ストリクトリー・パーソナル【第八話】

文字数 1,140文字





「戦火に巻き込みたいのは誰なのか、って話でもあるじゃん?」
 と、黒蜥蜴先生。
「わたしたち弘道館塾生……水兎学の徒は、研究所と対峙するこの任務についてから皆、出世も名誉も捨てたわ。歴史の影に身を潜めて暗躍する、ただ、任務の遂行に尽くすことだけを考えているの」
 と、風花ちゃん。
 氷雨ちゃんは刀を一振りして、
根無草(デラシネ)で構わない、ということですか」
 と、風花ちゃんに訊く。
「ええ、そうよ。禁裏道場を背負って緋縅さんは職務をこなしているのでしょうけど、〈捨てられないもの〉があるあなたでは突破出来ない壁があるのはおわかりかしら」
「言いますね、小娘」
「言うわよ。闇のなかでの内乱で済むなら、それにこしたことはないわ」
 わたしはみんなの話を聞きながら、鼻水をすする。
 やり取りが硬直状態になったとき、視聴覚室の扉が開いた。
「法則と力に対して、わたしは戦いを挑む。水兎学……書物使いのハイブリットセオリーなぞ、相手にもなりません!」
 開いた扉から入ってきてスカートのポケットから一冊の羊皮紙の本を取り出すこのひとは、斎藤めあ生徒会長だ。
 羊皮紙が表紙の本を弧を描くように振る。
「行きますよ……〈アンチ・オイディプス〉!!」
 爆風が巻き起こり、そこら中に付着していた血液ごと小さな竜巻になって、机も椅子も舞い上がった。
 当然、もやが凝縮して実体化している風花ちゃんの〈虚像〉もまた、かき回され、消えていく。
 消えかけながら、風花ちゃんはめあ会長に言う。
「知ってたわ。この視聴覚室の外には風紀委員会や生徒会のメンバーが待機しているのでしょう。でも残念ね。わたしはこのままここを去るわ。再会を楽しみにしているわ、斎藤めあ……、水兎学の裏切り者」
「水兎学を、確かに学びましたが、わたしは弘道館の〈諸生党〉ではないのです」
「詭弁ね」
「詭弁だと思うのなら、勝手にどうぞ。最後に、鏑木盛夏に〈殺す〉と伝えておいてください」
 くすくすくすくす、と笑い声だけが残響し、雛見風花ちゃんは、姿が消えた。
 氷雨ちゃんは言う。
「逃げましたか、あの小娘」
「そのようね」
 と、返すのはめあ生徒会長。
「今日の課外授業、これで終わり! また明日じゃん!」
 黒蜥蜴のあ先生は、両手を合わせてぱちんと打って音を立ててから、そう言った。

 そうでした、課外授業をしていたのでしたぁ〜。
 もぅ、トラブル続きでなにがなにやらですが、わたしも今夜は〈ティーパーティ〉が待っているのですよぉ!
 鼻水を拭き拭きしながら、しっちゃかめっちゃかになった視聴覚室を見渡すのです。
「事態が全然つかめませんよぉ〜!」
 言うことは、それしかなかったのです、だって、わたしはわたし自身のディスオーダーすら知らないんですよぉ?
 強く生きていきたいですよぅ……。


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