第29話 若者たちの集結(3)

文字数 1,929文字

「そうだったんですか。私、感動しました」
 ラーナは目を輝かせる。ミランドラが尊敬して止まない、マークフレアーに早く会ってみたいという気持ちが高まる。
「あのときは、サルフルム副司令も反対したんだ。ただ一人だけ、賛成してくれたのが、ロラルドだったんだ」
「そうなのね」
 ラーナが嬉しそうに見つめる。飄々として掴みどころがないが、偏見を持たない男であることは幼い時から知っている。
「まあな」
 それ以来、ミランドラはロラルドを信頼していた。隊員達同士も交流することが多く、こうした飲み会も頻繁だ。
「第七騎兵隊の兵営は元々は騎士学校だった建物を改築しているんだ。今もその役割を果たしている。だから、君達、騎兵団入団志願者は第七騎兵隊の兵営に集められるのだ」
 そういうことなのか。とミランドラの話に納得する。
「そして転機となったのは三年前だ。我々はマークフレアー様よりドラングル一味の討伐を命じられた」
 ミランドラの話は続く。
「あのドラングル一味のことですか」
 ラーナが驚く。
「その話、私知っています」リンが話す。
 ドラングル一味とは、ローラル平原を縄張りとする盗賊騎士団のことだ。ローラル平原の西にある町パキルを本拠地としており、総勢は三千を超える。
 ドラングルは元々騎士だった男だ。その武はかなりのものであり、手下達も腕自慢が揃っている。盗賊騎士団と言うのは、組織化した騎士崩れの集団の総称である。
 パキルにも、騎兵団は存在するが、地方長官サンドルはドラングルとグルだというのが、公然の秘密だった。只、盗賊騎士団と正規の騎兵団三千を合わせると六千もの軍勢となるため、討伐軍を組織するのが難しいという状況だった。
 また、サンドルは、都エメラルドやミネロに多額の貢ぎ物をして、征伐軍が派遣されるのを妨害する工作に余念がなかった。
「ルーマニデア様の威光が及ぶテネアに、ドラングル一味が近づくことは滅多に無いのだが、長官がマークフレアー様に代わった間隙をついて勢力拡大に動いたのだろう。三年前に五百もの盗賊騎士団が押し寄せてきたのだ」
 それは盗賊団というよりも軍隊といえた。その時、盗賊達を率いていたのは、トーマンという騎士崩れの男だった。
 ドラングルの片腕というべき存在で、マウト流剣術の達人でもあった。テネア周辺の村々や集落を襲い始めたトーマン率いる五百の盗賊達にミランドラ率いる第七騎兵隊が立ち向かったのである。
 女騎士だけで編成される第七騎兵団に討伐命令が出されたのを他の騎兵隊長達は口々に反対し命令の撤回を訴えた。あのサルフルムも、単独ではなく、もう一隊と共同で任務に当たらせるべきと主張した。
 だが、マークフレアーは自分の意志を変えなかった。
「出来るわね、ミランドラ」
「はい。必ずや、盗賊共を討ち取ってみせます」
 そう力強く答えたミランドラはすぐさま、騎兵隊を指揮し、盗賊団征伐に向かった。
「我々はドラングル一味を壊滅状態にしたんだ」
 第七騎兵隊が上げた成果に皆は驚愕した。盗賊団でありながら、その武力で各地の騎兵団からも恐れられるドラングル一味をあっという間に壊滅させたからである。
 女騎士達だと甜めたトーマンは、騎兵隊を殲滅しようと平原で迎え打ったのだが、逆に殲滅させられる結果となった。
 中でも人々が驚愕したのが、ミランドラの武勇だった。相手の頭目トーマンと一騎討ちとなったミランドラは一撃の槍で相手を倒したのである。
 一撃のミランドラ、畏敬の念を持って人々は彼女をそう呼んだ。もはや騎兵隊の誰もが女だから男よりも劣ると言う者はいなくなった。
「私、知っています。その話はテネアで有名です」リンが我が事のように自慢気に言う。
「そうか、君達もマークフレアー様に尽くし、テネアの民を護れるよう頑張って欲しい」
「はい」「分かりました」
「うん。二人共、いい返事だ。料理はまだまだある。しっかり食べろ」
 そう言ってサランドラは、ロラルド達の隣に席を移した。
「隊長は面倒見がいいから、安心しな」
 かなりの長身で茶色の髪が色っぽい女性が入れ替わりに席に着いた。ミランドラの腹心であるサンディだ。
 180cmもの長身を生かした武術は男勝りであるが、中でもマウト流弓術は達人の域に達している。25歳の彼女は第七騎兵隊の中でもベテランの騎士だった。
「そう、私達も応援しているから、頑張って」
 ミランドラのもう一人の腹心、ロアナが声を掛ける。22歳の黒髪のショート・カットで、小柄な彼女もマウト流武術全般に優れた遣い手だ。
 凛とした先輩騎士達の話にラーナとリンの二人は心頭する。早く騎士になりたい、そして、テンペスト流剣術の再興の手助けをするのだと、改めてそう決意するラーナだった。
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