セーフ・アズ・ミルク【第四話】

文字数 1,226文字





 あらためて。
 書くことは速度でしかなかった、とは、故・寺山修司の言葉です。
 なんでわたしは遅筆で無学で、無教養なのでしょう。
 わたしは亀の歩みで、なにも学ばず躾けもなっておらず、書くことは速度であり、どんどん後ろから速度を持ったひとたちに追い抜かされていく自分を悔しく思うのです。
 悔しいと思うこころ、それゆえに、自分は卑しい人間だ、とも思えるのです。
 わたしは虚栄心の塊、みにくい人間なのです。
 速度。
 もっと速度を、そのスピードで。
 大きな曲がり角が来たら、わたしはためらわずに曲がろうと思う。
 このみにくいわたしでも、誰かの役に立つなら、ためらわずに、その未来につながる道を選びたい。
 迷いもひらめきも今はなにもないけれど、それでも、いつか、きっと、そのときは来るはずで。
 ……誰かのお役に立てたらいいな。



 と、そこまでマッキントッシュで書いて、「ぐはぅ!」と、わたしは〈エア吐血〉したのでした!
「くっ! 自分で書いたとはいえども、メンヘラか中学二年生女子みたいにポエマーしちゃいましたぁぁぁぁ、うひー」
 文机の前で正座していたわたしは、後ろ向きに倒れ、万年床の上でのたうち回った。
「あーあーあーあーあーあーーーー!」
 絶望である。
 小説投稿サイトのファンレターで調子に乗ってやらかしてしまったときのように、わたしはあたまを抱えざるを得ず、
「ふぁっきん・しっと!! ドープですぅ! 褒め言葉じゃない方の意味合いですよぉ〜!」
 と言っては、のたうち回ったのでした。
「落ち着くのです、佐原メダカ、このわたし! わたしはちょっと上から目線な作家で調子に乗っているのは事実。化けの皮ははがされるもので、もう風穴が空いている、と言っても過言ではない状態です……が、まだ頑張るのですよー。自分の身から出たサビをリフレインですぅ〜!」
 と、そこへドアを開けて入ってくるコノコ姉さん。
「今何時だと思っているのだ、メダカちゃん。その錆とサビをごった煮した表現をやめろ、のだ。ダブルミーニングには全くなっていないどころかそれ〈関連妄想〉っていう病気の症状みたいなのだ。即刻やめて寝ろ、のだ。今は午前三時なのだ。明日も学校なのだ。そろそろ一学期の期末試験がやってくるのだ。準備おーけーなのだ?」
「月の輝き、星の愛。あまたの光を集めて今、あなたの心に届けましょう。九十九期生首席 ・天堂真矢ッッッ!今宵、きらめきをあなたに!」
「いきなりなに言ってるのだ?」
「でぃすいず天堂真矢ッッッ!」
「寝ろ、のだ」
 万年床に横になっていたわたしの横っ腹に、コノコ姉さんは蹴りをいれた。
「うげら」
「寝、ろ、の、だ!」
「はぃ……」
 しゅん、としたわたしを置いて、コノコ姉さんはあくびをしながら自室に戻っていく。
 わたしはマッキントッシュの電源を落として、布団に潜り込んで丸くなったのでした。
「期末試験……とは? うっ、あたまが!」
 頭痛がするわたし。
 絶望広がる新世界が見えそうです。


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