第67話
文字数 2,487文字
「おい!」
声に騎士達が足を止めて振り返る。
「その人を放せ!」
叫ぶセオを見て騎士達が笑い「何だこのガキ」「俺達は王国騎士だぞ」と言う。
「お前らが何だろうが知るか!その人を放せ!」
「俺達に盾突くつもりか?」
1人の騎士が言って女性を捕まえて離さない男の方を見る。
視線の合った男がニヤリと笑い「教えてやれ」と言うと、騎士がセオの方を見て同じく嫌な笑みを浮かべ、セオに向かい左手を向けた。
「この町の奴等は可愛そうだよなぁ」
笑みを浮かべて左手を向けている騎士が言う。
「魔法が使えないから俺達が守ってやってるのに」
セオへ向けている掌に青白い光が集まり始める。
それが騎士の言う〝魔法〟だという事に、当時のセオは気付かず、ただその光を見ていた。
「初めて見たのか?」
男がニヤニヤと笑い、光が眩しさを増していき、あっと言う間に光はセオの顔よりも大きくなっていた。
「申し訳ありません!」
声がしたのとほぼ同時に、セオの体に誰かが覆い被さった。
「鉱石は明日までに用意しておきます!ですから、どうかお許し下さい!」
その声は母の声だった。
どうして母親が謝っているのか解らず、セオは顔を上げると「何で」と声を上げたが、すぐに母親の手で口を塞がれた。
「この子は私が叱っておきます!ですから!」
必死に許しを請う母親。
それを見た男が溜息を吐き、睨み付けると「ふんっ」と鼻を鳴らし「次は容赦しないからな」と告げて他の騎士達と共に女性を連れて去って行った。
姿が見えなくなると、母親はセオの手を引いて歩き出した。
エイミーも後から来た小母さんと一緒だ。
家に着くと、母親は叱るどころか涙を流してセオを抱き締めた。
「あの人達に逆らったら駄目。約束して」
初めて母の泣く姿を見て、セオは何も言えず、ただ頷き返して母の大きな背中に手を回して抱き締めた。
その日から騎士団は近くに拠点を設けたらしく、町にやって来ては食料などを奪っていくようになった。
買うのではない。
誰がどう見てもそれは略奪だ。
逆らおうものなら容赦無く家を奪われ誰かが連れ去られてしまう。
帰ってきた時、誰もが痛々しい姿になっていた。
女は生気を失い、何かに怯える者、自ら腹を切り裂いて死ぬ者、数日後には姿を消す者。
男は舌や足、目に耳など、体の一部を失って帰って来た。
セオの父親も、騎士団の者達が道を歩いている時に動いていたという理由だけで捕まり、帰って来た時、下半身が全く動かなくなっていた。
そんな事が続くと、抵抗する術を持たない町の住民は抵抗する気力も無くなり、黙って彼等の言う事をきく奴隷のようになっていった。
「今日もアイツ等は洞窟探検か」
「あの洞窟に一体何が…」
騎士団の者達は、地底湖が存在している事をしると、ほぼ毎日のように洞窟に入っては出て来ると不機嫌で、住民達は彼等に因縁をつけられないよう家から出る事は無く、食料などは少人数が各家に分担して配るようにしていた。
セオは10歳になり、大人達から夜1人で食料を届けるのを頼まれるようになった。
子供なのでそんな多くは持てないので、米数キロと野菜が幾つかだ。
それでも明日は大人が昼前に配るので、それまでの間繋ぎには十分の量である。
ある夜。
セオがいつものように1人で宿屋へ食料を届けていると、宿屋の入り口に誰か立っているのが見えた。
「此処は宿ではないのか?」
声からしてまだ若い。
だがセオよりは年上なのは解る。
騎士団の者か。
急いで物陰に隠れて様子を伺おうと顔を覗かせると、人影が消えていた。
『あれ?』
「ねぇ君」
セオが不思議に思うのとソレは同時だった。
「うわ⁉」
驚き声を上げてしまった。
静まり返った町にセオの声が響き、家の中から宿屋の男性が飛び出して来て「この大馬鹿者!」と小声で叱るとセオを抱き上げ、一緒にいた人物に顎で〝中へ〟と合図を出す。
3人が中へ入ると、女性が直ぐに戸を閉めて鍵を掛けた。
布で窓を塞ぎ、室内では小さなランタンが微かな灯りで辺りを照らしていた。
「あんた…旅の人か」
「ああ。宿を探していたんだ」
宿の前にいた人物は、裾がボロボロの淡いポンチョのようなマントを羽織り、フードを目深に被っているのと、部屋が薄暗い事で顔がハッキリと見えないが、声からして若い男だ。
「此処ではなく、別の町へ行くべきだ」
男性の言葉に旅人が「なぜ?」と訊き返す。
「今この町には騎士団が来ていて…」
今度は女性が説明しようとするも言葉は途切れた。
理由は、外から誰かの悲痛な叫び声が聞こえたからだ。
その声を聴いた瞬間、旅人が外へ飛び出した。
「おい!よせ!」
男性が止める声を無視して男の姿が光の無い町の中へと消える。
「あなた…」
女性が不安げに呟き男性の腕に触れる。
男性は数秒考え「クソッ!」と吐き捨てると女性に「お前は家にいろ」と言ってランプを片手に外へ出ると、町の東北から火の玉が空へと上がって音も無く消えた。
それを見て男性が光の方へと駆け出し、セオもその方へと向かった。
心が震え体が動いていた。
男性の持つランプの微かな光だけを頼りに後を追う。
—ドォオオオン!
今度は大きな爆音と共に炎が上がり、地を抉った。
音のした場所へ辿り着くと、近くの数件が燃え、抉られた地面の中心に人影が見えた。
三つは騎士団の鎧をまとい、対峙している人物は先ほどの旅人だった。
旅人の纏うマントが風で揺れる。
「どう・・いう・・」
騎士団の男達は驚愕した顔で旅人を見ていた。
「逃げろ!」
声がし、見ると火の上がる家々から住民らしき人達がセオと男性の方へと走って来ていた。
「大丈夫だったか!」
男性の言葉に走って来た中年の男が「あぁ。何が起きたのかさっぱりだ」と言い、後から来た女性が「早く!」と急かす。
「何だ貴様!我々騎士団に盾突くのか!」
1人の騎士が怒鳴り剣を抜いて旅人へと向けたが、その顔は怯え青ざめている。
旅人が何も言わず一歩踏み出すと、騎士達は後退った。
ゆっくりと旅人が右手を騎士達へと翳す。
それとほぼ同時に騎士達が旅人に向かって炎を放った。
・
声に騎士達が足を止めて振り返る。
「その人を放せ!」
叫ぶセオを見て騎士達が笑い「何だこのガキ」「俺達は王国騎士だぞ」と言う。
「お前らが何だろうが知るか!その人を放せ!」
「俺達に盾突くつもりか?」
1人の騎士が言って女性を捕まえて離さない男の方を見る。
視線の合った男がニヤリと笑い「教えてやれ」と言うと、騎士がセオの方を見て同じく嫌な笑みを浮かべ、セオに向かい左手を向けた。
「この町の奴等は可愛そうだよなぁ」
笑みを浮かべて左手を向けている騎士が言う。
「魔法が使えないから俺達が守ってやってるのに」
セオへ向けている掌に青白い光が集まり始める。
それが騎士の言う〝魔法〟だという事に、当時のセオは気付かず、ただその光を見ていた。
「初めて見たのか?」
男がニヤニヤと笑い、光が眩しさを増していき、あっと言う間に光はセオの顔よりも大きくなっていた。
「申し訳ありません!」
声がしたのとほぼ同時に、セオの体に誰かが覆い被さった。
「鉱石は明日までに用意しておきます!ですから、どうかお許し下さい!」
その声は母の声だった。
どうして母親が謝っているのか解らず、セオは顔を上げると「何で」と声を上げたが、すぐに母親の手で口を塞がれた。
「この子は私が叱っておきます!ですから!」
必死に許しを請う母親。
それを見た男が溜息を吐き、睨み付けると「ふんっ」と鼻を鳴らし「次は容赦しないからな」と告げて他の騎士達と共に女性を連れて去って行った。
姿が見えなくなると、母親はセオの手を引いて歩き出した。
エイミーも後から来た小母さんと一緒だ。
家に着くと、母親は叱るどころか涙を流してセオを抱き締めた。
「あの人達に逆らったら駄目。約束して」
初めて母の泣く姿を見て、セオは何も言えず、ただ頷き返して母の大きな背中に手を回して抱き締めた。
その日から騎士団は近くに拠点を設けたらしく、町にやって来ては食料などを奪っていくようになった。
買うのではない。
誰がどう見てもそれは略奪だ。
逆らおうものなら容赦無く家を奪われ誰かが連れ去られてしまう。
帰ってきた時、誰もが痛々しい姿になっていた。
女は生気を失い、何かに怯える者、自ら腹を切り裂いて死ぬ者、数日後には姿を消す者。
男は舌や足、目に耳など、体の一部を失って帰って来た。
セオの父親も、騎士団の者達が道を歩いている時に動いていたという理由だけで捕まり、帰って来た時、下半身が全く動かなくなっていた。
そんな事が続くと、抵抗する術を持たない町の住民は抵抗する気力も無くなり、黙って彼等の言う事をきく奴隷のようになっていった。
「今日もアイツ等は洞窟探検か」
「あの洞窟に一体何が…」
騎士団の者達は、地底湖が存在している事をしると、ほぼ毎日のように洞窟に入っては出て来ると不機嫌で、住民達は彼等に因縁をつけられないよう家から出る事は無く、食料などは少人数が各家に分担して配るようにしていた。
セオは10歳になり、大人達から夜1人で食料を届けるのを頼まれるようになった。
子供なのでそんな多くは持てないので、米数キロと野菜が幾つかだ。
それでも明日は大人が昼前に配るので、それまでの間繋ぎには十分の量である。
ある夜。
セオがいつものように1人で宿屋へ食料を届けていると、宿屋の入り口に誰か立っているのが見えた。
「此処は宿ではないのか?」
声からしてまだ若い。
だがセオよりは年上なのは解る。
騎士団の者か。
急いで物陰に隠れて様子を伺おうと顔を覗かせると、人影が消えていた。
『あれ?』
「ねぇ君」
セオが不思議に思うのとソレは同時だった。
「うわ⁉」
驚き声を上げてしまった。
静まり返った町にセオの声が響き、家の中から宿屋の男性が飛び出して来て「この大馬鹿者!」と小声で叱るとセオを抱き上げ、一緒にいた人物に顎で〝中へ〟と合図を出す。
3人が中へ入ると、女性が直ぐに戸を閉めて鍵を掛けた。
布で窓を塞ぎ、室内では小さなランタンが微かな灯りで辺りを照らしていた。
「あんた…旅の人か」
「ああ。宿を探していたんだ」
宿の前にいた人物は、裾がボロボロの淡いポンチョのようなマントを羽織り、フードを目深に被っているのと、部屋が薄暗い事で顔がハッキリと見えないが、声からして若い男だ。
「此処ではなく、別の町へ行くべきだ」
男性の言葉に旅人が「なぜ?」と訊き返す。
「今この町には騎士団が来ていて…」
今度は女性が説明しようとするも言葉は途切れた。
理由は、外から誰かの悲痛な叫び声が聞こえたからだ。
その声を聴いた瞬間、旅人が外へ飛び出した。
「おい!よせ!」
男性が止める声を無視して男の姿が光の無い町の中へと消える。
「あなた…」
女性が不安げに呟き男性の腕に触れる。
男性は数秒考え「クソッ!」と吐き捨てると女性に「お前は家にいろ」と言ってランプを片手に外へ出ると、町の東北から火の玉が空へと上がって音も無く消えた。
それを見て男性が光の方へと駆け出し、セオもその方へと向かった。
心が震え体が動いていた。
男性の持つランプの微かな光だけを頼りに後を追う。
—ドォオオオン!
今度は大きな爆音と共に炎が上がり、地を抉った。
音のした場所へ辿り着くと、近くの数件が燃え、抉られた地面の中心に人影が見えた。
三つは騎士団の鎧をまとい、対峙している人物は先ほどの旅人だった。
旅人の纏うマントが風で揺れる。
「どう・・いう・・」
騎士団の男達は驚愕した顔で旅人を見ていた。
「逃げろ!」
声がし、見ると火の上がる家々から住民らしき人達がセオと男性の方へと走って来ていた。
「大丈夫だったか!」
男性の言葉に走って来た中年の男が「あぁ。何が起きたのかさっぱりだ」と言い、後から来た女性が「早く!」と急かす。
「何だ貴様!我々騎士団に盾突くのか!」
1人の騎士が怒鳴り剣を抜いて旅人へと向けたが、その顔は怯え青ざめている。
旅人が何も言わず一歩踏み出すと、騎士達は後退った。
ゆっくりと旅人が右手を騎士達へと翳す。
それとほぼ同時に騎士達が旅人に向かって炎を放った。
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