まだら白キノコの捜索
文字数 2,187文字
オウカは精霊の羽を広げて山に広がる森の上を飛ぶ。
大きな木の位置を確認しながら、地上に降りて、そこへ向かってサスケとマユを案内して行った。
一人で行っても良かったが、一応確認してからキノコを採取した方がいい。
キノコ類は、毒をもったものが多い。オウカは植物研究所の精霊なので、毒のキノコにも詳しいが、地元の人たちの知識も参考にしたい。
空から確認した木の根元までくると、サスケとマユに振り返る。
その木は樹齢で言うと、もう何百年もたっていそうな、オウカの老木と同じくらいの大樹だった。
その木に手をあてて、大木の生命力を感じる。
「大きな木ね。ここにまだら白キノコがあればいいのだけど」
『ここにはないよ』
すると、オウカの耳に、かすかな声が聞こえてきた。
それは、サスケでもマユの声でもない。
かすれたような、小さな可愛い声だった。
「あなたは誰なの?」
『あたしはこの木の精霊。この木にキノコは生えてないよ。上の方でもね』
「そうなの。じゃあ、まだら白キノコが生えている場所を知らない?」
オウカは同じ精霊同士だと思い、聞いてみる。
『知らない』
しかし、返事はそっけないものだった。
「あなたはいつから、ここにいるの?」
『最近』
「精霊たちは、サイハナの森というところにあつまって暮らしているわ。あなたも良かったらこんどサイハナの森へ一度来てみればいい。たくさんの精霊の仲間がいるから、きっと楽しいわよ」
『考えておく』
まだ生まれたての精霊に、精霊が集うサイハナの森のことを伝えた。
サスケとマユが、突然聞こえてきた声と、オウカとのやりとりに驚いている。
「いまのはなんなんだ?」
「この木の精霊と話をしていたの。この木にまだら白キノコは――というか、キノコ自体が生えてないみたいよ」
「そうなの?」
質問したサスケも、応えたマユもがっかりした様子だった。
オウカはもう一度木に手をつけると、大木の精霊に話しかける。
「大木の精よ、ありがとう。私たちはもう行くね」
『わかった。こちらこそ、サイハナの森のことを教えてくれてありがとう」
すうっと、声が掻き消えていった。
この木の精霊は、どんな子なのだろう。オウカは少し興味がわいた。
それから、数本の大木をみて回ったオウカ達だが、やはりまだら白キノコは見つからなかった。
キザンの里に帰ると、ソウテン湖の毒にあてられた鬼たちが集められて、治療されている建物が見えた。その中を少し垣間見て、オウカは鬼たちが気の毒で仕方なくなった。
みんな苦しそうに寝ていて、唸り声をあげている鬼もいる。
一人二人ではなく、数十人ちかくがその建物の中で、起きていられずに寝ていた。
患者の様子をみて、オウカは一刻も早く毒消しを作らなくては、と心に誓った。
建物を出るともう時刻は夕方になっていた。
空を見上げると、この世界の三つの月が、以前よりも大きく丸いかたちに近付いていた。
三つの月の満月がちかい。
夜になると、キザンの里にまた商人がやってきた。
この商人は、シャンヨークの森にきていたカルケスではなく、ナートという人間だった。
ナートが大きな荷物を背負ってやってくると、キザンの里の鬼族は、こぞって彼に買い物をする。 オウカもナートの様子をみてみた。くたっくのない笑顔で商品を説明して売る様子は、カルケスと変わらない。同じように地面に敷物を敷いて商品を並べていた。
しかし、売っているものがカルケスとはだいぶ違うようだった。鬼族は、自分たちで作った道具類と、ナートがもってきた貴金属や玉石を交換して取引している。
「シロガネさまの言ったとおり、ここにも、こうして商人がくるのね」
「ここにも? サイハナの森にもくるっすか?」
「シャンヨークの森に行ったとき、やっぱり商人が来てたの。サイハナの森にはこないのだけどね」
サイハナの森は精霊族の領分。精霊族は人間には神秘の種族と言われているので、人間にとってはすこし怖い存在なのかもしれない。
「ここでは道具作りに必要なものをナートから買っているのよ」
店を覗きながら、マユが教えてくれる。
オウカもナートがどんなものをうっているのか、店をみてみた。
貴金属は、熱して加工するための、塊になっていた。
玉石は赤、緑、青、白、紫、ももいろ、いろんな色があって目移りしそうだ。
「玉石は道具の飾りにつかうのよ」
マユが白や黄色の玉石をいくつか手に取って、ナートに話しかける。
ナートは髭の濃い、中年の気の良さそうな人物だった。
「これちょうだい」
「ああ、いいよ。もってけ」
「お代はこれでいいかしら」
マユはふところにあった、細工の綺麗な首飾りを商人にみせた。
「良い細工だね、それは。よし、それでいい」
ナートはマユがつくった首飾りの華麗さに、とても感心した。
マユは引き換えてもらった玉石を手に取る。
「オウカ、これは加工すれば、身を飾る装飾品にもなる。私はそういうの作るのが好きなの。装飾品にしてソウテン湖で売ったり、人間の商人に売ったりするんだ」
「すごく素敵な細工の首飾りだったわ」
器用な鬼族ならではだな、とオウカは思った。
たとえ森が毒に侵されていても、こうして仕事をして、お金を稼いで、たべていく。
そういう営みはどこでも続いて行く。
森の毒が夢の出来事だったらいいのにと、やはり夢のようなことを思った。
大きな木の位置を確認しながら、地上に降りて、そこへ向かってサスケとマユを案内して行った。
一人で行っても良かったが、一応確認してからキノコを採取した方がいい。
キノコ類は、毒をもったものが多い。オウカは植物研究所の精霊なので、毒のキノコにも詳しいが、地元の人たちの知識も参考にしたい。
空から確認した木の根元までくると、サスケとマユに振り返る。
その木は樹齢で言うと、もう何百年もたっていそうな、オウカの老木と同じくらいの大樹だった。
その木に手をあてて、大木の生命力を感じる。
「大きな木ね。ここにまだら白キノコがあればいいのだけど」
『ここにはないよ』
すると、オウカの耳に、かすかな声が聞こえてきた。
それは、サスケでもマユの声でもない。
かすれたような、小さな可愛い声だった。
「あなたは誰なの?」
『あたしはこの木の精霊。この木にキノコは生えてないよ。上の方でもね』
「そうなの。じゃあ、まだら白キノコが生えている場所を知らない?」
オウカは同じ精霊同士だと思い、聞いてみる。
『知らない』
しかし、返事はそっけないものだった。
「あなたはいつから、ここにいるの?」
『最近』
「精霊たちは、サイハナの森というところにあつまって暮らしているわ。あなたも良かったらこんどサイハナの森へ一度来てみればいい。たくさんの精霊の仲間がいるから、きっと楽しいわよ」
『考えておく』
まだ生まれたての精霊に、精霊が集うサイハナの森のことを伝えた。
サスケとマユが、突然聞こえてきた声と、オウカとのやりとりに驚いている。
「いまのはなんなんだ?」
「この木の精霊と話をしていたの。この木にまだら白キノコは――というか、キノコ自体が生えてないみたいよ」
「そうなの?」
質問したサスケも、応えたマユもがっかりした様子だった。
オウカはもう一度木に手をつけると、大木の精霊に話しかける。
「大木の精よ、ありがとう。私たちはもう行くね」
『わかった。こちらこそ、サイハナの森のことを教えてくれてありがとう」
すうっと、声が掻き消えていった。
この木の精霊は、どんな子なのだろう。オウカは少し興味がわいた。
それから、数本の大木をみて回ったオウカ達だが、やはりまだら白キノコは見つからなかった。
キザンの里に帰ると、ソウテン湖の毒にあてられた鬼たちが集められて、治療されている建物が見えた。その中を少し垣間見て、オウカは鬼たちが気の毒で仕方なくなった。
みんな苦しそうに寝ていて、唸り声をあげている鬼もいる。
一人二人ではなく、数十人ちかくがその建物の中で、起きていられずに寝ていた。
患者の様子をみて、オウカは一刻も早く毒消しを作らなくては、と心に誓った。
建物を出るともう時刻は夕方になっていた。
空を見上げると、この世界の三つの月が、以前よりも大きく丸いかたちに近付いていた。
三つの月の満月がちかい。
夜になると、キザンの里にまた商人がやってきた。
この商人は、シャンヨークの森にきていたカルケスではなく、ナートという人間だった。
ナートが大きな荷物を背負ってやってくると、キザンの里の鬼族は、こぞって彼に買い物をする。 オウカもナートの様子をみてみた。くたっくのない笑顔で商品を説明して売る様子は、カルケスと変わらない。同じように地面に敷物を敷いて商品を並べていた。
しかし、売っているものがカルケスとはだいぶ違うようだった。鬼族は、自分たちで作った道具類と、ナートがもってきた貴金属や玉石を交換して取引している。
「シロガネさまの言ったとおり、ここにも、こうして商人がくるのね」
「ここにも? サイハナの森にもくるっすか?」
「シャンヨークの森に行ったとき、やっぱり商人が来てたの。サイハナの森にはこないのだけどね」
サイハナの森は精霊族の領分。精霊族は人間には神秘の種族と言われているので、人間にとってはすこし怖い存在なのかもしれない。
「ここでは道具作りに必要なものをナートから買っているのよ」
店を覗きながら、マユが教えてくれる。
オウカもナートがどんなものをうっているのか、店をみてみた。
貴金属は、熱して加工するための、塊になっていた。
玉石は赤、緑、青、白、紫、ももいろ、いろんな色があって目移りしそうだ。
「玉石は道具の飾りにつかうのよ」
マユが白や黄色の玉石をいくつか手に取って、ナートに話しかける。
ナートは髭の濃い、中年の気の良さそうな人物だった。
「これちょうだい」
「ああ、いいよ。もってけ」
「お代はこれでいいかしら」
マユはふところにあった、細工の綺麗な首飾りを商人にみせた。
「良い細工だね、それは。よし、それでいい」
ナートはマユがつくった首飾りの華麗さに、とても感心した。
マユは引き換えてもらった玉石を手に取る。
「オウカ、これは加工すれば、身を飾る装飾品にもなる。私はそういうの作るのが好きなの。装飾品にしてソウテン湖で売ったり、人間の商人に売ったりするんだ」
「すごく素敵な細工の首飾りだったわ」
器用な鬼族ならではだな、とオウカは思った。
たとえ森が毒に侵されていても、こうして仕事をして、お金を稼いで、たべていく。
そういう営みはどこでも続いて行く。
森の毒が夢の出来事だったらいいのにと、やはり夢のようなことを思った。