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文字数 1,459文字

 穂村さんと佐伯先輩の2回目のデートは、前回から1ヶ月後にあたる日曜日に行われた。11月に入って、街路樹の葉が色づき始めていた。

 引き続き付き添いを頼まれたこの日は、佐伯先輩の部活の日程が急遽変更されたことで実現したそうで、前回映画を観たショッピングセンターを朝から昼過ぎまで巡る予定になっていた。

 僕らの町には、都会のようなきらびやかな繁華街は無い。電車の便が悪いため、遊園地や動物園、水族館といった定番のデートスポットも、自動車がなければ難しい。だから中高生の遊び場と言えば、このショッピングセンターが定番となっていた。この地域ではあまり見ないコーヒーチェーン店やセレクトショップも入っており、半日を過ごすには十分だった。

 穂村さんは2回目ということで少し慣れたのか、前回のように電車をサウナに変えてしまうようなことはなかった。この日もふたりは制服姿で、佐伯先輩の穂村さんに対する呼び方が『留衣』に変わっていた。

 ショッピングセンターに着いたふたりは、あらかじめ決めていたのだろう、まっすぐ2階にある書店に向かった。そこはいわゆる複合書店というやつで、本だけではなく雑貨やCD、食品まで扱っている。陳列棚や商品の数に対してスペースが狭く、この日は客も多かったため、混雑していた。

 その狭い店内で、穂村さんがすれ違いざまに人とぶつかりよろめいた。すかさず、佐伯先輩が肩を抱き寄せた。咄嗟に生じた熱を冷気で抑え込む。ふたりはそのままの格好で歩き始めたので、しばらくの間は力を使い続ける必要があるかと思ったが、すぐに熱は収まった。

 ふたりはその後、占いの本や一昔前に流行った曲をリミックスしたCDなどを見て盛り上がっていた。

 書店のすぐ隣にはプリクラコーナーがあって、今度はそこへ入っていった。流石に一緒には行けないので、近くにあったベンチに腰を下ろす。機種を選んでいるのだろう、ふたりの楽しそうな声が聞こえてきた。携帯を手に取る。時刻を見ると、駅を出てからまだ1時間も経っていない。思わず出そうになったため息を飲み込んだ。

 ベンチの向かいには、自販機ほどのサイズをした大きなカプセルトイと、透明の扉がついたロッカーがあった。近寄って見ると、ロッカーの中には、ゲーム機や、ヘッドホン、インスタントカメラなど、いかにも小中学生の興味を惹きそうな景品が入っていた。実際、僕も昔は発売されたばかりのゲームソフトを夢見て挑戦したものだ。1000円という、カプセルトイとしては異常とも言える金額だが、当時の僕にはそのくらいの価値はあった。しかし結果は、スイッチを押すと微量の電気が流れるという、せいぜい300円かそこらのジョークグッズだった。

 その後、セレクトショップで洋服を見るふたりの姿は、さながらドラマのようだった。佐伯先輩はハンガーラックから次々と服を手に取り、穂村さんの前に当てる。彼女はその度に恥ずかしそうにはにかんだ。

 そんなふたりの様子を、僕は向かいの文房具店から眺めていた。

 試し書き用のボールペンを手に取って、無作為に直線や円を描く。すぐに飽きて、今度はそこに書いてあった他人の落書きを見てみると、有名なキャラクターやどこかで聞いたことのあるフレーズ、そして返事を求めるような書き置きじみたメッセージなどが書かれてあった。

 落書きを鑑賞するのにも飽きて顔を上げると、穂村さんが女性店員に連れられ、店の奥にある試着室に向かって行くところだった。小さくなっていくふたりの背中は、佐伯先輩の陰に隠れて見えなくなった。
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