ストリクトリー・パーソナル【第三話】

文字数 1,466文字





 放課後。
 緋縅氷雨ちゃんは普通にジト目で授業を受けていたのです。
 それを確認しつつ、わたしはバケツを持って授業中、思案に暮れていたんですよぉ?
 ラピスちゃんが提案した〈アーリーサマーティーパーティ〉についてコノコ姉さんに話すと、
「たまにはそういうのもアリなのだ」
 と言って喜んでくれました。
 バケツの水を捨てて教室に戻るわたし。
 用具入れにバケツをしまうと、教科書類はクラスに置きっぱなしにして、ショルダー型の鞄を肩にかけて教室を出よう……と、いうところで、教室の出入り口に仁王立ちしているのは、お酒と煙草の匂いをまとわせたデンジャーな人物、……その女の名を、黒蜥蜴のあ、……に間違いありませんでした。
 ニヤニヤとヤニくさい声で、
「あ〜ら、佐原メダカさんじゃん? どこに行くのかしらねぇ〜? 鞄の中身も空っぽなら、のーみそのなかも空っぽなのかにゃぁ? だから、ねぇ、どこに行くんじゃん?」
 と言いつつ、わたしににじり寄って来るのです。
 邪魔です!
 マジ邪魔です!
「わたしはアーリーサマーティーパーティに行くんですよぅ! どいてください、黒蜥蜴先生!」
「おやおやおや。〈アーリーサマー〉というのは翻訳すると〈初夏〉だけど、5月から6月を普通は指す言葉じゃん? どうやらのーみそに栄養が足りてないようね。残念ながら胸に全部栄養がいっているように思ってはいたけど、……重症じゃん? さぁ、のーみその栄養をとるためにこの黒蜥蜴先生サマと課外授業をするわよ? のーみそが栄養失調になってる佐原さんに最適じゃん!」
「ひっ、ひぃ!」
 がっしりとわたしの肩を掴んで離さない黒蜥蜴先生。
「わたしはスッポン並に、食いついたら離さないからねー!」
「い、いやぁ〜!」
 と、そこに、すぱこーん、と音を立てて黒蜥蜴先生の頭にハリセンで叩く女生徒が!
「痛いわねぇ」
「当たり前です。まるで課外授業を受ける者がみな、のーみそ栄養失調みたいな物言いじゃないですか」
「もー、いいじゃんかぁ」
「よくありません」
「あなたもあとで抱きしめてあげるからぁ、気を悪くしないで、緋縅さん」
 また、すぱこーん、とハリセンで先生を叩く、この女生徒は緋縅氷雨ちゃん。
「へ? 氷雨ちゃんも課外授業を受けるので?」
「今の話の流れ、理解していなかったのですか、佐原メダカさん。わたしも課外授業を受けます」
「だって、前にワンツーマンみたいなことを黒蜥蜴先生が言っていたものですから」
「あー、あれはノリでね、言っただけ。でも、生徒は二人だけなのは間違いないのよね」
 ため息を吐き、氷雨ちゃんは肩をすくめる。
「黒蜥蜴先生は、ご自身の人徳のなさを理解した方が良いですね。なんですか、ノリでね、って。阿呆ですか。阿呆なのですか?」
「うっ、二回も阿呆って繰り返さなくても」

 なにがなんだかわからないうちに、わたしは緋縅氷雨ちゃんと一緒に、黒蜥蜴のあ先生の課外授業を今日から受けることになってしまったのでした。
 幸い、ラピスちゃんに電話をかけてみると、ティーパーティは夜行うとのこと。
 そして、〈アーリーサマー〉については、
「あーりー? ありぃ? 間違ったかにゃー。にゃははははは」
 と、電話口で笑っていたので、速攻でわたしはラピスちゃんとの通話を切りました。

 そうですねぇ、期末試験が終わったらプール開きに海開きですよ。
 そして、夏休み。
 今夜はティーパーティだし。
 黒蜥蜴先生に、ここは付き合いましょう。

 わたしは鞄に教科書を詰めて、課外授業のために空いてる教室である、視聴覚室に向かったのでしたぁ!


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