セーフ・アズ・ミルク【第六話】

文字数 1,096文字





 職員室にある自分の事務机に突っ伏してぐーぐー眠っている、アルコールと煙草のにおいが染みついた低身長童顔女性教師。
 黒蜥蜴のあ。
「むにゃむにゃ……。わたしはチェインスモーカーだから早く部室の空気清浄機の前で煙草吸いたいわけじゃん……。むにゃむにゃ」
 寝言まで怠惰なこの黒蜥蜴先生は、私立空美野学園高等部の、演劇部顧問。
「はっ!」
 と、叫んでいきなり飛び上がるように起きると、黒蜥蜴先生は事務机の引き出しから缶麦酒を取り出し、プルタブを開けた。
 プシュッ、と音がして少し泡が出る。
 そしてそれを一気に飲む。
「ぷっはー! 黒麦酒最高ッ!」
 流石にもう見なかったことにして帰ろうとするわたし。
 だが、廻れ右をして職員室から出ていこうとしたら、黒蜥蜴先生は肩に手を乗せ、ぎゅっと掴む。
「う、動けません……」
「動かないように、帰らないようにしているんだから当たり前じゃん?」
「わたしの気の迷いでした。今後、一切先生とは関わりになるのはやめます、その手を離して!」
「離しはしない、絶好のカモがぁ!」
「こ、このひと今、わたしのことを〈カモ〉って言いましたよ? それ以前の問題として職員室の自分の事務机に缶麦酒入れている教師がいてたまりますかぁ!」
「なにを言ってるのかしら? これはれっきとした麦茶よッ! さぁ、演劇部に入りなさい、興味があってここに来たのでしょう、佐原メダカさん?」
「もうわかりました、こんな外道に教わるものはなにひとつありませんってことがわかりましたから、もういいです! 家に帰ってドラマ観ますから! アイドルドラマに出演してるイケメンアイドルのご尊顔を観ていた方がいいですからね、さぁ、だから、その手を離して。あと、よだれ拭いてください、先生!」
「逃さないじゃ〜ん、そうはいかないじゃ〜ん! って、あっ、やべ、眠ってたらよだれ垂れてたじゃん?」
 腕でよだれを拭う黒蜥蜴先生。
 ダメだこのひと、とわたしは思うのでした。
 倶楽部活動に興味を持って、文化部がこの学園にはめぼしいものが演劇部くらいしかないので顧問教師のところへ来たらこんなことに。
 散々ですよぉ〜、もぅ。
「佐原メダカ。あなた、期末テストの勉強を効率的にしてみたい、って思わない? 塾や予備校、通ってないでしょ?」
「え? え? ええ、まあ」
「教えてやんよ」
「は? 今、なんと?」
「教えてやんよ。わたしが直々に期末対策の課外授業をあなたひとりのためだけに……してやんよ」
「せ、先生! 黒蜥蜴のあ先生ッッッ」
 思わず抱きしめ合うわたしと黒蜥蜴先生なのでした。
 ああ、落ちて行く気がするのは何故でしょうか。
 あれー、おっかしいなぁ?



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