ストリクトリー・パーソナル【第十四話】

文字数 1,282文字





「イケダヤピザでーす。お届けにまいりましたぁ〜」
「はいはい、待つのにゃー」
 廊下をぺたぺたスリッパで移動するラピスちゃんは、玄関を解錠する。
「にゃー、ピッツァを寄越すのにゃー!」
「代金は合計で……おまえらの命全部だ。命で払ってもらうぜ?」
「にゃッッッ? 刺客にゃ!」
「お初にお目にかかるぜ。あたしの名前は夢野壊色(ゆめのえじき)。水兎学派の徒だ」
 和服の懐から革張りの書物を取り出す。
「受けよ、この壊色さんの特製術装〈ロギア・シノプシス〉ッッッ!」
「にゃ! 共感福音の異能にゃ!」
 そこにダッシュしてラピスちゃんのところまで来るのはラズリちゃん。
「愚妹は下がってなさい!」
 ラピスちゃんをかばうように前に躍り出るラズリちゃん。
 わたしとコノコ姉さんも走って玄関まで駆けつける。
 涙子さんは、ゆっくり歩いて、様子を窺うように玄関へ向かう。
 ラズリちゃんは右手を伸ばし、ディスオーダー発動の構えをする。
「スタン・カフ!」
「ぬおっ!」
 腕にラズリちゃんのスタンカフがぐるぐる巻き付けられる。
「ふふん、どうでして? ビブリオマンシーさん?」
「うーん、異能は発動しちゃったし、頑張ったんだろうけど、ごめんごめん。苦しんでくれ。人間の心の動きというのは、心的因果論と、器質的因果論の二つの側面から〈記述〉できる、とされる。さて、どちらにしろそういう精神系統を扱うのは〈うち〉じゃスタンダードなんだぜ、喰らいな」
 そこにコノコ姉さん。
「〈ロギア〉と言えば神学だけど、この〈ロギア〉は〈天災〉を扱う能力なのだ! 気をつけろと言いたいけど無理なのだ。各自自己防衛をするのだ!」


 壊色ちゃんは、言う。
「人類の長い冬。黒き鉄の牢獄。そのほの暗さの境界にある鉄条網。それらを壊すためにあたしは戦うんだよ」


 壊色ちゃんが片手に持ったピッツァの箱が発熱する。
 それをフリスビーの円盤で遊ぶように水平に投げる。
 箱は発火し燃え上がり、同時に部屋の壁が一瞬で、干からびるように崩れ落ちてくる。
「あたしの能力は戦闘向きじゃないけど、このくらいは出来るさ。金糸雀ラズリちゃん、だっけ? この壊色お姉さんに大人しくその書物を返しなさい」
「やなこった、ですわ」
「仕方ないなぁ」
 ラズリちゃんの持っている本のまわりに、大きい水の塊が出来たかと思うと、その水の固まりは宙に浮かんでいる。
 そしてその水の塊が、ラズリちゃんの顔を覆った。
 ぶくぶくぶくぶく。
「窒息するぞ、このままだと? さぁ、返すんだ」
 かたくなにそれを拒絶するラズリちゃんは、もがき苦しんでから、廊下のフローリングに倒れた。
 本を回収する壊色ちゃん。
 水の塊は弾け飛ぶ。
 コノコ姉さんは、わたしの横にいて、わたしを気にしていて動かない。
「やぁ、西のお姫さま」
 壊色ちゃんが、奥から歩いてくる涙子さんに挨拶する。
 部屋は燃えていて、壁も天井も干からびていてボロボロと建材が落ちてきて、それが炎に引火してさらに火の手は広がる。
 そのなかを、空美野涙子ちゃんは、歩いてくる。
 涙子さんは、言う。
「あたしの〈ディスオーダー〉、知ってるよな、水兎学の下っ端ちゃん?」


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