ストリクトリー・パーソナル【第十五話】
文字数 1,021文字
☆
ラズリちゃんは廊下に倒れている。
ラズリちゃんが落とした本を回収した壊色ちゃんは、涙子さんと対峙している。
「あたしの〈ディスオーダー〉、知ってるよな、水兎学の下っ端ちゃん?」
涙子さんは、ニヤリと笑って、壊色ちゃんに、そう言い放つ。
その言葉を聞いて、壊色ちゃんも、ニヤリと笑う。
「そう凄まれたからってこの壊色さんがはいそうですかと引き下がると思ってないだろ、西のお姫さまさん?」
「怖くないってか? 〈地獄〉行きのこのディスオーダーが?」
「上等だぜー、ってな」
「そうか……。じゃ、喰らいな」
構える壊色ちゃん。
「〈病 〉……その現代魔術、このあたし、壊色さんは受け止めてやるよ」
涙子さんは、左手をかざす。
「そいつを喰らい尽くせ、地獄の門、アバドーンッッッ! 全力で行け、〈パワード・ザ・ダック〉ッッッ!」
左手を下ろすと、激しい閃光が辺り一帯に輝いた。
地獄の門は、アバドーンの口内にある。
そのアバドーンの地獄の口が開いて、壊色ちゃんを噛み砕いた。
血しぶきがわたしの身体にもかかった。
噛み砕くごりごりバキバキという音。
アバドーンは部屋の玄関をごっそりと抉った。
玄関の外の通路と、部屋の鉄筋コンクリートが剥き出しになり、そこに飛び散った血液が噴きかかった。
アバドーンが咆哮する。
涙子さんが左手の手のひらで空間を掴むようにグーに固めると、アバドーンは消えていった。
抉られたコンクリートの粉と鮮血のスプレーが周囲に充満している間、誰もが沈黙していた。
沈黙を破ったのは、かみ殺した笑い声だった。
「うっふっふ。あたしは死んでないんだなー、これが」
視界が広がっていくと、そこには壊色ちゃんの姿があった。
「必殺って言っても〈二者間〉で使う異能だからな、お姫さまのアバドーンは。残念。喰われたのはうちの仲間、〈傀儡師〉の長良川鵜飼が用意した絡繰り……〈古代機械〉だ。人間と誤認するんだよな、〈シミュラクラ〉って奴は」
シミュラクラ?
わたしのあたまが痛くなる。
「そんじゃ、反撃行くぞ! 人類の長い冬。黒き鉄の牢獄。そのほの暗さの境界にある鉄条網を破壊せんことを命じる……〈ロギア・シノプシス〉」
縦揺れの大きな地震が起きるなか、吹き抜けになってしまった部屋の中を、暴風雨が舞う。
横殴りの雨粒が目に入って、瞳を開けることが、わたしには出来ない。
これが〈天災〉を扱う壊色ちゃんの異能。
うひー、というわたしの声は、かき消されたのです。
ラズリちゃんは廊下に倒れている。
ラズリちゃんが落とした本を回収した壊色ちゃんは、涙子さんと対峙している。
「あたしの〈ディスオーダー〉、知ってるよな、水兎学の下っ端ちゃん?」
涙子さんは、ニヤリと笑って、壊色ちゃんに、そう言い放つ。
その言葉を聞いて、壊色ちゃんも、ニヤリと笑う。
「そう凄まれたからってこの壊色さんがはいそうですかと引き下がると思ってないだろ、西のお姫さまさん?」
「怖くないってか? 〈地獄〉行きのこのディスオーダーが?」
「上等だぜー、ってな」
「そうか……。じゃ、喰らいな」
構える壊色ちゃん。
「〈
涙子さんは、左手をかざす。
「そいつを喰らい尽くせ、地獄の門、アバドーンッッッ! 全力で行け、〈パワード・ザ・ダック〉ッッッ!」
左手を下ろすと、激しい閃光が辺り一帯に輝いた。
地獄の門は、アバドーンの口内にある。
そのアバドーンの地獄の口が開いて、壊色ちゃんを噛み砕いた。
血しぶきがわたしの身体にもかかった。
噛み砕くごりごりバキバキという音。
アバドーンは部屋の玄関をごっそりと抉った。
玄関の外の通路と、部屋の鉄筋コンクリートが剥き出しになり、そこに飛び散った血液が噴きかかった。
アバドーンが咆哮する。
涙子さんが左手の手のひらで空間を掴むようにグーに固めると、アバドーンは消えていった。
抉られたコンクリートの粉と鮮血のスプレーが周囲に充満している間、誰もが沈黙していた。
沈黙を破ったのは、かみ殺した笑い声だった。
「うっふっふ。あたしは死んでないんだなー、これが」
視界が広がっていくと、そこには壊色ちゃんの姿があった。
「必殺って言っても〈二者間〉で使う異能だからな、お姫さまのアバドーンは。残念。喰われたのはうちの仲間、〈傀儡師〉の長良川鵜飼が用意した絡繰り……〈古代機械〉だ。人間と誤認するんだよな、〈シミュラクラ〉って奴は」
シミュラクラ?
わたしのあたまが痛くなる。
「そんじゃ、反撃行くぞ! 人類の長い冬。黒き鉄の牢獄。そのほの暗さの境界にある鉄条網を破壊せんことを命じる……〈ロギア・シノプシス〉」
縦揺れの大きな地震が起きるなか、吹き抜けになってしまった部屋の中を、暴風雨が舞う。
横殴りの雨粒が目に入って、瞳を開けることが、わたしには出来ない。
これが〈天災〉を扱う壊色ちゃんの異能。
うひー、というわたしの声は、かき消されたのです。