セーフ・アズ・ミルク【第九話】

文字数 1,111文字





 次の日の朝、普通通り学園に登校すると、ホームルームが始まった。
「転校生を紹介するザマス!」
 担任のザマス先生が勢いよく言う。
 一学期の終わり頃転校してくるとは。
 ああ、昨日の鏑木盛夏ちゃんかな、あの子、格好良かったなぁ、なんて思いながら机に頬杖ついて窓際の席でぼえーっとしていると、教室前方のドアを開けて、転校生がすたすたと歩いて教壇の前まで来て、ザマス先生と並んだ。
「さあ、緋縅さん。名前を黒板に書いてザマス」
「はい。わかりました」
 黒板に大きく〈緋縅氷雨〉と白チョークで書く転校生。
「え? こいつ昨日サトミ先生を殺害しようとした奴なのですよぅ?」
 わたしは思わず口に出していた。
「あら、知り合いザマスか? じゃあ、メダカさんの隣の席に座るザマス。ちょうど空いてるザマスよ」
 空いてるって、そりゃあ、クラスの風紀委員の方、死んじゃいましたし、空いているけど……、縁起が良いとは言い難い感じが。
 すたすたと最後尾窓側の席にいるわたしの横の席までよどみない足取りでやってきた氷雨ちゃんは、黙って着席する。
「これからよろしくです、佐原メダカさん」
「よ、よろ、……しく?」
 語尾が上がってしまいましたよ、疑問系になりますってば。
「緋縅さんは空美野研究所の研究員のお子さんで、みなさんとは多少出自が違うザマス。でも、仲良くするザマスよ!」
 教壇にいるザマス先生が、そう説明する。
「じゃあ、あの剣術は〈ディスオーダー〉ではない?」
 混乱するわたしに、隣の席に座った氷雨ちゃんが言う。
「いえ、ディスオーダーです。わたしは京都上京区にある〈禁裏道場〉師範代理です」
 わからないワードが出てきた。
「禁裏道場?」
「はい。天台・真言・律・禅の四宗兼学の道場が、禁裏道場です」
「それまたどうしてそんな難しそうで偉そうな肩書きの方がここへ? ていうか、サトミ先生をあなたは……」
「現生徒会長の元に、〈対魔術異能守護職〉が置かれることになりました。佐原メダカさん、あなたのご友人の金糸雀ラズリさんも、それには絡んでいるのです」
「なぜ、サトミ先生を!」
 激昂しそうになるのをこらえて、落としたトーンで、わたしは尋ねる。
「〈水兎学〉とつるんでいる者は、全てわたしの敵です。口を割らないので、刺しました」
「どういうことですか?」
「金糸雀姉妹か朽葉コノコ嬢にでも訊けば教えてくれますよ。それか……あの空美野涙子に、です」

 言ってることが不明過ぎます。どうなっているのか。
 わたしにはわからない。
 悩んでいるうちに、授業が始まる。
 教室には、コノコ姉さんはいない。
 これは放課後、みんなに訊いてまわることにしましょうか。
 しかし、転校生、謎過ぎますぅ〜。


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