ストリクトリー・パーソナル【第十三話】

文字数 1,173文字





「戦略ゲームで使われそうなコマは先んじて赤い靴で踊ってもらいますわ」
「さらっと怖いこと言いますね、ラズリちゃん」
 思わず突っ込んでしまうわたし。
「出典はもちろん、童話の『赤い靴』。足は勝手に踊り続け、靴を脱ぐことも出来なくなる。死ぬまで踊り続ける呪いをかけられる……でしたかしら」
 ラズリちゃんがそう言うと、涙子さんは付け加える。
「その手の童話で継母が赤い靴で踊る、と言った場合も、それは熱された鉄のメタファーだな。熱された靴を履かされるか、熱くなった鉄板の上でのたうち回るって意味合いだ。が、まあ、いいんじゃねぇか。あたしらは正義の味方でもなんでもない」
 そこにコノコ姉さん。
「西のお姫さまの涙子ちゃんがいる時点でわたしたちは官軍だ、と言ってもいいのにそれは酷いのだ。斬奸ってことは、わたしたちも正義を標榜するんじゃないか、のだ」
「難しいところだな、コノコ。この国にはもう〈正義の所在〉なんて掴めない様相を呈しているぜ? とは言え、コノコが言うのもわかる。そもそもあたしたちは〈常識の範疇で生きてなんてねーんだよ!〉ってな。そんなあたしらがつくった抹茶ラテ・クインテットだ。いつだって困難は待ち受けるし、そのなかで戦うから輝くんだってのは、わかってるよな?」
「ふぅむ。涙子ちゃんは研究所とたもとを分かつのだ?」
「さて、ね。それこそ、戦略ゲームの敵のコマは赤い靴で踊ってもらうさ」
「わるいこちゃんなのだ、西のお姫さまは。自分が研究所にとって獅子身中の虫になる、と宣言しているようなものなのだ」
 ラズリちゃんが頷く。
「逃れ得ぬ劫罰……そんなのがあるとしたら、〈全てが終わったあと〉に、受け入れましょうかしら」
「実験国家でしかなかったこの国がよぉ、肥えた豚に見えるってんならそりゃ大間違いだ。この国は今もこころが飢えて、飢えて、飢えている。肥えた豚は一部の既得権益を持った者だけだ。そのコアを、切除するのがあたしたちのミッションだ。そのためには、見極めなくてはならねぇだろうよ、〈敵〉って奴を」
「そんなにイージーに悪の親玉がいるのだ?」
「さぁな……誰もが檻のなかでダンスをしているなら、この一望監視型監獄の看守を突き刺し、ぶっ殺すだけだ。この監獄のボスも、もちろん、な」

「にゃー! 期末試験も近いし、宿題を終わらせるにゃー」
 ラピスちゃんが言葉を発すると同時に、ぴんぽーん、とインターホンが鳴った。
「にゃ! そういやピザ屋にピッツァを頼んでいたのにゃぁー!」
 スリッパをぱたぱたさせながら、ラピスちゃんが玄関まで小走りで歩いていく。
 わたしはラピスちゃんを目で追いながら、自分の行き先を考えている。
 腕に付けたばかりのブレスレットに視線を移動させる。
 わたしはわたしの意志で動かなくてはならない。
 イージーかもしれませんが、今、そう、思ったのです。


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