ストリクトリー・パーソナル【第十六話】

文字数 961文字





 壊色ちゃんが、正面にまっすぐ立っている涙子さんを見ながら笑う。
「逃げないんだな、西のお姫さま。ありがちなお抱えSPやあんたの顔色伺って生きている〈研究所〉の人間たちに助けをこえばいいんじゃねーの?」
 今度はその言葉を聞いて、涙子さんが笑う。
「例えば、の話だがよぉ、夢野壊色。あんたこそ、問題の立て方から間違ってんじゃねぇのか?」
「ああん?」
「国の〈表の顔〉のお偉いさんは、SPに守られ、囲いの奴らにも常時守られている。そのお偉いさんが暴力で襲われたときのみ、国民はこぞって、暴力はよくない。暴力反対、と言う。一日に殺人事件は何万件起きているんだよ、この世界で。暴力がよくないって言うのなら、暴力反対を一生貫けって話だ。条件反射の瞬発力だけで暴力反対とか言ってんじゃねぇ、って話だろうがよぉ。それともなにか? 特別な人間は特別だから守られるべきで、金も地位も権力もない人間は暴力に抗えないままどうぞ殺人事件に見舞われて死ねって理屈か? テレビのニュースで毎秒流れる哀しいニュースにはそっぽを向いて、要人がピンチのときだけ暴力反対かよ。根本的なところの問題の立て方が間違ってるんじゃねぇのか? それにもうひとつ、例えば、だ。正規雇用を〈増やそう〉? バカか。いつだってあぶれる奴は大量に出てくる。いっそ世界中の人間が一人残らず全員、非正規雇用になってクビ切られる体験をして、貧しい生活と苦しみで泣く経験をしてみないと、正直なところこの瞬発力だけで物申すカスにはなにひとつわからせられねぇんじゃねぇか? そんな問題と一緒だろ、しょせん。ありもしない安全圏からご立派に主張したそぶり、そういう浅はかなサル知恵で自分のポジションを維持することに長けてる奴をペテン師っつーんだろがよぉ。……おまえはペテンの類いか、下っ端さんよ」
「お姫さま、反吐が出るほど言うねぇ、口先だけなら誰だって言えることを、な」

 ひー。
 なんだか修羅場ってますよぉ〜。
 なにがなんだか意味が通ってないたとえ話をしてますけど、涙子さんと壊色ちゃんには共通の了解が取れる話題みたいで、じりじり火花が散ってますよぉ〜〜〜〜。
 もう、なんなんですかぁ……。

 そして、壊色ちゃんが言う。
「重要なことだが、西のお姫さま。まだ、あたしの攻撃のターンは終わらないんだぜ?」


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