ふたたびの―――
文字数 2,472文字
「だから―― 月水花の球根を買ったのは、たしかに私ですが、湖に投げ入れたのは、私ではありません。私には、できなかったんです」
「そのあと、月水花の球根がどこへ行ったのか、分からないか?」
メルフィオル王がパオシュに聞いたが、パオシュは涙を流して力なく首を振るだけだった。
そのとき、オウカはあることを思い出した。
カグラが、有翼種がソウテン湖へ何かを投げ入れたのを見た、と言ったことだ。
彼は嘘をついていたということだろうか。
では、なぜ嘘を?
そして、キザンのご神木のうろにあったまだら白キノコ。あれは、誰かに先に取られてしまっていた。
誰かが、毒消し薬をつくれないように、刈ってしまったのではないだろうか。
月水花の毒が浄化されないように。
「……シュレイユさま、キザンの山へ行ってみましょう」
「オウカ? なぜ?」
突然キザンの山へ行こうと言い出したオウカに、シュレイユは不思議に思った。
「キザンの山のご神木の精に、ききたいことがあるんです。まだら白キノコを見つけたときは、嬉しくて聞きそびれてしまったけど、誰かが先にまだら白キノコを刈ってしまっていたようなんです。それが誰か、知りたい」
「なるほど……。毒消し薬の材料を隠していた者……そのものがキザンにいるのなら、話を聞いてみた方がいいな」
「もしかして、月水花は商人の手でキザンの山に渡ったのかもしれません」
そして、何者かの手でソウテン湖に投げ入れられた。
もし、カグラが嘘をついていたのだとしたら、投げ入れたのはカグラの可能性もある。
自分から注意をそらすために、嘘を吐いたのかもしれない。
しかし、何故? カグラには言葉があまり話せない子供がいた。サユリだ。その子を巻き込んでソウテン湖に月水花の球根を投げ入れる意味が、オウカにはわからない。
メルフィオル王がオウカに向いた。
「ここでの件の後始末は、俺たちでつける。オウカとシュレイユどのは、キザンの山へ行くのがいいだろう。ことの真相を突き止めてきてほしい」
「はい、お心遣い、感謝します、メルフィオル王」
オウカはメルフィオルに頭を下げると、シュレイユをみる。
「シュレイユさま、行ってみましょう。キザンへ」
「ああ」
オウカとシュレイユは桃色と氷のような色の精霊の羽を広げた。
「では、メルフィオル王、私達は行きます」
「気を付けて」
その言葉を聞いて、ふたりはシャンヨーク城を飛び立ち、キザンの山へ向かった。
ダイシンリンの上空は、いつもどおり、青く澄んでいた。
南に見える緑の大きな山、キザンの山へ向かって飛ぶ。
数刻してキザンの山につくと、キザンの館へむかう。
門のまえには、門番のカグラがサユリと一緒にいた。
「カグラ……シロガネさまに話があって、またキザンの館にうかがったわ」
もしかして、このカグラがーー、そう思うと、オウカはこころが重くなる。
カグラはいつも通りのくったくない笑顔でオウカを迎えてくれた。
「そうか、オウカ。隣は精霊王さまじゃないか。どうしたんだ、精霊王さままで」
「大事なこをと確かめに。カグラにも関係があるから、シロガネさまのところに一緒に来て」
「……分かった。サユリ、家にかえって少し一人で遊んでな」
カグラはサユリに優しく言うと、サユリは無言で名残惜しそうに、たたたっとカグラから離れて行った。
「じゃあ、行きましょか」
オウカが言うと、カグラがさきに歩き出し、キザンの館へと入って行く。
シロガネの広い部屋に通され、敷物をしいてもらい、そこに座った。
しばらくしてやってきた鬼王シロガネは、精霊王の突然の訪問を疑問に思っているようだった。
「どうした、シュレイユどの。オウカも」
奥から出てきて、オウカ達の前にある敷物の上に座ったシロガネに、またさきほどの事情を話した。
ご神木のうろにあったまだら白キノコが、オウカ達が採取するまえに、すでに刈られていたこと。
そして、その刈ったものが、今回、ソウテン湖に月水花の球根を投げ入れた犯人なのではないかということ。
それを聞いたシロガネはむずかしい顔で、腕を組む。
「ならば、ご神木の精霊にいますぐに聞きに行こう」
シュレイユはカグラの顔色を、気づかれないようにこっそりうかがいみた。
彼はいつもの明るい顔ではなく、土気色の顔で、妙に緊張しているようだった。
ご神木の精の前までくると、オウカはまた、この前のように木に手をつけて語り掛ける。
「教えて欲しいことがあるの。ご神木の精霊よ」
すると、オウカだけでなく、みんなに聞こえる声で、ご神木の精霊は答えた。
「なんでしょう。ああ、この前の精霊の子ね」
「ええ。また伺ったわ。この木のうろに生えていた、まだら白キノコ。あれは、私がとる前に、誰かがとって行ったといいましたね」
「ええ」
「それは、だれなのでしょう。教えてください」
オウカ、シロガネ、シュレイユ、カグラ。しん、とそこにいる一同は静かに返事をまった。
「そこにいる、大きな男鬼よ」
ご神木の精霊の声が耳にひびく。
男鬼--やはりご神木の精霊が名指したのは、カグラだった。
「ありがとう、ご神木の精霊よ」
答えを聞くと、さっと手を大木から離す。
シロガネが、静かにカグラに聞いた。
「まだら白キノコは、月水花の毒消しとして、このキザンの里中の鬼たちが探していたものだ。月水花の毒には鬼族だけでなく、みんなが苦しんでいた。その毒消しの材料になるものをなぜ、隠していた? なぜ、手に入ったとキザンの館に報告に来なかったのだ」
シロガネの口調は、激しくののしるようなものではなかったが、きっぱりと大きく響く声は、カグラを非難していた。
「それは……」
いまはカグラの顔色は、青くなっていた。
冷汗がひたいに浮き、口元が乾いている。
そして、目を空へむけて、きっぱりと言い切った。
「こんな世界など、滅べばいいと思ったからだ」
その声音は、地の底を這うように暗く、憎しみに満ちていた。
奇しくもパオシュと同じ理由で。
カグラは己が月水花の球根をソウテン湖へ投げ入れたのを認めた。
「そのあと、月水花の球根がどこへ行ったのか、分からないか?」
メルフィオル王がパオシュに聞いたが、パオシュは涙を流して力なく首を振るだけだった。
そのとき、オウカはあることを思い出した。
カグラが、有翼種がソウテン湖へ何かを投げ入れたのを見た、と言ったことだ。
彼は嘘をついていたということだろうか。
では、なぜ嘘を?
そして、キザンのご神木のうろにあったまだら白キノコ。あれは、誰かに先に取られてしまっていた。
誰かが、毒消し薬をつくれないように、刈ってしまったのではないだろうか。
月水花の毒が浄化されないように。
「……シュレイユさま、キザンの山へ行ってみましょう」
「オウカ? なぜ?」
突然キザンの山へ行こうと言い出したオウカに、シュレイユは不思議に思った。
「キザンの山のご神木の精に、ききたいことがあるんです。まだら白キノコを見つけたときは、嬉しくて聞きそびれてしまったけど、誰かが先にまだら白キノコを刈ってしまっていたようなんです。それが誰か、知りたい」
「なるほど……。毒消し薬の材料を隠していた者……そのものがキザンにいるのなら、話を聞いてみた方がいいな」
「もしかして、月水花は商人の手でキザンの山に渡ったのかもしれません」
そして、何者かの手でソウテン湖に投げ入れられた。
もし、カグラが嘘をついていたのだとしたら、投げ入れたのはカグラの可能性もある。
自分から注意をそらすために、嘘を吐いたのかもしれない。
しかし、何故? カグラには言葉があまり話せない子供がいた。サユリだ。その子を巻き込んでソウテン湖に月水花の球根を投げ入れる意味が、オウカにはわからない。
メルフィオル王がオウカに向いた。
「ここでの件の後始末は、俺たちでつける。オウカとシュレイユどのは、キザンの山へ行くのがいいだろう。ことの真相を突き止めてきてほしい」
「はい、お心遣い、感謝します、メルフィオル王」
オウカはメルフィオルに頭を下げると、シュレイユをみる。
「シュレイユさま、行ってみましょう。キザンへ」
「ああ」
オウカとシュレイユは桃色と氷のような色の精霊の羽を広げた。
「では、メルフィオル王、私達は行きます」
「気を付けて」
その言葉を聞いて、ふたりはシャンヨーク城を飛び立ち、キザンの山へ向かった。
ダイシンリンの上空は、いつもどおり、青く澄んでいた。
南に見える緑の大きな山、キザンの山へ向かって飛ぶ。
数刻してキザンの山につくと、キザンの館へむかう。
門のまえには、門番のカグラがサユリと一緒にいた。
「カグラ……シロガネさまに話があって、またキザンの館にうかがったわ」
もしかして、このカグラがーー、そう思うと、オウカはこころが重くなる。
カグラはいつも通りのくったくない笑顔でオウカを迎えてくれた。
「そうか、オウカ。隣は精霊王さまじゃないか。どうしたんだ、精霊王さままで」
「大事なこをと確かめに。カグラにも関係があるから、シロガネさまのところに一緒に来て」
「……分かった。サユリ、家にかえって少し一人で遊んでな」
カグラはサユリに優しく言うと、サユリは無言で名残惜しそうに、たたたっとカグラから離れて行った。
「じゃあ、行きましょか」
オウカが言うと、カグラがさきに歩き出し、キザンの館へと入って行く。
シロガネの広い部屋に通され、敷物をしいてもらい、そこに座った。
しばらくしてやってきた鬼王シロガネは、精霊王の突然の訪問を疑問に思っているようだった。
「どうした、シュレイユどの。オウカも」
奥から出てきて、オウカ達の前にある敷物の上に座ったシロガネに、またさきほどの事情を話した。
ご神木のうろにあったまだら白キノコが、オウカ達が採取するまえに、すでに刈られていたこと。
そして、その刈ったものが、今回、ソウテン湖に月水花の球根を投げ入れた犯人なのではないかということ。
それを聞いたシロガネはむずかしい顔で、腕を組む。
「ならば、ご神木の精霊にいますぐに聞きに行こう」
シュレイユはカグラの顔色を、気づかれないようにこっそりうかがいみた。
彼はいつもの明るい顔ではなく、土気色の顔で、妙に緊張しているようだった。
ご神木の精の前までくると、オウカはまた、この前のように木に手をつけて語り掛ける。
「教えて欲しいことがあるの。ご神木の精霊よ」
すると、オウカだけでなく、みんなに聞こえる声で、ご神木の精霊は答えた。
「なんでしょう。ああ、この前の精霊の子ね」
「ええ。また伺ったわ。この木のうろに生えていた、まだら白キノコ。あれは、私がとる前に、誰かがとって行ったといいましたね」
「ええ」
「それは、だれなのでしょう。教えてください」
オウカ、シロガネ、シュレイユ、カグラ。しん、とそこにいる一同は静かに返事をまった。
「そこにいる、大きな男鬼よ」
ご神木の精霊の声が耳にひびく。
男鬼--やはりご神木の精霊が名指したのは、カグラだった。
「ありがとう、ご神木の精霊よ」
答えを聞くと、さっと手を大木から離す。
シロガネが、静かにカグラに聞いた。
「まだら白キノコは、月水花の毒消しとして、このキザンの里中の鬼たちが探していたものだ。月水花の毒には鬼族だけでなく、みんなが苦しんでいた。その毒消しの材料になるものをなぜ、隠していた? なぜ、手に入ったとキザンの館に報告に来なかったのだ」
シロガネの口調は、激しくののしるようなものではなかったが、きっぱりと大きく響く声は、カグラを非難していた。
「それは……」
いまはカグラの顔色は、青くなっていた。
冷汗がひたいに浮き、口元が乾いている。
そして、目を空へむけて、きっぱりと言い切った。
「こんな世界など、滅べばいいと思ったからだ」
その声音は、地の底を這うように暗く、憎しみに満ちていた。
奇しくもパオシュと同じ理由で。
カグラは己が月水花の球根をソウテン湖へ投げ入れたのを認めた。