たような言葉を聞いたことがあって……だから、皆、ちょっと驚いたんだ」
日本語を? いや、似たような、だから近い言語が無いとは言えないか……
「爺さんが居ればな。何か分かったかもしれんが」
「お爺さん? 物知りな方だったの?」
「世界中を文字通り飛び回ってた人だからな。少数民族とも友達になったとか、なんとか……そんな話をよく聞かされはしたな」
相槌を打ちながら、目線でフォークを探していたが、見つからない。
「なんだ?」
「……フォーク……無いのかなって」
きょとんと、ロールパンを2つに割ったまま、カエルがこちらを凝視した。
「摘まめそうなモンだったから、用意しなかったんだが……貧乏人なんだか、いいとこのお嬢様なんだか、さっぱりわからんな」
肩を竦めて立ち上がったので、私は慌てて引き止める。
「あ、いい! 取りに行かなくていいから! 私、超庶民だし! っていうか、私、朝も皆と食べると思ってたから、色々不思議でっ」
チョウ? と首を傾げながらもカエルは座り直す。
「昨日が特別だ。朝と昼は個人で取る方が普通だな。お嬢は朝から忙しくしてるし、俺は寝込んでることも多いから……」
彼はそこで一度言葉を切り、口角を少しだけ上げてにやりと私を見た。
「なんだ、給仕して欲しかったのか?」
「やめて。勘弁して……このスタイルがいいです」
慌ててポテトをひとつ口に放り込んだ。
別に、コンビニのオツマミ系をこうやって手で摘まんで食べることはよくあった。洗い物が面倒くさいから。
ただ、テリエル嬢みたいに、カエルもきっちり良いところのお坊ちゃましてるもんだと思っていたのだ。
とても仲のいい姉弟に見えるのに、ちょっと不思議だ。
……あれ? 姉弟じゃないっけ?
「お嬢も結婚するまではかなりいい加減だったぞ」
心の微妙なところを読み取られた。
それはそれで納得のいく情報だけれども……
「カエルとテリエルさんって……」
聞いていいのか判らなかったので、恐る恐る口に出す。
答えは意外とさらりと返ってきた。
「ユエとそう変わらない。俺は年季の入った居候だ」
さらりとはしていたけど、それ以上は聞ける感じでは無かった。
私は壷に入っていたマーマレード風のジャムをたっぷりパンにのせて齧り付く。
オレンジの爽やかな酸味の中に、ほろりと苦みが混じる。
美味しいのに、今の心情にハマりすぎていて、眉間に皺が寄ってしまった。
「2刻の鐘が鳴ったら応接室に行くように言われてるから、部屋に居ろよ」
手早く食器を片付けながらカエルが言う。
「2刻って……」
悪いとは思ったが、ここの時間の表現だと何時だか良く分からない。
カエルはぴたりと動きを止めて、まさかという顔でこちらを見る。
私は肩を竦ませるだけだ。
「後で教える。次に鐘が3つ鳴ったら2刻だ」
瞳に困惑の色を滲ませながら、慌ただしくカエルは出て行った。
ぽつりと残されて、深い溜息が出た。
とりあえず机と椅子を元に戻し、ついでに窓を開けて空気を入れ換える。
この部屋の窓は下の窓を押し上げて開けるタイプで、あまり大きくない。景色も見えづらいのが残念だ。
そういえば、と思い出して抽斗を開けてみる。
数枚の紙と筒状のケースに入った色鉛筆、昨日カエルが読んでいた本が入っていた。
本を取り出してぱらりと捲ってみる。
昨日は一瞬だったから謎文字しか見えなかったけど、じっくり見るとじんわりと日本語ルビが浮かんでくる。
少し読み進めてみると、冒険譚のようだった。ひとつの長い話ではなく、何話かで1冊になっている。
意外と面白くて、立ったまま読み耽ってしまった。
どこぞの村長の娘を魔狼から助け出す話の途中で、カエルが戻ってきた。
ノックに生返事をしたので呆れた表情で入ってきたが、立ったまま読んでいるのを見て苦笑された。
「面白いか?」
「うん。これ、本当の話? ただの創作?」
「かなり誇張された
「手作りなの?!」
印刷かと思っていたが、よく見ると物凄く綺麗な手書きのようだ。
「知り合いの吟遊詩人に話したら、纏められて売り出されたらしい」
売り上げの何パーセントかを、いまだに送ってくるということだ。
「爺さんの知り合いは変なのが多いんだよな」
と、そこで鐘が3つ聞こえてきた。
「――と、行く時間だ。後でゆっくり読め」
私は頷くと、本を抽斗に仕舞ってカエルに続いたのだった。
◇ ◆ ◇
応接室にはテリエル嬢の他に、メイドのような、エプロンを付けた恰幅のいい、人の良さそうなおばちゃんと、首にメジャーを掛けた、身なりのいい細身の女性、その助手と思われる大量の荷物を整理している若い女の子がいた。
カエルは私を案内し終えると、執事の礼をして下がっていく。
部屋の中はカーテンが閉められ、灯石が灯っていた。
「ユエさん、こちらへ」
テリエル嬢に促されて、彼女の隣に移動する。
「まず、うちの女中頭のアレッタよ。カエルやビヒトに言えないようなことがあれば、彼女に頼ってちょうだい。もちろん、私でもいいんだけど……ビヒトの目が無いことって少ないし」
彼女は少しおどけて肩を竦めた。
「今日はいい機会だから、仲良くなれるようよろしくね」
「あ、はい。ユエです。どうぞよろしくお願いします!」
アレッタさんにぴょこりと頭を下げると、戸惑いと驚きがないまぜになったような表情で彼女が口を開く。
「ちょっと変わってる、とは聞いていたけど……挨拶は頭を下げなくてもいいんだよ。あんたみたいなお嬢さんは、相手の目を見ながら優雅に膝を折ればいいんだ。アレッタだよ。気軽に接しておくれ」
頭は下げずに、優雅に膝を折る……
私は映画で見たドレスの貴婦人の挨拶を思い出す。
「私はお嬢様なんてもんじゃないですよ…」
と、いいつつスカートを両手で摘まんで、なるべく優雅に膝を落としてみた。
「よろしくお願いします」
今度は、おや、という声が漏れる。
「出来るじゃないか。セリフといい、昔のテリエルお嬢様を思い出すね」
「アレッタ。余計なことは言わないで頂戴」
ぷくっとテリエル嬢が頬を膨らませる。
「奥様、お客様の前ですよ」
アレッタは呆れ顔だ。
「いいのよ。ここに居るのは気心知れた者だけなんだから。今更取り繕っても仕方ないでしょ」
細身の女性も女の子もクスクス笑っている。
「ユエさん、そちらにいるのが服飾品を扱うロレットと見習いのヴィヴィ。どちらも昔からうちに来てくれているお馴染みさんよ」
「よろしく。ユエさん」
2人とも優雅な挨拶だ。
「よろしくお願いします……それと、あの、なんかこそばゆいんで、ユエ、と呼び捨てでお願いします」
私はぐるりとみんなを見渡してお願いした。
皆呼び捨てなのに、自分だけさん付けされると気持ち悪い。テリエル嬢にも言いたかったので、丁度良い機会だ。
テリエル嬢は面白そうに目を輝かせて微笑んだ。
「じゃあ、ユエ。まずは脱いでね」
「え?」
語尾にハートマークが付いていそうなほど甘ったるい声だったが、お陰で内容が頭に入ってこなかった。
気が付くとテリエル嬢以外の3人に寄って集られてパンツ一丁にされていた。
ひやあああああああああああ?!
あまりに唐突過ぎて声も出ない。頭の中で絶叫しながら『?』マークを飛び交わせる。
「腕を上げて」
ロレットさんの指示に反射的に従う。
何か細いものが体に巻きつけられ、採寸か、とようやく気付いた。
ちょっと冷静になると、私のブラをテリエル嬢とアレッタが矯めつ眇めつ眺めていた。
「その下穿きも随分生地が少ないのよね……採寸にはとても良さそうだけど……」
パンツまで剥がされそうだよ!
そう思っていたら、案の定、採寸が終わってすぐにズロースのような下着を渡され、穿き替えるように言われる。
お願い、お願いだから、洗濯してからじっくり見てね!
私の心の叫びが通じたのか、アレッタが下着類を持って出ていく。
いつの間にかドアと私の間に衝立が立っていて、ドアを開けても見えないようになっていた。
すぐにブラトップが渡される。今回のは胸下を紐で調節できるキャミソールタイプで、お尻が隠れるくらいの丈だった。
夏ならこの格好で水遊びできる自信がある。
「さて、テリエル様。どうしましょうか?」
すべてのサイズを記入し終え、ロレットさんは肉食獣のような目で私を見た。
「そうねぇ。まずはカエルの好きそうな清楚系でしょ。さっき着てたのに似た感じのがいいわ。それから――」
すでに、私の口の挟める雰囲気ではなくなっているけれど、1つだけ譲れないことがある。
「……あの、お任せしますが、スカートの丈だけは……少し短めで……」
聞いているのか、いないのか。次から次へと着せ替えられる。
一通り玩具にされた後、ようやくシンプルな普段着を着せられるようになった。
「帝国では上下別々に仕立てて着回すというファッションも徐々に出てきているようです。ユエさんなら童顔ですし、多少丈が短くとも大丈夫でしょう。開き直れば案外流行となるかもしれませんよ」
う〜ん、と丈を
「ズボン状のはダメなんですよね? 黒いタイツでも足の形状が出ちゃうとダメなんですか?」
きょとん、とロレットさんが顔を上げる。
「男装がお好み?」
「男装とまではいかなくても……細身のズボンで、サイドに編上げとかリボンをあしらうとかフリルを付けるとかしても、男性ぽいですかね……」
「あら。面白い?」
きらり、と目を光らせて、ささっと何かをデッサンする。
「布地もプリント生地を使うとか……」
レギンスやトレンカを思い浮かべて、適当に言ってみると、ロレットさんはふんふんと頷きながら何やら書き足す。
「面白いから作ってみるわ。膝下丈のこのワンピースに合わせてね。えぇと、次は……」
「ロレット、前回私に作ったシュミーズ、ユエ用にも仕立ててくれない?」
うふふ。と企み顔でテリエル嬢が口を挟む。
嫌な予感しかしない。
「あれは……ユエさんにはちょっと大人すぎますでしょう?」
「いいのよ。そのうちちょっと薬を盛って、朝寝坊したユエをカエルに起こさせるの」
ロレットさんの苦笑を見ていると、もう企みの全貌が見えた気がする。
ってか、気軽に薬を盛るとか言わないで!
このお嬢様……奥様か。は、いったい何処に向かっているのだろう……
「要りませんからね? それなら、沐浴着のズボンの長い奴を作って欲しいです」
2人の視線がこちらを向いた。
「裾に紐を入れて、絞れるようにして……」
完全に作務衣だ。動きやすいし、楽だし。なんならパジャマ代わりにもなるし。
「ちなみに、いつ着るつもりなのかしら?」
「え? 作業着にとか。寝る時とか」
ロレットさんもテリエル嬢も複雑そうな表情だ。
え? そんなにダメ?
「お客様の前に出られる格好ではないですから……部屋着として着たいというなら、お作りしますけど」
どうせ暫くは館から出られないのだ。私は大きく頷いた。
「お願いします」
空気が少し落ち着いたところで、アレッタが戻ってきた。
手には初日に来ていたパーカーとショートパンツ、それにさっき毟り取られた下着も乗っていた。
あれ!? 洗濯は?!
「奥様も気になってると思ってね、乾燥まで一気にやってきたよ」
カラカラと笑って、そんなことを言う。
もしや、乾燥機があるのでしょうか。そっと触れてみるとほかほかしていた。
色鉛筆が珍しいのに、乾燥機は普通にあるって……
一見中世のヨーロッパ風なのかなと思わせておいて、ギャップが激しい。
そりゃあ、いくら似ていても同じ歴史を辿るという訳ではないだろうけど。
「のども乾いただろうし、ちょっと休憩してお茶にしよう」
端に寄せられていた長テーブルをよいしょ、と動かしてとりあえず全員が座れるようにセッティングする。
洗濯された私の服はテリエル嬢の腕の中だ。
アレッタに言われるままに、焼き菓子を切り分けて配膳する。
匂いからするとチーズケーキっぽい。んふふ。
アレッタがお茶を配り終わって座るのを見計らって、テリエル嬢が声を掛ける。
「どうぞ。召し上がれ」
「いただき……ます」
途中ではっとしたが、カエルの言う通り、アレッタやロレットさん達はちょっと不思議な顔をしたくらいでそれほど驚きはないようだ。
「お祈りかい? そのくらい短いといいね。帝国のオツシークだかいう神様には長ったらしいお祈りを捧げないといけないらしいけど、覚えられる気がしないよ」
「オトゥシーク、よ。アレッタ」
ふふ、と笑ってテリエル嬢が訂正する。
「数年前に新しく赴任してきた神官さん目当てに改宗する若い子が多いって、酒場のオヤジが嘆いてたよ。ヴィヴィ、あんたもかい?」
「い、いえ。私は……」
今まで黙々と仕事をこなしていた女の子が、急に話を振られてあたふたしてる。
小さく、友達の中にはいるけど、と付け足していた。
「あたしゃまだ会ったことないんだけど、そんなに見目がいいのかい?」
呆れ半分、興味半分でアレッタの質問は続く。
「それは、はい。とても。天からの御使いです、と言われても信じられるくらいです。さらりと長い青みがかった銀髪も、薄く光っているような瞳も。何よりお声が素敵なんです。するりと染み入るようなテノールの……」
するすると流れてくる賛辞の言葉に、雇い主のロレットさんも呆れ顔だ。
「宣教師としては、確かにいい人材なのね。ヴィヴィ、そういう人物にうちの服を着てもらえるようにしなくちゃね」
「は、はい」
近づくならついでに商売もしろ、と言外に言えるロレットさんは、かなりのやり手のようだ。
「うちもいくらか寄付しているし、お会いしたこともあるけれど……彼は『加護持ち』だし、教会側は手放さないでしょうね。こんな僻地に赴任させられるなんて、ちょっと疑いたくもなるのだけど、僻地にも帝国の力を届かせたい、と理解すべきなのかしら」
神官は結婚できないらしい。
それを盾に複数のご婦人と関係を持つような腐った神官もいるから、騙されちゃ駄目よ、と優しく諭される。
テリエル嬢はその麗しの神官を警戒しているようだ。
ヴィヴィはそんなんじゃないです、と顔を上気させてぱたぱたと手を振った。小さな笑いが漏れる。
「ユエも。近いうちに教会で視てもらうけれど『加護持ち』だと教会に無理やり取り込まれたりもし兼ねないから、充分に気を付けてね?」
宗教にも、綺麗な顔のアイドルにも、のめり込むタイプではないので大丈夫だろう。しおらしく、はい、と頷いておく。
でも、無理やりってところはどう気を付ければいいのやら。
そういえば、二か国語放送に随分慣れたのか、聞き取りが楽になっている。日本語じゃない方の音量が下がっているというか。
宗教を広めたい時って、確かに通訳って大事だよね。
これ
がどの言語にも対応するという加護なら、無理やりにでも欲しがるというのに真実味が増す。もし、私がこの屋敷を出なければならないのなら、教会に庇護を求めるという生き方もあるということだ。
シスター? 私の中で一番遠い職業だけどね!
2刻の2つ目の鐘が鳴って、お茶会(と採寸)はお開きになった。
後半はブラとパーカーの素材で盛り上がり、似たようなものが作れないかロレットさんが持ち帰って研究するとのことだ。パーカーは素材以外は普通の編み物なので手元に帰ってきた。形は面白がられたが、所詮袖付きのマントとそう変わらない。
ヴィヴィとはアイドル神官の話をこっそり振ったり、編み物の話でちょっとだけ仲良くなった。
彼女らが帰った後、私は大量の下着という名のブラトップを抱えて部屋に戻る。ワンピの方は丈の直しが多かったので後日また、ということになったが、正直テリエル嬢が何をどのくらい注文したのか把握できていない。
このクローゼットに収まるのかなぁ……
というか、買ってもらってよかったんだろうか。借金という形で働いて返せる額なのか?
勢いに押されて流されたけど、なんか、色々不安だなぁ……