第58話
文字数 2,827文字
「どうしたの急に」
「急ではないです。たまに考えていたんですよ。でも、訊きにくくて…」
リマは皆の事が好きだ。しかし、いくら考えてもアルドがアメリアに言う〝好き〟とは違う気がするのだ。
「アルドさんがいつもと少し違うのは…あの時からですよね。レオンさんの…。最初は勝手な事をしたから怒っているんだと思いました。でも、そうじゃないとすると…」
そこでリマが言葉を切ると、少し間を開けてアルドが溜息を吐き、スープの材料を手に鍋の所へ戻り、それを新しく水を入れた鍋に入れながら「嫉妬だよ」と溜息混じりに言った。
「アメリアは自分が思っているよりずっとレオンの事が好きだよ。それを気付かないのか…。もしかしたら昔好きだった人と重ねているのかもしれないけど…。兎に角、あの二人の…僕が入れない空気に苛立った」
「私は…皆さんが仲良くしていても苛立ったりしませんよ?」
リマの問いにアルドが「はは」と笑う。
「そうだなぁ…。どう違うのか説明するのは難しいなぁ」
言いながらアルドが沸騰し始めた水をレードルでゆっくりと混ぜる。
「特別な好きは、その時にならないと解らないかな。僕も最初は君と同じ〝好き〟だったんだよ。でも、いつからか本気で好きになった。初めて僕を認めてくれたからって言われたらそうかもしれないけど、それだけではない…。僕にとって彼女は…」
そう言ってアルドが苦笑し「この話はおしまい!なんか気恥ずかしいや」と話を終わらせた。
誰か1人に対しての〝好き〟という感情はどういうモノだろう。
相談したはずが謎は解けないままリマも気持ちを切り替えてアルドの手伝いを続ける。
少ししてスープが完成し、器に盛ったフェーメに掛ける。
「あれ?三つで良いんですか?」
問い掛けにアルドが「うん」と頷く。
「けど、お兄様がいましたよね?」
「あの人はどっか別の場所で食べるから良いんだ」
少し冷たく言い、アルドが紙に出したままだった食材を入れ、トレーに夕食とデザートを乗せて歩き出す。
気付けば光が幾つも飛んでいた。
暗くなって来たから誰かが光を出してくれたのだろう。
手の塞がったアルドの代わりに扉を開ける。
アメリアとレオンの待つ広間へ戻り「お待たせしましたー!」とリマが言うと、アメリアは「良いんだよ。夕食を作ってくれてありがとう」と笑みを浮かべた。
「はい」
言ってアルドがアメリアの前にフェーメのスープ掛けを出し、レオンには何も言わずに差し出すとアメリアの隣、レオンとはアメリアを挟んで反対側に座った。
リマの分は小さな器に入っていて、それを皆の顔が見える位置に置く。
「いただきます!」
「頂きます」
リマの後にアメリアが言って、皆で食べ始める。
「食後にはちゃんとデザートも有るからね」
「見えてる。けど、この香りって…モノモ?」
アメリアの言葉にアルドが「お!正解!よく解ったね!」と嬉しそうに言う。
「今では滅多に取れない果物だよね?そんなの買っておいたかな?」
首を傾げるアメリアにアルドが「実はこっそり入れておいたんだ」と笑う。
「売ってたの?」
「うん。けど、そんなに数は無かった。やっぱり、各地で数が減っているっていう話は本当みたいだね」
それを聞いてアメリアの表情が暗くなった。
恐らくそれも負のエネルギーの影響なのだろう。
「大丈夫!この件が片付いたらまた何処でも食べられるようになるよ!」
アルドの言葉にアメリアが少し寂しそうだけれど笑みを浮かべ「うん」と頷く。
それを見てアルドも笑みを浮かべて頷き返す。
「お前の兄貴は呼ばないのか?」
レオンの声にアルドの顔が明らかに不機嫌になり「知らない。あの人は自分で勝手に食べるさ」と返す。
嫌ってはいない気がしていたが、兄弟として好きでもない感じだ。
「味はどう?」
アルドが一口食べたアメリアに問う。
「うん…。美味しい!」
喜ぶアメリアに、アルドも嬉しそうな笑みを浮かべ「良かった」と返すのをレオンが横目で見ている。
そんな三人をリマは黙って見詰めながら、自分用のデザートを口へ運ぶ。
妖精にとっては大きな実だ。
「切ってやる」
そう言ってレオンがリマに手を差し出す。
「有難う御座います」
お礼を言ってリマが実を渡すと、レオンは果物ナイフで起用に実を小さく切り分けてリマの前に置いた。
食べやすい大きさになった実を食べる。
嫌な空気ではないけれど、いつもと違う雰囲気が漂っている事に、リマは何を話して良いのか解らず、暫く黙っている事にした。
それからは殆ど会話も無く夕食を終え、リマが案内役となってレオンと共に食器などを下げに行った。
二人が出て行くと、アルドは一息吐き、アメリアに「なぁ」と声を掛けた。
「何?」
返事をしてアメリアが真っ直ぐアルドを見る。
この真っ直ぐな目を見ると、今でも全て見透かされている感覚になる。
時々その真っ直ぐな目が怖くなってしまう。
「後でこの湖の向こう、ちょうど此処から反対側なんだけど、そこまで来て欲しい」
「反対側?」
訊き返したアメリアが窓の外を見る。
すっかり暗くなり、月が湖面を照らしていて、反対側には何も見えない。
それでもアルドが来て欲しいと言うならと「解った」と頷いた。
「二人が戻って来たら部屋に案内するよ」
「うん」
何も訊かず承諾してくれたアメリアにアルドは少し心配になってしまった。
もし知らない人間に同じ事をお願いされてもアメリアは承諾するのだろうか。
『いや…。信じてくれているからだ』
それはとても嬉しいのに心は苦しい。
暫くしてレオンとリマが戻り、四人を客室へ案内する。
その間、不思議な事に兄であるロードに遭遇しなかった。
本当に何処へ行ったのか。
広い屋敷ではあるが、此処まで遭遇しないのは謎だ。
階段で二階に上がり、端の方の部屋の前で立ち止まり「どうぞ」と言って扉を開ける。
普通の宿の二倍は広い部屋に、天蓋付きの大きなベッド。
「此処はアメリアとリマで使って」
それを聞いてリマが目を輝かせ「良いんですか?!」と言う。
「うん。暫く使ってないから少し埃っぽいけど…ごめんね」
「いいえ!こんな素敵な部屋で寝れるだけで夢見たいで嬉しいです!」
喜ぶリマを見てアメリアが微笑む。
「それで、次は―」
言いながらアルドはレオンに手招きをして部屋を出た。
二人と少し離れた部屋。
「お前はこっち」
二人より少し狭い部屋だが、それでも宿よりずっと広い。
「それじゃあ」
「あぁ」
短いやり取りだけでアルドは部屋を後にした。
「はぁ…」
小さく溜息を吐いて一応は自室として使っている部屋へと向かう。
本当はあまりこの屋敷に来たくはない。
それでもこの場所に来たのには理由が有る。
恐らくアメリアに知られたら嫌われるかもしれない。
「最低だな…」
そんな事をぼやいても後悔などしていない。
歩調は速くなり、心が早鐘を打っている。
緊張しているのかそれとも…。
外に出ると、涼しい夜風が吹いていた。
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「急ではないです。たまに考えていたんですよ。でも、訊きにくくて…」
リマは皆の事が好きだ。しかし、いくら考えてもアルドがアメリアに言う〝好き〟とは違う気がするのだ。
「アルドさんがいつもと少し違うのは…あの時からですよね。レオンさんの…。最初は勝手な事をしたから怒っているんだと思いました。でも、そうじゃないとすると…」
そこでリマが言葉を切ると、少し間を開けてアルドが溜息を吐き、スープの材料を手に鍋の所へ戻り、それを新しく水を入れた鍋に入れながら「嫉妬だよ」と溜息混じりに言った。
「アメリアは自分が思っているよりずっとレオンの事が好きだよ。それを気付かないのか…。もしかしたら昔好きだった人と重ねているのかもしれないけど…。兎に角、あの二人の…僕が入れない空気に苛立った」
「私は…皆さんが仲良くしていても苛立ったりしませんよ?」
リマの問いにアルドが「はは」と笑う。
「そうだなぁ…。どう違うのか説明するのは難しいなぁ」
言いながらアルドが沸騰し始めた水をレードルでゆっくりと混ぜる。
「特別な好きは、その時にならないと解らないかな。僕も最初は君と同じ〝好き〟だったんだよ。でも、いつからか本気で好きになった。初めて僕を認めてくれたからって言われたらそうかもしれないけど、それだけではない…。僕にとって彼女は…」
そう言ってアルドが苦笑し「この話はおしまい!なんか気恥ずかしいや」と話を終わらせた。
誰か1人に対しての〝好き〟という感情はどういうモノだろう。
相談したはずが謎は解けないままリマも気持ちを切り替えてアルドの手伝いを続ける。
少ししてスープが完成し、器に盛ったフェーメに掛ける。
「あれ?三つで良いんですか?」
問い掛けにアルドが「うん」と頷く。
「けど、お兄様がいましたよね?」
「あの人はどっか別の場所で食べるから良いんだ」
少し冷たく言い、アルドが紙に出したままだった食材を入れ、トレーに夕食とデザートを乗せて歩き出す。
気付けば光が幾つも飛んでいた。
暗くなって来たから誰かが光を出してくれたのだろう。
手の塞がったアルドの代わりに扉を開ける。
アメリアとレオンの待つ広間へ戻り「お待たせしましたー!」とリマが言うと、アメリアは「良いんだよ。夕食を作ってくれてありがとう」と笑みを浮かべた。
「はい」
言ってアルドがアメリアの前にフェーメのスープ掛けを出し、レオンには何も言わずに差し出すとアメリアの隣、レオンとはアメリアを挟んで反対側に座った。
リマの分は小さな器に入っていて、それを皆の顔が見える位置に置く。
「いただきます!」
「頂きます」
リマの後にアメリアが言って、皆で食べ始める。
「食後にはちゃんとデザートも有るからね」
「見えてる。けど、この香りって…モノモ?」
アメリアの言葉にアルドが「お!正解!よく解ったね!」と嬉しそうに言う。
「今では滅多に取れない果物だよね?そんなの買っておいたかな?」
首を傾げるアメリアにアルドが「実はこっそり入れておいたんだ」と笑う。
「売ってたの?」
「うん。けど、そんなに数は無かった。やっぱり、各地で数が減っているっていう話は本当みたいだね」
それを聞いてアメリアの表情が暗くなった。
恐らくそれも負のエネルギーの影響なのだろう。
「大丈夫!この件が片付いたらまた何処でも食べられるようになるよ!」
アルドの言葉にアメリアが少し寂しそうだけれど笑みを浮かべ「うん」と頷く。
それを見てアルドも笑みを浮かべて頷き返す。
「お前の兄貴は呼ばないのか?」
レオンの声にアルドの顔が明らかに不機嫌になり「知らない。あの人は自分で勝手に食べるさ」と返す。
嫌ってはいない気がしていたが、兄弟として好きでもない感じだ。
「味はどう?」
アルドが一口食べたアメリアに問う。
「うん…。美味しい!」
喜ぶアメリアに、アルドも嬉しそうな笑みを浮かべ「良かった」と返すのをレオンが横目で見ている。
そんな三人をリマは黙って見詰めながら、自分用のデザートを口へ運ぶ。
妖精にとっては大きな実だ。
「切ってやる」
そう言ってレオンがリマに手を差し出す。
「有難う御座います」
お礼を言ってリマが実を渡すと、レオンは果物ナイフで起用に実を小さく切り分けてリマの前に置いた。
食べやすい大きさになった実を食べる。
嫌な空気ではないけれど、いつもと違う雰囲気が漂っている事に、リマは何を話して良いのか解らず、暫く黙っている事にした。
それからは殆ど会話も無く夕食を終え、リマが案内役となってレオンと共に食器などを下げに行った。
二人が出て行くと、アルドは一息吐き、アメリアに「なぁ」と声を掛けた。
「何?」
返事をしてアメリアが真っ直ぐアルドを見る。
この真っ直ぐな目を見ると、今でも全て見透かされている感覚になる。
時々その真っ直ぐな目が怖くなってしまう。
「後でこの湖の向こう、ちょうど此処から反対側なんだけど、そこまで来て欲しい」
「反対側?」
訊き返したアメリアが窓の外を見る。
すっかり暗くなり、月が湖面を照らしていて、反対側には何も見えない。
それでもアルドが来て欲しいと言うならと「解った」と頷いた。
「二人が戻って来たら部屋に案内するよ」
「うん」
何も訊かず承諾してくれたアメリアにアルドは少し心配になってしまった。
もし知らない人間に同じ事をお願いされてもアメリアは承諾するのだろうか。
『いや…。信じてくれているからだ』
それはとても嬉しいのに心は苦しい。
暫くしてレオンとリマが戻り、四人を客室へ案内する。
その間、不思議な事に兄であるロードに遭遇しなかった。
本当に何処へ行ったのか。
広い屋敷ではあるが、此処まで遭遇しないのは謎だ。
階段で二階に上がり、端の方の部屋の前で立ち止まり「どうぞ」と言って扉を開ける。
普通の宿の二倍は広い部屋に、天蓋付きの大きなベッド。
「此処はアメリアとリマで使って」
それを聞いてリマが目を輝かせ「良いんですか?!」と言う。
「うん。暫く使ってないから少し埃っぽいけど…ごめんね」
「いいえ!こんな素敵な部屋で寝れるだけで夢見たいで嬉しいです!」
喜ぶリマを見てアメリアが微笑む。
「それで、次は―」
言いながらアルドはレオンに手招きをして部屋を出た。
二人と少し離れた部屋。
「お前はこっち」
二人より少し狭い部屋だが、それでも宿よりずっと広い。
「それじゃあ」
「あぁ」
短いやり取りだけでアルドは部屋を後にした。
「はぁ…」
小さく溜息を吐いて一応は自室として使っている部屋へと向かう。
本当はあまりこの屋敷に来たくはない。
それでもこの場所に来たのには理由が有る。
恐らくアメリアに知られたら嫌われるかもしれない。
「最低だな…」
そんな事をぼやいても後悔などしていない。
歩調は速くなり、心が早鐘を打っている。
緊張しているのかそれとも…。
外に出ると、涼しい夜風が吹いていた。
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