ストリクトリー・パーソナル【第十一話】

文字数 1,600文字





 波止場にあるマンションへ向かう。
 マンションの六階に、金糸雀姉妹の部屋はある。
 ポートタワーが見渡せるが、高校生の姉妹だけで住むには豪奢なところがある。
 けど、その豪奢さが、ラズリちゃんやラピスちゃんらしいな、とも思う。
 マンションの前で認証を受けて建物の中に入ると、わたしはエレベータに乗って、六階に急ぐ。
 今夜は金糸雀姉妹の妹、金糸雀ラピスちゃん主催のティーパーティなのだ。
 エレベータのなかでひとり、最前、かぷりこさんと話していたことを思い出す。

「固有結界を守ろうとしたのは盛夏。氷雨は保険医のサトミを斬ろうとしていた。黒蜥蜴のあはサトミの命を守ろうとした。これはどういうことか」
「どういうことなんですかぁ」
「空美野学園の固有結界を破壊して衆目に晒すのが、この国が〈実験国家〉だとバラすのに都合が良い。けど、鏑木盛夏は、固有結界を守るため、サトミを助けようとしてた。黒蜥蜴のあがサトミを助けるのは学園のためでもあり、イコールで国是でもある。だが、風花の言葉を思い出してくれ。〈闇のなかでの内乱で済むなら、それにこしたことはない〉と。つまり、水兎学派の連中は、〈衆目に晒す〉前に、〈内乱〉を起こそうとしているんだな。何故って、〈空美野研究所〉が邪魔だからだ。西陣営の本丸である研究所を潰さないと、いくらでも国は工作が出来る。正直なにを晒そうとしても、メディアコントロールが出来てしまうから、晒しても無駄ってわけさ。東陣営である弘道館のビブリオマンシーの水兎学派は、西陣営である研究所と戦争を起こす気だろう。文字通りの、内乱であり、革命を起こしたいのさ。国家転覆。東陣営のお姫さまの名前は暗闇坂深雨。一方西陣営のお姫さまは空美野涙子。どっちかがどっちかの首でも取らなきゃ内乱は飛び火して全国に広がるだろう。今は、遊撃隊やゲリラのように鏑木の一味が空美野市に潜伏しているだけだが、な」
「サトミ先生って一体何者だったのですか」
「スパイに見えるだろ? でも違うんだ。外交官として東西の調停役を担ってたそうだ。意見は学園には受け入れられないままだったそうだが。そりゃそうだろうな。そして、決定的に東西の思想が対立してしまった。その被害者だよ、サトミは、ね」
「今日の襲撃は一体誰を狙って?」
「サトミ襲撃のときの氷雨が言う〈サトミが口を割らない〉とは、暗闇坂家は水兎学と合流しているというのが事実だったことだ。水兎学を学んで草莽の士となった者たちが、この街で暗躍しているんだ。一方で、水兎学の諸生党と呼ばれる一派は常陸にこもっているそうだ。雛見風花が斉藤めあが詭弁だ、と言うのは、諸生党ではなく草莽になりながら研究所側についているように見せようとしていること。弘道館の〈諸生党〉は穏健派。草莽となった者が暗躍して革命を起こそうとしているが、本当の〈草莽の士〉は革命勢力として暗躍している水兎学の徒ではなく〈自分〉だ、と斎藤めあは言ったのさ。言い換えれば、本当の水兎学の徒は、学園を守る人間を言う、というスタンスが正しいとするのが斎藤めあだ。『ですが、わたしは! 法則と力に対して、戦いを挑みます!』と就任演説したって聞いたぜ。たぶん、今後はそれがどういう意味なのかが問われていくだろうな」
「で? 視聴覚室の襲撃は」
「自分らは学園にも潜り込める、つまり〈逃げ場はない〉というあいつらのメッセージだろう」

 はい、回想終わりですよぉ!


 エレベータを降りてマンションの部屋のチャイムを鳴らすと、ラピスちゃんが、
「待ちくたびれたにゃー! にゃたしのために一発芸を披露するにゃー!」
 と、インターホンのスピーカーから叫んでいるのが聴こえた。
「一発ゲイ?」
「地獄へ堕ちろ、佐原メダカぁぁぁぁにゃーーーーッッッ」
 そして、玄関ドアが解錠され、わたしはティーパーティまでたどり着いたのです。
 はりきっちゃいますよぉ〜〜〜〜!


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