ストリクトリー・パーソナル【第十話】

文字数 1,797文字






「期末試験がち〜かいぞぉ〜」
「うっ! あたまが!!」
「あたまがどうした? あたまがわるいって話だろ?」
「かぷりこさん、酷いですよぉ〜」
「はい、追加注文の苺のロールケーキとマシュマロ・マキアート」
「ヒャッハー!」
「メダカ、おまえ、ほんとチョロいな……」
「がっぴーん」
「がっぴーん、じゃねーよ」
「あ、はい。そうでした。説明の途中、でしたよね」
「そーだよ」
 わたしは襟を正す。
 正確には、制服のタイを正す。
 タイが曲がっていてはならない事態なのですよぉ?
 茜さす、〈苺屋キッチン〉の客席で。
 わたし、佐原メダカと苺屋かぷりこさんは、向かい合って座り、話すのです。
 青いギンガムチェックのシャツとエプロンという店の制服のよく似合うかぷりこさんと、茶髪で前髪を隠すようにしているわたしが。
 わたしたちが。
 七月の日はのびていて、夕方でもまだ明るい。
「かぷりこさん!」
「なんだぁ、メダカ」
「今日もぱんつ、はいてないのですかッッッ?」
「うっしっし。はいてねーよ」
「ヒャッハー!」
「アルコールと煙草のにおいが染みついた低身長童顔女性教師・黒蜥蜴のあ」
「はい」
「黒蜥蜴のあの、期末対策の課外授業。受けるは佐原メダカともう一人。京都上京区にある〈禁裏道場〉師範代理であり、現生徒会長・斎藤めあの元に置かれた〈対魔術異能守護職〉である緋縅氷雨」
「はい」
「対するは水兎学の徒。弘道館塾生・鏑木盛夏と、その一味。こいつらは朽葉コノコの言葉を借りれば〈革命勢力〉。水兎学のビブリオマンシー。〈書物使い〉だったな」
「はい」
「氷雨が言うには、東の暗闇坂家と西の空美野家のふたつの家系が、この国の〈裏政府〉と直結している。氷雨は〈禁裏道場〉から対魔術異能守護職として呼ばれ、〈幻魔術〉とその〈術装〉を使う〈水兎学〉のビブリオマンシーの連中から暗闇坂家と空美野家を守るために呼ばれたのだ、と」
「そうですそうですぅ」
「〈ディスオーダー〉は秘匿されつつ運用もされねばならない。戦後、連合軍がこの国を実験国家に指定し、国際的な研究の実験場にしたから、従うしかなく、その〈要〉が、暗闇坂家と空美野家である、と。両家は国際財団であり、だから裏政府の監視役であり、フィクサーでもある」
「はい。そうでしたね」
「阿呆なメダカにあらためて説明すると。物理攻撃を扱える異能を〈サブスタンス・フェティッシュ〉と呼ぶ。それに対して心・空間を扱う異能を〈ディペンデンシー・アディクト〉と呼ぶ。この異能力を総称して〈ディスオーダー〉と呼ぶ。……それが、この異能の世界の〈基礎〉」
「ですですぅ」
「課外授業に現れたのは鏑木盛夏の小さな恋人・雛見風花。風花が言うには。〈東〉陣営は、〈西〉陣営のやり方にはうんざりで、〈実験国家〉から離脱しよう、と。〈ディスオーダー〉なんて人造異能の開発も維持も秘匿もやめよう、と。暗闇坂深雨が、空美野涙子を殺害し、そして異能集団をこの世からひとり残らず虐殺する、って話だったわけだ」
「はい。そうですね」
「風花は、斎藤めあを、水兎学の裏切り者と呼ぶ。一方、斎藤めあ生徒会長は水兎学を学んだが、弘道館の〈諸生党〉ではない、と言う。それに対し、風花はそれを、詭弁ね、と一蹴する」
「はい」
「で、メダカの疑問。あれは〈誰を狙った襲撃〉だったのか、と」
「そうですよぉ〜」
「あたし、苺屋かぷりこからは、保険医のサトミ襲撃事件のこと。サトミの固有結界を守ろうとしたのは鏑木盛夏。緋縅氷雨はサトミを斬ろうとしていた。黒蜥蜴のあは盛夏の側について、サトミの命を守ろうとした。これはどういうことか。まずはそこからだろ、と言ったわけだ」

「あー、話がやっと見えましたぁ〜」
「やっぱ阿呆だろ、メダカ」
「がっぴーん」
「いや、それはもういいから」
「しゅん……」
「落ち込まなくていい。今までのおさらいだ」
「はい!」
「立ち直り早いな、おまえ」
「それだけが取り柄なんで!」
「そっかよ。じゃあ、簡単に説明するから、とっとと金糸雀ラピスが用意したティーパーティに行けよな」

 暮れていく、暮れていく。
 陽が落ちるまでには時間があるけれども。
 わたしたちの世界は、まるで暮れていくかのように思えるのです。
 わたしは、自分のディスオーダーすら知らない、もしかしたら人間ですらないかもしれないわたしは、一体暮れていく世界で、どう動けばいいのかと、少し考えちゃったりもするのです。


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