ストリクトリー・パーソナル【第七話】

文字数 1,009文字





 血で染まった視聴覚室に、くすくす、という笑い声が響き渡る。
「やぁねぇ。絡繰りの〈古代機械〉じゃ倒せなかったじゃない。帰ったら鵜飼のこと、盛夏に叱ってもらわなくちゃね」
 それは幼女の声だった。
「斬られたいですか、出てきた方が身のためですよ」
 と、刀を構え直す氷雨ちゃん。
「血気盛んなのね、〈研究所〉の〈改造人間〉さんは。あはっ、失礼。異能力、だったかしら? 人造の異能を植え付けられた哀れな飼い犬さん」
 もやっとした霧が立ちこめ、それが凝縮する。
 現れたのは、長い綺麗な髪をした、妖艶で背の低い、幼年の女の子だった。
「こんにちは、空美野のみなさん。紹介遅れたわ。わたしは風花。雛見風花(ひなみふうか)よ。鏑木盛夏の、小さな恋人、と覚えていただけるとうれしいわ」
 お辞儀をする風花ちゃん。
 わたしは尋ねる。
「水兎学の……刺客ですか」
「刺客じゃないわ」
 即答する風花ちゃん。
「盛夏がせっかく助けた保険医を殺したそうね。いや、殺してはいないのか。これが空美野の意志ならば、暗闇坂と衝突することになるわ。もう〈東〉陣営は、〈西〉陣営のやり方にはうんざりなの。〈実験国家〉から離脱しましょう。〈(ディスオーダー)〉なんて人造異能の開発も維持も秘匿もやめましょう。暗闇坂深雨(くらやみざかみう)が、あなたたちのお姫さま……空美野涙子を殺害し、そして異能集団をこの世からひとり残らず虐殺することにするわ」
「黙れ、小娘ッ」
 刀で風花ちゃんを袈裟斬りにする氷雨ちゃん。
 でも、それは幻影で、斬ったら影が揺らいだだけだった。
「あら、怖い」
 くすくす笑う風花ちゃん。
「わたしたちは〈水兎学〉という〈ハイブリットセオリー〉の学術体系を持っている。わたしたちが動けばまだ〈間に合う〉わ。この国を戦火に巻き込みたくないでしょう? なら、大人しく降伏しなさいな」
 そこに、黒蜥蜴先生。
「保険医のサトミのことは悪かったよ。いくら謝っても足りないさ。でも、この国の〈根底〉を変えるってことだぜ、お嬢ちゃんが言ってることは、さ。そりゃぁ、無理だ。この国を潰すってことになるぜ、そりゃあ」
 くすくす、と口に手をあて笑う風花ちゃん。
「諦め顔ね、熱血教師さん。でも、歴史ってそういうものじゃない? あなたは歴史からなにを学んで来たのかしら」
「言うじゃんよ、お嬢ちゃん」
「言うに決まってるじゃない。針の(むしろ)なのは、研究所と水兎学、どちらかしら、ね。そう思わない?」
 どうやら、一筋縄ではいかないみたいですよぅ……。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み