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文字数 1,334文字
期末考査の最終日、校舎を出たところで瀬戸に呼び止められた。
「一昨日、部屋の掃除してたらさ、懐かしいゲームが出てきたんだ」
試験期間に部屋の掃除とは随分余裕だが、それでいつも優秀な成績を納めてしまうのが彼だ。
「ゲーム?」
タイトルを聞くと、それは僕らがまだ小学生のころにふたりで夢中になったレースゲームだった。
「これからうちで遊ばないか?」
この日の午後は試験がひとつあるだけだったため、時刻はまだ14時前だった。
僕らの家があるのは10年ほど前に開拓された新興住宅地で、町自体が比較的若いのだが、玄関に書道教室の看板を掲げたその家は、分譲開始時に建てられた周囲のものより幾分新しく、庭などの手入れも行き届いていることもあって、とりわけ綺麗だった。
玄関の扉をくぐると、ほのかに墨の香りがした。先に上がった瀬戸が左手の部屋に声をかける。
「樋上を連れてきた。部屋にいるから」
ぱたぱたとスリッパの足音が聞こえて、瀬戸のお母さんが扉から顔を出した。柔らかな表情を除けば瀬戸と瓜ふたつなその顔立ちは、僕らが小学生のころから全くと言っていいほど変わらない。
「樋上くん? 久しぶり! 元気にしてた?」
「はい、なんとか」
会うのは高校の入学式以来だった。簡単な近況報告のあと、2階にある瀬戸の部屋に上がった。殺風景とさえ思えるほど綺麗に整理された6畳ほどの部屋の隅に荷物を置かせてもらい、テレビの正面に腰を下ろした。テレビには、ひと世代前のゲーム機が繋がれている。「もう入ってるから」と、隣で胡座をかいた瀬戸が腕を伸ばして電源を入れる。そのまま本体の側にあったコントローラーをふたつ取って、一方を僕に渡した。
「試験前に遊んでたのかよ」
「昨日だけな」
懐かしい起動音のあと、オープニングムービーが流れ始める。
「グランプリでいい? タイムアタックか何かで思い出しとく?」
グランプリは、コンピュータが操作するキャラクターも含めた12台のマシンで、4つのレースを走り、その総合結果で順位を争うモードだ。タイムアタックはその名の通り、ひとりで好きなコースを走ってタイムを競うモードで、他にもいくつか遊び方があったが、当時の僕たちはもっぱらグランプリモードを遊んでいた。
「いや、グランプリでいいよ」
画面が次々と切り替わり、使用するキャラクターとマシンを選択する所で止まった。キャラクターだけでなく、よく使っていたマシンまで記憶に残っていた。
更にいくつかの設定を行い、ようやくレースが始まる。見覚えのあるコースが現れて、姿勢を正した。左右に分割された画面にはそれぞれ、僕と瀬戸の操作するキャラクターが表示されている。
このゲームでは、スタート時にタイミングよくアクセルボタンを押せば最高速度で飛び出せるのだけれど、久しぶりで上手くいかなかった。一方、隣の画面では当然のように成功していた。
「昨日どんだけやってたんだよ」
瀬戸は短く笑った。
スタートダッシュこそ失敗したものの、操作方法は手がしっかり覚えていた。カーブも脱線せずに曲がれたし、コース上に設置されているアイテムを取りこぼすことも無く、結果的に4着というまずまずな順位でゴールした。
「結構巻き返したな」
そう言う彼は1着だった。
「一昨日、部屋の掃除してたらさ、懐かしいゲームが出てきたんだ」
試験期間に部屋の掃除とは随分余裕だが、それでいつも優秀な成績を納めてしまうのが彼だ。
「ゲーム?」
タイトルを聞くと、それは僕らがまだ小学生のころにふたりで夢中になったレースゲームだった。
「これからうちで遊ばないか?」
この日の午後は試験がひとつあるだけだったため、時刻はまだ14時前だった。
僕らの家があるのは10年ほど前に開拓された新興住宅地で、町自体が比較的若いのだが、玄関に書道教室の看板を掲げたその家は、分譲開始時に建てられた周囲のものより幾分新しく、庭などの手入れも行き届いていることもあって、とりわけ綺麗だった。
玄関の扉をくぐると、ほのかに墨の香りがした。先に上がった瀬戸が左手の部屋に声をかける。
「樋上を連れてきた。部屋にいるから」
ぱたぱたとスリッパの足音が聞こえて、瀬戸のお母さんが扉から顔を出した。柔らかな表情を除けば瀬戸と瓜ふたつなその顔立ちは、僕らが小学生のころから全くと言っていいほど変わらない。
「樋上くん? 久しぶり! 元気にしてた?」
「はい、なんとか」
会うのは高校の入学式以来だった。簡単な近況報告のあと、2階にある瀬戸の部屋に上がった。殺風景とさえ思えるほど綺麗に整理された6畳ほどの部屋の隅に荷物を置かせてもらい、テレビの正面に腰を下ろした。テレビには、ひと世代前のゲーム機が繋がれている。「もう入ってるから」と、隣で胡座をかいた瀬戸が腕を伸ばして電源を入れる。そのまま本体の側にあったコントローラーをふたつ取って、一方を僕に渡した。
「試験前に遊んでたのかよ」
「昨日だけな」
懐かしい起動音のあと、オープニングムービーが流れ始める。
「グランプリでいい? タイムアタックか何かで思い出しとく?」
グランプリは、コンピュータが操作するキャラクターも含めた12台のマシンで、4つのレースを走り、その総合結果で順位を争うモードだ。タイムアタックはその名の通り、ひとりで好きなコースを走ってタイムを競うモードで、他にもいくつか遊び方があったが、当時の僕たちはもっぱらグランプリモードを遊んでいた。
「いや、グランプリでいいよ」
画面が次々と切り替わり、使用するキャラクターとマシンを選択する所で止まった。キャラクターだけでなく、よく使っていたマシンまで記憶に残っていた。
更にいくつかの設定を行い、ようやくレースが始まる。見覚えのあるコースが現れて、姿勢を正した。左右に分割された画面にはそれぞれ、僕と瀬戸の操作するキャラクターが表示されている。
このゲームでは、スタート時にタイミングよくアクセルボタンを押せば最高速度で飛び出せるのだけれど、久しぶりで上手くいかなかった。一方、隣の画面では当然のように成功していた。
「昨日どんだけやってたんだよ」
瀬戸は短く笑った。
スタートダッシュこそ失敗したものの、操作方法は手がしっかり覚えていた。カーブも脱線せずに曲がれたし、コース上に設置されているアイテムを取りこぼすことも無く、結果的に4着というまずまずな順位でゴールした。
「結構巻き返したな」
そう言う彼は1着だった。