第71話
文字数 2,696文字
「騎士団に対しての敵意は相当なものですね」
部下の一人が疲れ切った声音で隊長であるロードの横でぼやく。
駐在している騎士と合流し、反騎士団の住民と話をしようとしたのだが、誰もが騎士団の服を見るだけで武器を手に「帰れ!」の一点張りで、話をする事すら出来なかった。
さすがのロードも気疲れしてしまい、椅子に座ると溜息が出た。
「そういえば、旅人と共に此処へ来たと言っていましたが、その方達はどちらに?」
部下の問いに「さぁな」と答える。
実際、アルド達が何処で何をしているかなど知らない。
この町へ来てから見かけてはいるが、声を掛けていないのだ。それに、自分は仕事で此処へ来ている。
「あの事件の時の魔女もいるのでしょ?」
部下のいう〝魔女〟とは〝アメリア〟の事だ。
暴走した精霊を倒したあの事件からアメリアの事を部下達は〝魔女〟と呼んでいる。
誰が言いだしたのか…。
「あの方の依頼はどうされるのですか?」
部下の問いにまた溜息が出そうになる。
正直あの男の依頼は裏が有る気がする。
レオンさえも命令違反だと解っていながら報告していないのだ。
それを考えると、どうも報告してはならない気がしてならない。
「今は関係無い」
そう言った時だ。
ガタガタと窓が揺れた。
風なら気にする事など無い。しかし、それに混じって微かに何かが破裂するような音が聞こえた気がする。
「突風ですね。荒れ地の町だからでしょうか…。隊長?」
部下は気付いていないらしく、立ち上がったロードを不思議そうに見る。
「少し出て来る。お前は先に休め」
言って部屋を出る。
聞き間違いでなければ確かに破裂音がした。
町から煙などは上がっていない。
となれば、音の発生源は此処ではない。
歩きながら辺りを見渡す。
ふと、町はずれの方でうっすらとだが細いながらも白い煙が上っているのが見えた。
『一体何が』
急いで自分の愛馬の元へと向かい、消えてしまった煙の方向へと走らせた。
どれくらい経ったか。
煙の上がっていた場所に到着したロードはその光景を見て驚いたが、すぐに呆れて「何をしているんだ」とそこにあった4つの人影に言った。
「あ~。えっと…」
部下が〝魔女〟と呼ぶ女、アメリアが苦笑しつつ目を泳がせる。
「ちょっと…その…実験?と…言いますかぁ…」
アルドも苦笑して言い隣のレオンを見る。
「やはりあの音は町にも届いたか」
レオンが溜息混じりに言う。
「けど、それほど大きな音ではなかったですよね?」
リマが不思議そうに首を傾げる。
「耳…良過ぎでしょ…」
アメリアの呟きにロードが睨むとアメリアが「ごめんなさい!」と謝り慌ててレオンの後ろに隠れた。
3人の様子に呆れて溜息が出る。
「町からそれなりに離れているから抗争ではないとも思ったが、念の為に確認しに来て見れば…実験…」
呆れるロードにレオンの後ろからアメリアが顔だけを覗かせ「ごめ~ん」と申し訳なさそうに言う。
「それで?何の実験をしていたんだ?」
ロードの問いに、リマが「これです」と言い、アメリアが「あ!」と声を上げたのとほぼ同時に手にしていた物をロードに見せた。
「あ~」
〝見せちゃった〟というようにアメリアがぼやく。
リマが見せたのは杖先から上部にかけて全体的に淡い緑色のスタッフだった。
上部は氷の結晶のような形をしており、結晶の中心では淡い青と赤の光を纏った石が輝いている。
「これを試していたんだ」
レオンが言う。
それを聞いてアメリアとアルドを見ると、2人とも苦笑していた。
どうも嘘を言っているようには見えないが、不思議そうにしているリマを見る限り、他にも何かある気がした。
「それだけではないのだろ?」
ロードの問いにレオンが何言いそうになったリマを横目で制し「それだけだ」と答える。
それに対し、リマが何かを察して「はい!それだけです!」と頷き返す。
隠されると気になってしまう。
「そんなに私の事は信用ならないか?」
「問題はお前ではない」
溜息を吐いたロードにレオンが顔を曇らせて言う。
〝問題〟と聞いて思い当たったのは…。
「あの男か?」
ロードの問いにレオンが視線を逸らす。
それが答えだレオンはどうしてもアメリアの事をあの男に知られたくないらしい。いや、アメリアとリマか…。
「あの男にはお前達の様子を知らせてくれと言われているだけだ。他に報告する事など無い。お前が何を気にしているかは知らないが、気にするなら早く報告してしまえば良いだろ。このままでは命令違反と見なされ処罰されるぞ」
「あの男っていうのが誰なのか解らないけど…。何を命令されてるの?」
ロードの話にアメリアが言ってレオンを見る。
レオンは顔を逸らしたまま何も答えない。
「どんな命令?」
言ってアメリアがレオンの正面に立ち顔を覗き込む。
それでもレオンは沈黙を貫いている。
「はぁ…」
アメリアが溜息を吐き、レオンの顔を両手で包み、強引に自分の方を向かせる。
「レオンに出逢ってからの事を考えると、その命令は私やリマに関する事でしょ?」
その問いに、レオンは一瞬目を逸らした。
それをアメリアは見逃さず肯定と受け止めた。
「私達の事を調べるようにでも言われた?それで、解った事を報告しろって?」
それを聞いてレオンが珍しく驚いた表情をした後、苦笑し「何でもお見通しか」と呟き、自分の頬に触れている手を掴んだ。
「見通した訳じゃない。考えられる事を言っただけ」
言ってアメリアが手を放すも、掴んだ手はそのままだ。
「ちょっと色々と他とは違う知識を持っているだけで、その他は他の魔導士と変わらないとかって書いて報告書を送れば良いだけでしょ。何を迷う事が有るの?」
溜息混じりに言うアメリアにレオンが「そう簡単な事ではない」と言うも、それさえもアメリアは呆れたように溜息を吐いた。
「なら、貴方の代わりにロードに報告書を送ってもらう?それこそ面倒臭い事になると思うんだけど?」
その言葉にレオンは少し考えた後「そうだな」と諦めたように呟いた。
「私は町へ戻る。もしまだ此処で何かをするなら、もう少し加減をするように」
「私達も宿に戻るから」
ロードの言葉にアメリアが言い、共に町へと歩き出す。
4人は馬にも乗っていない。
歩いて此処まで来たのなら疲れているだろうに、それを全く感じさせない。
寧ろ楽し気に談笑している。
ふと視界に並んで歩くアルドとリマが入った。
仲が良いだけかと思ったが、2人の表情からそれ以上のモノを感じて視線を逸らす。
『私には無縁の事だ』
そんな事を心中で呟き、ロードは町までアメリア達の歩調に合わせ馬を歩かせた。
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部下の一人が疲れ切った声音で隊長であるロードの横でぼやく。
駐在している騎士と合流し、反騎士団の住民と話をしようとしたのだが、誰もが騎士団の服を見るだけで武器を手に「帰れ!」の一点張りで、話をする事すら出来なかった。
さすがのロードも気疲れしてしまい、椅子に座ると溜息が出た。
「そういえば、旅人と共に此処へ来たと言っていましたが、その方達はどちらに?」
部下の問いに「さぁな」と答える。
実際、アルド達が何処で何をしているかなど知らない。
この町へ来てから見かけてはいるが、声を掛けていないのだ。それに、自分は仕事で此処へ来ている。
「あの事件の時の魔女もいるのでしょ?」
部下のいう〝魔女〟とは〝アメリア〟の事だ。
暴走した精霊を倒したあの事件からアメリアの事を部下達は〝魔女〟と呼んでいる。
誰が言いだしたのか…。
「あの方の依頼はどうされるのですか?」
部下の問いにまた溜息が出そうになる。
正直あの男の依頼は裏が有る気がする。
レオンさえも命令違反だと解っていながら報告していないのだ。
それを考えると、どうも報告してはならない気がしてならない。
「今は関係無い」
そう言った時だ。
ガタガタと窓が揺れた。
風なら気にする事など無い。しかし、それに混じって微かに何かが破裂するような音が聞こえた気がする。
「突風ですね。荒れ地の町だからでしょうか…。隊長?」
部下は気付いていないらしく、立ち上がったロードを不思議そうに見る。
「少し出て来る。お前は先に休め」
言って部屋を出る。
聞き間違いでなければ確かに破裂音がした。
町から煙などは上がっていない。
となれば、音の発生源は此処ではない。
歩きながら辺りを見渡す。
ふと、町はずれの方でうっすらとだが細いながらも白い煙が上っているのが見えた。
『一体何が』
急いで自分の愛馬の元へと向かい、消えてしまった煙の方向へと走らせた。
どれくらい経ったか。
煙の上がっていた場所に到着したロードはその光景を見て驚いたが、すぐに呆れて「何をしているんだ」とそこにあった4つの人影に言った。
「あ~。えっと…」
部下が〝魔女〟と呼ぶ女、アメリアが苦笑しつつ目を泳がせる。
「ちょっと…その…実験?と…言いますかぁ…」
アルドも苦笑して言い隣のレオンを見る。
「やはりあの音は町にも届いたか」
レオンが溜息混じりに言う。
「けど、それほど大きな音ではなかったですよね?」
リマが不思議そうに首を傾げる。
「耳…良過ぎでしょ…」
アメリアの呟きにロードが睨むとアメリアが「ごめんなさい!」と謝り慌ててレオンの後ろに隠れた。
3人の様子に呆れて溜息が出る。
「町からそれなりに離れているから抗争ではないとも思ったが、念の為に確認しに来て見れば…実験…」
呆れるロードにレオンの後ろからアメリアが顔だけを覗かせ「ごめ~ん」と申し訳なさそうに言う。
「それで?何の実験をしていたんだ?」
ロードの問いに、リマが「これです」と言い、アメリアが「あ!」と声を上げたのとほぼ同時に手にしていた物をロードに見せた。
「あ~」
〝見せちゃった〟というようにアメリアがぼやく。
リマが見せたのは杖先から上部にかけて全体的に淡い緑色のスタッフだった。
上部は氷の結晶のような形をしており、結晶の中心では淡い青と赤の光を纏った石が輝いている。
「これを試していたんだ」
レオンが言う。
それを聞いてアメリアとアルドを見ると、2人とも苦笑していた。
どうも嘘を言っているようには見えないが、不思議そうにしているリマを見る限り、他にも何かある気がした。
「それだけではないのだろ?」
ロードの問いにレオンが何言いそうになったリマを横目で制し「それだけだ」と答える。
それに対し、リマが何かを察して「はい!それだけです!」と頷き返す。
隠されると気になってしまう。
「そんなに私の事は信用ならないか?」
「問題はお前ではない」
溜息を吐いたロードにレオンが顔を曇らせて言う。
〝問題〟と聞いて思い当たったのは…。
「あの男か?」
ロードの問いにレオンが視線を逸らす。
それが答えだレオンはどうしてもアメリアの事をあの男に知られたくないらしい。いや、アメリアとリマか…。
「あの男にはお前達の様子を知らせてくれと言われているだけだ。他に報告する事など無い。お前が何を気にしているかは知らないが、気にするなら早く報告してしまえば良いだろ。このままでは命令違反と見なされ処罰されるぞ」
「あの男っていうのが誰なのか解らないけど…。何を命令されてるの?」
ロードの話にアメリアが言ってレオンを見る。
レオンは顔を逸らしたまま何も答えない。
「どんな命令?」
言ってアメリアがレオンの正面に立ち顔を覗き込む。
それでもレオンは沈黙を貫いている。
「はぁ…」
アメリアが溜息を吐き、レオンの顔を両手で包み、強引に自分の方を向かせる。
「レオンに出逢ってからの事を考えると、その命令は私やリマに関する事でしょ?」
その問いに、レオンは一瞬目を逸らした。
それをアメリアは見逃さず肯定と受け止めた。
「私達の事を調べるようにでも言われた?それで、解った事を報告しろって?」
それを聞いてレオンが珍しく驚いた表情をした後、苦笑し「何でもお見通しか」と呟き、自分の頬に触れている手を掴んだ。
「見通した訳じゃない。考えられる事を言っただけ」
言ってアメリアが手を放すも、掴んだ手はそのままだ。
「ちょっと色々と他とは違う知識を持っているだけで、その他は他の魔導士と変わらないとかって書いて報告書を送れば良いだけでしょ。何を迷う事が有るの?」
溜息混じりに言うアメリアにレオンが「そう簡単な事ではない」と言うも、それさえもアメリアは呆れたように溜息を吐いた。
「なら、貴方の代わりにロードに報告書を送ってもらう?それこそ面倒臭い事になると思うんだけど?」
その言葉にレオンは少し考えた後「そうだな」と諦めたように呟いた。
「私は町へ戻る。もしまだ此処で何かをするなら、もう少し加減をするように」
「私達も宿に戻るから」
ロードの言葉にアメリアが言い、共に町へと歩き出す。
4人は馬にも乗っていない。
歩いて此処まで来たのなら疲れているだろうに、それを全く感じさせない。
寧ろ楽し気に談笑している。
ふと視界に並んで歩くアルドとリマが入った。
仲が良いだけかと思ったが、2人の表情からそれ以上のモノを感じて視線を逸らす。
『私には無縁の事だ』
そんな事を心中で呟き、ロードは町までアメリア達の歩調に合わせ馬を歩かせた。
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