第48話

文字数 3,522文字

 アメリアとリマが実を幾つか見付けて戻って来ると、レオンが既に休憩しており、少ししてミゼラとアルドも戻って来た。
 2人が捕って来たのは大きな四足歩行の動物だったが、見るからに丸焦げとなっていて、アメリアは「何かあったの?」と問い掛けた。
 ミゼラにかぎって捕獲する為だけに黒焦げにするとは思えなかったのだ。
 アメリアの問い掛けにアルドが「あははは」と苦笑する。
「こいつが仕留め損ねて私に突進して来たのを燃やしただけ」
 ミゼラがアルドを指差し、呆れたように言う。
「そうか…。怪我は無いんだよね?」
 心配するアメリアにミゼラが「うん」と頷き返す。
 怪我が無かったなら良い。
「それじゃあ、捌くのはアルドに任せて、私達はスープを作ろう」
 アメリアはそう言うとミゼラと共に焚火の近くまで移動した。
 アルドが少し離れ、皆からは見えない所で丸焦げになった獲物を捌き始める。
 鍋に水を入れ、火にかけ、切った野菜を鍋に入れる。
 少ししてアルドが戻って来て肉を入れた。
「鍋は僕とレオンが見てるから、2人は今の内に水浴びをして来たら?ほら、向こうなら此処からラ見えないし」
 言ってアルドが川の上流を指差す。
 確かに途中陸地が川側に出ていて、木が生えて目隠し代わりになりそうではある。しかし、此処から近すぎるのは問題だ。
「今日は別に入らなくても平気よ」
 アメリアと同じ事を思ったらしいミゼラが頷く。
「入れる時に入らないと」
 尤もらしい事を言うアルドにミゼラが溜息を吐き「あんた、解っていて言ってるわよね?」と言って横目で睨むと、アルドは明らかに動揺して目を泳がせた。
「いやぁ…。本当に入っておいた方が気分的にも良いんじゃないかと思っただけだよ」
「説得力が無い」
「う…」
 アルドとミゼラの会話にレオンが溜息を吐く。
「それじゃあ、離れた所で入って来るとするよ」
 言ってアメリアはポーチから一枚の紙を取り出すとミゼラとリマに「行こう」と声を掛けた。
 2人は少し驚いた顔をしたもののアメリアの後に続いた。
 後ろで何やら叫んでいるアルドを無視しミゼラが「何処まで行くの?」と問う。
「2人、主にアルドに声が聞こえない所まで」
「ですが、物陰になりそうな岩も無いですよ?」
 リマの問いに、アメリアは手にした紙を見せた。
 まだ解っていないミゼラとリマが首を傾げる。
「もう少し離れたら解るよ」
 そう言ってアメリアは歩き続け、アルドとレオンからそれなりに離れた場所で、川に向かって紙を放った。
 その瞬間閃光が走り、光が消えると川の中にテントが張られていた。
「予備のテント。これを使えば周りから見えないでしょ?」
 言いながら川に入りテントへ向かう。
「服は濡れるけど、リマなら直ぐに乾かせるでしょ?」
 アメリアの言葉にリマは「任せて下さい!」と頷いた。
「大胆な事をするんだから」
 ミゼラも笑いながら川に入りテントへ向かう。
 床は完全に浸水し、水位は腰より下に達していたがアメリアは気にせず中に入り、床の部分だけ紙の中へと戻した。

「まさか…ああいう使い方も有ったとは」
 離れた場所に張られたテントを睨みながらぼやいたアルドにレオンがまた溜息を吐いた。
「お前なぁ!好きな子の裸を見たいっていうのは男の性だろ!」
「悪いが俺には解らないな」
 悔し気に叫ぶアルドに対し、レオンは呆れたように言い返す。
「有り得ない!男としてそれはどうかと思うぞ!まさかお前…本当は女よりおと「男全員がお前と同じだと思うな」
 アルドの言葉を遮ったレオンが腰の剣へ手を伸ばすのを見て、アルドは慌てて「冗談!冗談だって!」と謝ってレオンと距離を取った。
 レオンがアルドを一瞥した後、火に掛けられた鍋に視線を戻す。
 本当に冗談の通じない男だ。
「ふぅ…」
 一息吐いてアルドも椅子代わりの石に腰を下ろした。
「それにしても、結局は何も変わってないよな」
 アルドの言葉にレオンが「何がだ?」と訊き返す。
「この状況さ」
 アメリアから過去の話を聞き、これからどうするのか問われ、それぞれ覚悟を決め、これからも共に旅をする事にした。
「変わって欲しかったのか?」
 レオンに訊かれ、アルドは笑って「嬉しいだけさ」と答え、レオンを一瞥し「お前がいる事以外は」と嫌味を言うも、レオンには無言で流された。
 兄であるロードとは途中で別れたが、彼が今何をしているのか何となくだが察しは付く。
「お前はどうするんだ?」
 問い掛けにレオンが「何がだ?」と訊き返す。
「お前のとこの団長の事だよ。本当は何か理由が有ってアメリアと旅をしていたんだろ?俺はお前の事が嫌いだ。けど、仲間としては信頼している。だからこそ気になるんだよ。お前のとこの団長に何を頼まれているんだ?」
 真剣に問うロードに、レオンは視線を逸らせると小さく溜息を吐いた。
 それは面倒臭いというよりも、悩んでいるようで、何も問わずに言葉を待つ。
 揺れる火へ目をやったレオンが「何者なのか調べろと言われた」と呟くように言った。
「俺から報告するつもりはないが、今回の件は国王から団長に向けて報告が行く。それから俺に対して何か有るだろうな」
 そう語ったレオンの目はそれを覚悟しているように見え、ロードは「そうか」とだけ返した。
 覚悟が出来ているなら何も言う事は無い。
 静かな時間が流れる。
 煮だった鍋から美味しそうな匂いがし始めた時、アメリア達が戻って来た。
 すっかり髪も乾き、服も着ている。
 少し残念な気持ちで見ていたアルドに気付いたアメリアが睨み「何?」と問う。
「何でもないです」
 苦笑して誤魔化し、皆で食事の準備をする。
 1人ずつ器を手に取り出来た料理を取る。
 アメリアは当たり前のようにレオンの隣に座った。
 それがアルドには羨ましく、立ち上がって隣に移動する。
 アメリアは〝どうしてわざわざ〟というような目で見て来たけれど無視をした。
 食事を終え、アメリア達が自分達のテントへ入る。
 レオンもそそくさとテントに入って行った。
 焚火の炎も小さくなり、くすぶっているのを眺める。
 そろそろ自分も寝なければと解っているけれど寝れそうにない。
「ふぅ…」
 小さく溜息を吐くと、アルドは川の方へと歩き出した。
 誰かと旅をするのは初めての事だが、仕事ではないと思うと、少し楽しいと感じてしまう。
 自分らしく生きる事を諦めていたというのに、アメリアと出逢ったというだけで全てが変わってしまった。
 一目見た瞬間に好きになっていたのだと思う。
 まさか自分が誰かを好きになるとは思っていなかった。
 水面を見詰めながらそんな事を考えていると…。
―カサッ
 後ろで音がし、咄嗟に腰の剣へ手を伸ばし、飛び退いて身構えた。
「この辺りには危険な魔物はいないよ?」
 暗がりから出て来た人物、アメリアが言いながら歩いて来る。
「驚かせないでくれ…」
 安堵し剣から手を離す。
 そんなアルドにアメリアが笑いながら「ごめん」と言って隣に立ち、空を見上げた。
 その横顔に見惚れてしまう。
 まさか彼女がドラゴンの心臓を持っているなど思いもしなかった。
 どうして話してくれなかったのか考えもしたが、ドラゴン族と他種族の関係と歴史を考えると、アメリアが話さなかった理由も何となくだが解る。
 ドラゴンは嘗て天界人、女神や男神の使いで、地より生まれ、どの種族よりも強大な力を持っていると信じられていた。
 そのため、その力を手に入れようとする者達もいたらしい。
 ドラゴンの力を利用する為に強制的に契約を結んだという暗い歴史も有る。
 魔術で縛り力を利用したのだ。
 利用される仲間を助けようとするドラゴン族との戦も起きたらしい。
 嘘を吐き、騙し、利用した挙句、力が衰えたドラゴンを容赦なく…。
 そんな事も有り、ドラゴン族は他種族を信じなくなったらしいが、嫌われて当然だと思った。
 利用するだけして捨てたのだから。
 魔術によって結ばれたモノに信頼など無い。
 だからこそ気になる。
 どうしてアメリアの元仲間で、恋人だったドラゴン族の男は他種族と共に居たのか。
「お前の恋人だった男…アーレン…だったか。どんな男だったんだ?」
 アルドの問い掛けに、アメリアが「ん~」と小さく呻りながら屈んで水面に触れた。
 そっと触れた所から波紋が広がって消える。
 それを見届けてからアメリアが立ち上がり、また空を見上げて「面白い人だったよ」と言った。
「私ね、師匠の所を離れてお店を開いていた事が有るの。そして、アーレン達が時々来るようになって…。皆の話を聞いてたら自分の目で世界が見たくなって、一緒に旅をする事にした。今みたいに安心して進める場所は少ない時代だったけど、それでも楽しかった」

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