セーフ・アズ・ミルク【第五話】

文字数 1,362文字





 放課後、朽葉珈琲店と同じ空美坂にある、軽食屋〈苺屋キッチン〉までわたしはやってきました。
 明るい板敷きの床のオープンテラスに、わたしは陣取る。
 今は七月。
 今月中旬にある期末試験に合格しないと、夏休みに補習を受けることになる。
「困りましたぁ〜」
 テーブルに突っ伏していると、後ろからぽかり、とトレンチで頭を軽く叩かれました。
 振り向くと、
「よっ! 元気そうだな、メダカ。……いらっしゃいませ、苺屋キッチンへ」
 と、ウェイトレスの苺屋かぷりこさんが、わたしに笑顔を向けてそこに立っていた。
「かぷりこさ〜ん!」
 かぷりこさんの胸に抱きつくわたし。
 青いギンガムチェックのシャツとエプロンという店の制服のよく似合うかぷりこさんの胸は、とてもむにーっ、としていた。
「どうした、メダカ? 学校のテストに合格する自信がない、って顔をしているぞ」
「え? どうしてそれを! かぷりこさんはエスパーですか!」
「いや、エスパーなのは異能力あるし否定はしないが、誰でもわかるぞ。一学期の期末テストの頃合いだろう」
「そうなんですよぉ。試験があるのですよぉ! 夏休みが補習で終わっちゃうことになりそうですよぉ」
「今日は一人なんだな、メダカ。いつもの連中の顔が見えないが」
「そうなんですよぉ〜。みんな忙しいみたいなのですよぅ」
「まあ、そうだろうな。金糸雀ラズリは、風紀委員のホープだったらしいが、数日前の〈異人館街の悲劇〉で、根こそぎ生徒会役員と風紀委員が死んだからな。風紀委員会を建て直すのは、ラズリが先頭に立ってやらなきゃならない、か」
「ラズリちゃんとは今日、学園で会えなかったほどですよぉ〜」
「そして空美野涙子は、空美野財団のお嬢様。こっちも忙しいだろうな」
「涙子さんは、学園をお休みですよぅ」
「うーん、朽葉の奴は、そこらへんをいつもうろちょろしているしなぁ」
「そうなのです。ラズリちゃんの妹のラピスちゃんはまた部屋に引きこもっているし」
「それで、寂しくてわたしのところに来たかー」
「はい」
「でもせっかく来てもらって悪いが、あたしは仕事中だ。はい、おしぼり」
「ですよねー」
「ご注文は?」
「えーーと」
「〈うさぎですか〉以外の応答を頼むぞ」
「えー。ギャグらせてくださいよぉ」
「いつもの苺パフェでいいか?」
「はい! 苺パフェ、お願いします!」
「はいよー。しばらく待ってな」
「はぁ〜い」
 厨房へ向かおうと歩いていくかぷりこさんは、くるっとまわって、わたしに投げかける。
「部活とか、やればいいんじゃないか、メダカ」
「部活?」
「倶楽部活動」
「考えたこともありませんでした」
「いや、まあ、青春は、悔いを残さないようにしろよな」
「そうですか? 考えたこともありませんでした」
「ははは。流石、佐原メダカだな。難しく考えることでもないさ。んじゃ、パフェ持ってくるから、そこでじっとしてろ」
「かぷりこさん!」
「なんだ、メダカ?」
「今日はどんな下着をはいていますかッッッ!」
 勇気を振り絞って、わたしは訊いてみる。
 腰に手をやり、中腰の姿勢になったかぷりこさんはいたずらな笑みを浮かべた。
「教えてやるよ」
「はい!」
「はいてない」
「なん……だとッ?」
「じゃ、パフェを待ってろや」
 今度こそ厨房に消えていく苺屋かぷりこさんでした。
 そっかぁ、ぱんつはいてないのかぁ……。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み