ストリクトリー・パーソナル【第十八話】

文字数 1,281文字





 壊色ちゃんはケタケタ笑う。
「さぁ、あたし、夢野壊色の術装で大人しく死にな」
 吹き抜けになった部屋に、強風が吹く。
 わたしは「うひー」と手で顔をかばうようにする。
 向かい風ですよぉー!
「拘束具使いが倒れたところで、次は弱そうな奴をぶっ倒すか。そこの阿呆っぽそうな奴。死にな」
「ええええッッッ! あのひと、絶対わたしのことを言ってますぅ!」
 わたしはたじろぐ。
「〈ロギア・シノプシス〉!」
 ゴロゴロと音がする。
 今夜は晴れているのに、カミナリの音ですよ?
「ひぃー! カミナリに打たれてバッドエンドですよぉ〜?」
「はぁ。騒ぐのはやめるのだ、メダカちゃん」
「だって、コノコ姉さん」
「任せるのだ、メダカちゃん」
 服の胸ポケットから文庫本を取り出すコノコ姉さん。
「厄災を振り払うのだ、我が術装! 〈目覚めの珈琲〉は如何なのだ? 行け、〈裸のランチ〉ッッッ」
 閃光が走った。
 壊色ちゃんが叫ぶ。
「スタングレネードか! 発光で目が見えないッ!」
「目覚めの珈琲で目を覚ますのだ」
 光が収束すると、風もカミナリの音も止んだ。
「壊色ちゃん、だったのだ? 〈天災〉の〈術装〉ではあるけど、惜しいのだ。最初に自分から〈精神に干渉する術装〉だ、と言っちゃっていたのだ。だから、わたしの〈(ディスオーダー)〉である〈目覚めの珈琲〉の元型(アーキタイプ)である水戸学の術装、〈裸のランチ〉で精神に干渉する攻撃を無効化させたのだ。つまり、みんなの精神を〈目覚めさせた〉のだ」
「やべっ! 口が滑っていた! クッソ」
 そこに涙子さんが割り込む。
「もう一度アバドーンを喰らうか?」
「ちっ!」
 と、そこに部屋の外の廊下から大きな声がする。
「壊色先輩! 逃げるっすよ!」
 振り返る壊色ちゃん。
「鵜飼! おまえ、攻撃タイプの能力者じゃねーんだから来るなって言っただろ!」
「先輩が心配で心配で、来てしまったっす」
「ああ、もう! んじゃ、逃げるぞ」
「逃走用の古代機械は用意してるっす」
「じゃ、逃げるか!」
 そこに涙子さん。
「逃がすかよ!」
「……逃がさないのはこっちの方よ」
 さらに声がした。
「弘道館塾生・鏑木盛夏。お姫さまはお姫さまらしく囚われなさいな」
 現れた盛夏ちゃんが本から飛び出る光の矢を乱発して繰り出す。
 それは〈鳥籠〉となって、涙子さんを囲った。
「ふゆぅ。その危ない〈ディスオーダー〉は封じたわ。鵜飼! 古代機械で運んで頂戴!」
「うぃっす!」
 見えないがそこにあるらしい〈古代機械〉が、水兎学の徒たちと涙子さんを運んでいく。
 壊色ちゃんは、その姿を消す前に、
「朽葉コノコ。おまえも〈書物使い〉なんだな? 次は絶対、殺す!」
 と、吐き捨ててから、去る。

 わたしには、なにが起こっているのか、またわからなくなったのでした。
 ただ残されたわたしたちの前には、破壊された高級マンションの一室があっただけ。
 今さらながらスプリンクラーがまわって、わたしたちにシャワーを浴びせかけるのです。

「……にゃたしたちには、逃げ場はにゃいのにゃな」
 ラピスちゃんが呟き、虚無感が夜の空美野市を包んでいるかのように、その呟きもまた、かき消されたのです。


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