第25話
文字数 4,011文字
中央の大広場が何やら騒がしかったけれど、私達は全く興味が無く、空砲が鳴る音と共に商売を始めた店を回っていた。
恐らく国王が集まった民衆に何か語っていたのだろう。
こういう祭り事の時は大抵行われる。
「これ着けて!」
「断る」
私が差し出した物を見ずにレオンが即答する。
「え~。こういうの着けたら楽しいよ?」
「着けたのを見て笑いたいだけだろ」
「バレてるか…」
持っていた物を置こうとし、その隣の物に目が行く。
『ふふふふふ』
心中で笑い、そっとレオンの頭に乗せようとしたが、振り返りざまに腕を掴まれた。
「どこの民族の被り物だ」
「森の中に住んでいる民族の物です…」
レオンの圧に押されて視線を逸らす。
「こういう時に珍しい物が売られる事が多いから一緒に見て回ろうと言ったのはお前だろ。目的以外の物まで買おうとするな」
「祭りを楽しんだって良いじゃん…」
私のぼやきにレオンが「あ?」と言ってまた上から睨む。
「何でもないです!」
言って慌てて持っていた物を戻す。
こういう時くらい楽しんでも良いと思う。
この男は変な所で真面目だ。
からかえなかった事に若干落ち込みつつ歩いていると、アクセサリーの出店があった。
ただのアクセサリーではなく、魔道具の方だ。
「こんなに安く売ってる物も有るんだ」
言って並んでいる物を見る。
「今日は魔導師や見習いも多くやって来る。その為だろう」
「なるほど」
昔とは大違いだ。
あの頃だったら金貨3枚だった物が銀貨数枚で買えてしまう。
威力もそんなに無い物だから安くなっているのだとしても、昔は魔道具を作るのにも大変で、どうしても材料費などを考えると高額になってしまっていたのだ。
今はそれなりに材料も集めやすくなったのだろう。
そうでなければこんな安く売る事は出来ない。
「細工も凄い…。こんなに安く売って大丈夫なんですか?」
私の問いに店主の女性が笑い「私が趣味で作って、溜まった物を売っているだけですから」と言う。
「そうだとしても、この値段で売るのは勿体ないですよ」
「そう言って頂けるだけで充分です」
女性は本当にこの値段で満足らしい。
金にがめつい人間だったら高値で売っているだろう。
髪飾りにネックレス、指輪など様々だ。
本当にこれだけの物を趣味で作ってとするなら凄い。
ふと頭の左側に何かが触れ、振り返ろうとするとレオンに「動くな」と言われた。
「あら!とても似合っていますよ♪ご覧になりますか?」
女性が言って手鏡を私に差し出す。
その鏡に、レオンが付けた物が映る。
羽の形をしており、縁が金色で、斑の部分に琥珀色の石が填められた髪飾り。
羽先で透明な石が揺れている。
無言でレオンがお金を払う。
「ちょっと!何で買ってるの⁉」
「似合っているから」
「理由になってない!」
確かに綺麗だが、自分では似合っていると思えない。
「贈りたいんですよ♪」
リマが耳元で呟く。
そう言われると無下にする事は出来ない。
こうした物を贈って来たのは2人目で、慣れていない所為か恥ずかしくなってしまう。
「そのまま着けて行かれますか?」
「ああ」
「勝手に決めないで!」
止めに入った私にレオンが「着けて行かないのか?」と少し寂しげな目で訊かれ、戸惑ってしまい、悩んだ末に「このまま着けてる」と小声で答えた。
歩き出した私達に女性が「ありがとうございました」と言う。
「なんか…慣れない」
呟いて髪飾りに触れる。
「そういった物をあまり着けた事が無いのか」
隣を歩くレオンが言う。
「そういえば、髪飾りは初めてだな…」
戦闘になった時の事を考えると、こういった物は買う事が無かった。
買ってくれたレオンにとっては深い意味など無いのだろう。
『平然とこういう事するんだ‥』
そんな事を考えてしまう。
昔の祭りは、死者を弔う意味も有って、こうして賑やかに行う事が無かった。
始まりを告げる空砲も、祝砲ではなかった。
それだけ時が経ち、時代が変わったという証だ。
「それにしても、凄い人の数」
何処にこれだけの人達がいるのかと思うくらいの人数に酔ってしまいそうだ。
妖精を連れている人達もいる。
レオンが自分よりも背が高くて良かった。
人混みに呑まれても直ぐ見付けられる。
「お母さん!これ食べたい!」
子供の声に自然と目がそっちに向く。
母親に手を引かれた子供が食べ物を指差して「あれ!あれ!」と訴える。
「全部食べられるのか?」
傍の父親が笑いながら言う。
「お母さんと食べるもん!」
そんな微笑ましいやりとりに自然と頬が緩む。
昔は普通の家族というものに憧れていた事もあった。
両親が生きていた頃は、家族が揃って食事をしたり、出掛ける事も滅多に無かった。
「行くぞ」
先を歩いていたレオンに呼ばれ「うん」と応えて歩き出す。
あの時闘って護った世界。
解っていても考えてしまう。
〝どうして私だけ〟と…。
痛みが疼くけれど、また2人を心配させてしまうから、笑顔で隠して祭りを楽しむ。
お土産屋で派手な羽で作られた帽子を見付け、レオンに被せようとしたが、またもや躱された。
この男、後ろに目でも付いているのではなかろうか。
「うぅ~」
悔しがる私を見て「ふっ」と鼻で笑う。
「リマ!」
「お任せ下さい!」
「待て!妖精の力を借りるのは卑怯だろ!」
リマがレオンの周りを紫に光る粉のような物を羽から出しながら飛んでいる間に、帽子を被せ、フード付きの花柄マントを羽織らせる。
あまりにも似合わな過ぎて可笑しい。
変な格好にされたレオンは呆れ顔だ。
「あははははは!」
「ちょっと…これは‥‥」
飛ぶのを止めたリマも笑っている。
「お前等…。楽しそうだな…」
低く唸るように言いながらレオンが帽子とマントを元の場所に戻し、怒りに満ちた目で私を見た。
その視線に笑顔が引き攣ったのが自分で解る。
「どうしてくれようか…」
「えっと…。何を考えていらっしゃるのでしょう」
言いながら近寄って来るレオンに対し、恐怖で変な言葉を使って後退る。
無言で近付いて来るのが更に怖い。
手が伸びて来るのを見て咄嗟に逃げようとしたが遅かった。
レオンの腕が腰に周り、そのまま抱えられてしまう。
「ごめん!もうからかわないからー!」
「‥‥」
謝っても無言。
これは本当に怒っている。
『少しからかっただけで、そこまで怒る事ない…』
そういえば、レオンをからかったのは今回で二度目だ。
あの時、本当は相当怒っていたとすると、今回は謝っても赦されない確率の方が高い。
そう考えて蒼褪める。
少しすると、試着スペースに連れて行かれた。
そこは部屋のようになっていて、女性店員が1人待機していた。
入った私達に、女性が「いらっしゃいませ」と言う。
「着替えて来い」
言ってレオンがリマを連れ、ドアを閉めて出て行く。
渡されたのは、殆どがレースになっている服。
いや、服とも呼べないくらいだ。
紅い生地で、スカートは前の方が開いていて、動き過ぎれば内側が見えてしまう。そして、お腹の辺りは開いている。
それが一体何なのかは着なくても解った。
『これ…踊り子の…』
着替えて来いと言われたが、着る事など出来ない。
恥ずかし過ぎる。
『何?本当にこれを着た私が見たいわけ?いやいや。そんな訳無い。ただの仕返しでしょう!恥ずかしい気持ちを解れっていう嫌がらせ!着替えなくても、ちゃんと誤れば良い!』
混乱しつつドアを開けようとすると、外から「着替えたのか?」とレオンの声がした。
「まだ…です」
「早くしろ」
どうやら着替えないと出してくれないらしい。
辺りを見渡す。
窓は在るけれど、小さ過ぎて出る事は出来そうにない。
「お手伝いしましょうか?」
女性の問いに「お願いします」と諦めて答えた。
服を脱ぎ、渡された踊り子の衣装を着て、背中の紐を女性に縛って貰う。
「本当の踊り子様みたいです♪」
女性が嬉しそうに目を輝かせて言うけれど、私は恥ずかしくて鏡も見られない。
ゆっくりとドアに向かい、深呼吸をする。
恥ずかしくて出たくない。
「うぅ~」
唸ってしゃがみ込んだ時、ドアが開いた。
蹲っている私をレオンが見下ろす。
「何をしているんだ?」
「みっ…見ないで!恥ずかしいから!」
顔が熱い。
今すぐ逃げたいが、こんな格好では通りを歩けない。
「立て」
そうは言われても…。
「本当に無理…」
「立て」
もう一度言ったレオンが腕を引いて無理矢理に立たせ、少し離れて全身を見て来る。
『無理…。そんなジッと見ないでよ!』
顔を逸らしても見られているのが解る。
「綺麗です…」
リマが見惚れながら言う。しかし、着させた当の本人は何も言わない。
何も言われないのもきつい。
「もう無理!着替える!」
言ってドアを勢いよく閉め、直ぐに自分の服に着替え始める。
ドアの向こうでレオンとリマが何やら話しているのが微かに聞こえたが、そんな事を気にしている余裕など無かった。
着替えて外に出る。
「次からかったら、もっと恥ずかしい服を着る事になるからな」
待っていたレオンに言われ、変な疲労感でぐったりとしつつ「はい」と返事をする。
「着たいなら、また俺をからかえば良い」
「もう二度としません!」
慌てて言った私に、レオンが「フッ」と小さく笑った。
この男の笑いのツボが解らない。
「お買い上げになりますか?」
「もら「買いません」
レオンの言葉を遮り、腕を引っ張って店を出る。
「ふぅ…」
深呼吸をして気持ちを落ち着かせレオンを睨む。
「何で買おうとしたの!」
「からかわれた時に着せようかと」
「どんな嫌がらせ!絶対に、もう二度と着ないから!」
怒る私の横でリマが「似合ってたのに」と呟くも、私は絶対に着たくなかった。
「絶対に着ません!」
言って歩き出す。
後ろでまだ残念そうなリマが何か言っていたけれど、私は恥ずかしくて暫く2人の顔、主にレオンの顔が見られなかった。
・
恐らく国王が集まった民衆に何か語っていたのだろう。
こういう祭り事の時は大抵行われる。
「これ着けて!」
「断る」
私が差し出した物を見ずにレオンが即答する。
「え~。こういうの着けたら楽しいよ?」
「着けたのを見て笑いたいだけだろ」
「バレてるか…」
持っていた物を置こうとし、その隣の物に目が行く。
『ふふふふふ』
心中で笑い、そっとレオンの頭に乗せようとしたが、振り返りざまに腕を掴まれた。
「どこの民族の被り物だ」
「森の中に住んでいる民族の物です…」
レオンの圧に押されて視線を逸らす。
「こういう時に珍しい物が売られる事が多いから一緒に見て回ろうと言ったのはお前だろ。目的以外の物まで買おうとするな」
「祭りを楽しんだって良いじゃん…」
私のぼやきにレオンが「あ?」と言ってまた上から睨む。
「何でもないです!」
言って慌てて持っていた物を戻す。
こういう時くらい楽しんでも良いと思う。
この男は変な所で真面目だ。
からかえなかった事に若干落ち込みつつ歩いていると、アクセサリーの出店があった。
ただのアクセサリーではなく、魔道具の方だ。
「こんなに安く売ってる物も有るんだ」
言って並んでいる物を見る。
「今日は魔導師や見習いも多くやって来る。その為だろう」
「なるほど」
昔とは大違いだ。
あの頃だったら金貨3枚だった物が銀貨数枚で買えてしまう。
威力もそんなに無い物だから安くなっているのだとしても、昔は魔道具を作るのにも大変で、どうしても材料費などを考えると高額になってしまっていたのだ。
今はそれなりに材料も集めやすくなったのだろう。
そうでなければこんな安く売る事は出来ない。
「細工も凄い…。こんなに安く売って大丈夫なんですか?」
私の問いに店主の女性が笑い「私が趣味で作って、溜まった物を売っているだけですから」と言う。
「そうだとしても、この値段で売るのは勿体ないですよ」
「そう言って頂けるだけで充分です」
女性は本当にこの値段で満足らしい。
金にがめつい人間だったら高値で売っているだろう。
髪飾りにネックレス、指輪など様々だ。
本当にこれだけの物を趣味で作ってとするなら凄い。
ふと頭の左側に何かが触れ、振り返ろうとするとレオンに「動くな」と言われた。
「あら!とても似合っていますよ♪ご覧になりますか?」
女性が言って手鏡を私に差し出す。
その鏡に、レオンが付けた物が映る。
羽の形をしており、縁が金色で、斑の部分に琥珀色の石が填められた髪飾り。
羽先で透明な石が揺れている。
無言でレオンがお金を払う。
「ちょっと!何で買ってるの⁉」
「似合っているから」
「理由になってない!」
確かに綺麗だが、自分では似合っていると思えない。
「贈りたいんですよ♪」
リマが耳元で呟く。
そう言われると無下にする事は出来ない。
こうした物を贈って来たのは2人目で、慣れていない所為か恥ずかしくなってしまう。
「そのまま着けて行かれますか?」
「ああ」
「勝手に決めないで!」
止めに入った私にレオンが「着けて行かないのか?」と少し寂しげな目で訊かれ、戸惑ってしまい、悩んだ末に「このまま着けてる」と小声で答えた。
歩き出した私達に女性が「ありがとうございました」と言う。
「なんか…慣れない」
呟いて髪飾りに触れる。
「そういった物をあまり着けた事が無いのか」
隣を歩くレオンが言う。
「そういえば、髪飾りは初めてだな…」
戦闘になった時の事を考えると、こういった物は買う事が無かった。
買ってくれたレオンにとっては深い意味など無いのだろう。
『平然とこういう事するんだ‥』
そんな事を考えてしまう。
昔の祭りは、死者を弔う意味も有って、こうして賑やかに行う事が無かった。
始まりを告げる空砲も、祝砲ではなかった。
それだけ時が経ち、時代が変わったという証だ。
「それにしても、凄い人の数」
何処にこれだけの人達がいるのかと思うくらいの人数に酔ってしまいそうだ。
妖精を連れている人達もいる。
レオンが自分よりも背が高くて良かった。
人混みに呑まれても直ぐ見付けられる。
「お母さん!これ食べたい!」
子供の声に自然と目がそっちに向く。
母親に手を引かれた子供が食べ物を指差して「あれ!あれ!」と訴える。
「全部食べられるのか?」
傍の父親が笑いながら言う。
「お母さんと食べるもん!」
そんな微笑ましいやりとりに自然と頬が緩む。
昔は普通の家族というものに憧れていた事もあった。
両親が生きていた頃は、家族が揃って食事をしたり、出掛ける事も滅多に無かった。
「行くぞ」
先を歩いていたレオンに呼ばれ「うん」と応えて歩き出す。
あの時闘って護った世界。
解っていても考えてしまう。
〝どうして私だけ〟と…。
痛みが疼くけれど、また2人を心配させてしまうから、笑顔で隠して祭りを楽しむ。
お土産屋で派手な羽で作られた帽子を見付け、レオンに被せようとしたが、またもや躱された。
この男、後ろに目でも付いているのではなかろうか。
「うぅ~」
悔しがる私を見て「ふっ」と鼻で笑う。
「リマ!」
「お任せ下さい!」
「待て!妖精の力を借りるのは卑怯だろ!」
リマがレオンの周りを紫に光る粉のような物を羽から出しながら飛んでいる間に、帽子を被せ、フード付きの花柄マントを羽織らせる。
あまりにも似合わな過ぎて可笑しい。
変な格好にされたレオンは呆れ顔だ。
「あははははは!」
「ちょっと…これは‥‥」
飛ぶのを止めたリマも笑っている。
「お前等…。楽しそうだな…」
低く唸るように言いながらレオンが帽子とマントを元の場所に戻し、怒りに満ちた目で私を見た。
その視線に笑顔が引き攣ったのが自分で解る。
「どうしてくれようか…」
「えっと…。何を考えていらっしゃるのでしょう」
言いながら近寄って来るレオンに対し、恐怖で変な言葉を使って後退る。
無言で近付いて来るのが更に怖い。
手が伸びて来るのを見て咄嗟に逃げようとしたが遅かった。
レオンの腕が腰に周り、そのまま抱えられてしまう。
「ごめん!もうからかわないからー!」
「‥‥」
謝っても無言。
これは本当に怒っている。
『少しからかっただけで、そこまで怒る事ない…』
そういえば、レオンをからかったのは今回で二度目だ。
あの時、本当は相当怒っていたとすると、今回は謝っても赦されない確率の方が高い。
そう考えて蒼褪める。
少しすると、試着スペースに連れて行かれた。
そこは部屋のようになっていて、女性店員が1人待機していた。
入った私達に、女性が「いらっしゃいませ」と言う。
「着替えて来い」
言ってレオンがリマを連れ、ドアを閉めて出て行く。
渡されたのは、殆どがレースになっている服。
いや、服とも呼べないくらいだ。
紅い生地で、スカートは前の方が開いていて、動き過ぎれば内側が見えてしまう。そして、お腹の辺りは開いている。
それが一体何なのかは着なくても解った。
『これ…踊り子の…』
着替えて来いと言われたが、着る事など出来ない。
恥ずかし過ぎる。
『何?本当にこれを着た私が見たいわけ?いやいや。そんな訳無い。ただの仕返しでしょう!恥ずかしい気持ちを解れっていう嫌がらせ!着替えなくても、ちゃんと誤れば良い!』
混乱しつつドアを開けようとすると、外から「着替えたのか?」とレオンの声がした。
「まだ…です」
「早くしろ」
どうやら着替えないと出してくれないらしい。
辺りを見渡す。
窓は在るけれど、小さ過ぎて出る事は出来そうにない。
「お手伝いしましょうか?」
女性の問いに「お願いします」と諦めて答えた。
服を脱ぎ、渡された踊り子の衣装を着て、背中の紐を女性に縛って貰う。
「本当の踊り子様みたいです♪」
女性が嬉しそうに目を輝かせて言うけれど、私は恥ずかしくて鏡も見られない。
ゆっくりとドアに向かい、深呼吸をする。
恥ずかしくて出たくない。
「うぅ~」
唸ってしゃがみ込んだ時、ドアが開いた。
蹲っている私をレオンが見下ろす。
「何をしているんだ?」
「みっ…見ないで!恥ずかしいから!」
顔が熱い。
今すぐ逃げたいが、こんな格好では通りを歩けない。
「立て」
そうは言われても…。
「本当に無理…」
「立て」
もう一度言ったレオンが腕を引いて無理矢理に立たせ、少し離れて全身を見て来る。
『無理…。そんなジッと見ないでよ!』
顔を逸らしても見られているのが解る。
「綺麗です…」
リマが見惚れながら言う。しかし、着させた当の本人は何も言わない。
何も言われないのもきつい。
「もう無理!着替える!」
言ってドアを勢いよく閉め、直ぐに自分の服に着替え始める。
ドアの向こうでレオンとリマが何やら話しているのが微かに聞こえたが、そんな事を気にしている余裕など無かった。
着替えて外に出る。
「次からかったら、もっと恥ずかしい服を着る事になるからな」
待っていたレオンに言われ、変な疲労感でぐったりとしつつ「はい」と返事をする。
「着たいなら、また俺をからかえば良い」
「もう二度としません!」
慌てて言った私に、レオンが「フッ」と小さく笑った。
この男の笑いのツボが解らない。
「お買い上げになりますか?」
「もら「買いません」
レオンの言葉を遮り、腕を引っ張って店を出る。
「ふぅ…」
深呼吸をして気持ちを落ち着かせレオンを睨む。
「何で買おうとしたの!」
「からかわれた時に着せようかと」
「どんな嫌がらせ!絶対に、もう二度と着ないから!」
怒る私の横でリマが「似合ってたのに」と呟くも、私は絶対に着たくなかった。
「絶対に着ません!」
言って歩き出す。
後ろでまだ残念そうなリマが何か言っていたけれど、私は恥ずかしくて暫く2人の顔、主にレオンの顔が見られなかった。
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