精霊王シュレイユと側近ディーヤ
文字数 1,875文字
「オウカはもう、ソウテン湖へと出発したかな。それにしても彼女はいつもどおり元気だね。良かった」
「前から思っていたのですが、シュレイユ様は、オウカのどこがそんなに気に入っているのですか」
シュレイユのオウカへの接し方をみていて、ディーヤは思ったことを口にした。
黄緑色に萌える下草を踏みわけて、白や黄色の蝶をながめながら、ふたりは城の裏庭へ向かっていく。
「素直でまっすぐなところ……かな。私にはない、彼女の長所だね」
彼女のことを語る彼の目は、やさしく細められた。
「だから、なんというか、私が失ったものを持っている彼女は、純粋に眩しく思える」
シュレイユは目を閉じて、オウカを思い出して、思ったことを口にする。
「そうですか」
ディーヤは苦笑して、恋する精霊王をみやった。
「それにしても……。彼女が無事でよかった」
ディーヤはシュレイユの言葉に顔を固くする。
「はい。やはり、今はこのサイハナの森を汚すものは、ささいなものなのだと思います」
シュレイユたちは、城の裏手である裏庭へと到着した。
今朝になって、見回りの精霊が裏庭の様子がおかしいとシュレイユに報告していた。
それは、ソウテン湖から流れる小川の近くの草花の様子だった。
水に接する草花の一部が、茶色に変色して枯れかけてしまっていたのだ。
原因はあきらかだった。
この川の水に草花を枯らすものが紛れているのだろう。
シュレイユはその枯れかけた草をじっくりと見ると、溜息をついた。
「だれかが草を枯らす毒を小川に投げたのだろうか」
そう言いながら小川のほとりに座り込み、枯れかけた草花の根本にある水を、触らないように大きな採取器で採取した。
「この水で毒の特定ができればいいのだけど」
「気を付けてください、シュレイユ様。草花が枯れる毒です。貴方さまのお体にも危険なものです」
「ああ、分かっている」
シュレイユはその水を試験管に入れて蓋をし、腰の物入れにしまう。
ディーヤがその様子をみながら、不安げに眉間にしわを寄せた。
「このサイハナの森に無い、毒消しの材料になる虫は、さっきオウカに頼みました。彼女が城に帰ってきてから、色々やりましょう。毒消しを調合して、この草花にほどこし、様子をみてみましょう」
「……そうだね。……この草花が精霊の元体でなくてよかった。元体だったら、この草花の精霊が一人消えるところだった。それでも、草花が毒に侵されるのは、心苦しいけどね」
シュレイユは小川のほとりから腰をあげると、部下のディーヤに命令した。
「今日は、川の水はのんではいけないと、みんなに伝えて。その間は、甕 にくんだ水を飲むように。今日中に井戸や川の水質調査をして、毒物がでなければ井戸の水は飲んで構わない」
「はい……。シュレイユさま、数日の間に何とかならなかったら、俺たちはどうなるのでしょう……」
「そんな弱気でどうするんだ。私たちがなんとかするんだ」
シュレイユは厳しい顔でディーヤの肩をぽんとたたいた。
「すぐに、この水を調べよう」
シュレイユは腰の物入れをポンポンとたたく。
その仕種を見てディーヤも厳しく顔をひきしめた。
いくつかの試験薬をつかって調査をした結果、さきほど採取した小川の水は、やはり毒物に侵されているようだった。しかし、水でごくごく薄くなっているようだ。それでも川岸の植物を枯らしかけた毒だ。精霊には危険なことに変わりはない。
そして、シュレイユが気になったのは、水の毒よりも毒を放っている元となっている、何かの根だった。
細かくなった何かの植物の根から、おそらく小川の縁に生えていた植物を枯らす物質が出ていたのだ。
「毒草……ということですか」
ディーヤが息を詰める。
植物を枯らす毒は、植物が元体の精霊には、そのまま自身の命を奪うものになる。
慎重に、毒の水に触らないように調査を進めていく。
「少なくとも、この根はあきらかに毒草だろうね。でも、この根はどこから来たと思う? 誰かが小川に投げ入れた? それとも、どこかで育ったものが、ここへ流れついた?」
シュレイユが眉間に力を入れてディーヤを見る。
「どちらにしても、ただ事ではありませんね」
ディーヤもシュレイユを見返した。
「井戸と、他の地点の小川の水質調査はどうなっている?」
「結果が出たらすぐに、精霊王の執務室へ報告にくるように言いつけてあります」
「そうか。じゃあ、待とう」
朝から動きっぱなしで、シュレイユにもディーヤにも疲れが出てきたところだった。
精霊王とその側近は、結果がでるまでひとまず蜜水を飲んで休憩をとることにした。
「前から思っていたのですが、シュレイユ様は、オウカのどこがそんなに気に入っているのですか」
シュレイユのオウカへの接し方をみていて、ディーヤは思ったことを口にした。
黄緑色に萌える下草を踏みわけて、白や黄色の蝶をながめながら、ふたりは城の裏庭へ向かっていく。
「素直でまっすぐなところ……かな。私にはない、彼女の長所だね」
彼女のことを語る彼の目は、やさしく細められた。
「だから、なんというか、私が失ったものを持っている彼女は、純粋に眩しく思える」
シュレイユは目を閉じて、オウカを思い出して、思ったことを口にする。
「そうですか」
ディーヤは苦笑して、恋する精霊王をみやった。
「それにしても……。彼女が無事でよかった」
ディーヤはシュレイユの言葉に顔を固くする。
「はい。やはり、今はこのサイハナの森を汚すものは、ささいなものなのだと思います」
シュレイユたちは、城の裏手である裏庭へと到着した。
今朝になって、見回りの精霊が裏庭の様子がおかしいとシュレイユに報告していた。
それは、ソウテン湖から流れる小川の近くの草花の様子だった。
水に接する草花の一部が、茶色に変色して枯れかけてしまっていたのだ。
原因はあきらかだった。
この川の水に草花を枯らすものが紛れているのだろう。
シュレイユはその枯れかけた草をじっくりと見ると、溜息をついた。
「だれかが草を枯らす毒を小川に投げたのだろうか」
そう言いながら小川のほとりに座り込み、枯れかけた草花の根本にある水を、触らないように大きな採取器で採取した。
「この水で毒の特定ができればいいのだけど」
「気を付けてください、シュレイユ様。草花が枯れる毒です。貴方さまのお体にも危険なものです」
「ああ、分かっている」
シュレイユはその水を試験管に入れて蓋をし、腰の物入れにしまう。
ディーヤがその様子をみながら、不安げに眉間にしわを寄せた。
「このサイハナの森に無い、毒消しの材料になる虫は、さっきオウカに頼みました。彼女が城に帰ってきてから、色々やりましょう。毒消しを調合して、この草花にほどこし、様子をみてみましょう」
「……そうだね。……この草花が精霊の元体でなくてよかった。元体だったら、この草花の精霊が一人消えるところだった。それでも、草花が毒に侵されるのは、心苦しいけどね」
シュレイユは小川のほとりから腰をあげると、部下のディーヤに命令した。
「今日は、川の水はのんではいけないと、みんなに伝えて。その間は、
「はい……。シュレイユさま、数日の間に何とかならなかったら、俺たちはどうなるのでしょう……」
「そんな弱気でどうするんだ。私たちがなんとかするんだ」
シュレイユは厳しい顔でディーヤの肩をぽんとたたいた。
「すぐに、この水を調べよう」
シュレイユは腰の物入れをポンポンとたたく。
その仕種を見てディーヤも厳しく顔をひきしめた。
いくつかの試験薬をつかって調査をした結果、さきほど採取した小川の水は、やはり毒物に侵されているようだった。しかし、水でごくごく薄くなっているようだ。それでも川岸の植物を枯らしかけた毒だ。精霊には危険なことに変わりはない。
そして、シュレイユが気になったのは、水の毒よりも毒を放っている元となっている、何かの根だった。
細かくなった何かの植物の根から、おそらく小川の縁に生えていた植物を枯らす物質が出ていたのだ。
「毒草……ということですか」
ディーヤが息を詰める。
植物を枯らす毒は、植物が元体の精霊には、そのまま自身の命を奪うものになる。
慎重に、毒の水に触らないように調査を進めていく。
「少なくとも、この根はあきらかに毒草だろうね。でも、この根はどこから来たと思う? 誰かが小川に投げ入れた? それとも、どこかで育ったものが、ここへ流れついた?」
シュレイユが眉間に力を入れてディーヤを見る。
「どちらにしても、ただ事ではありませんね」
ディーヤもシュレイユを見返した。
「井戸と、他の地点の小川の水質調査はどうなっている?」
「結果が出たらすぐに、精霊王の執務室へ報告にくるように言いつけてあります」
「そうか。じゃあ、待とう」
朝から動きっぱなしで、シュレイユにもディーヤにも疲れが出てきたところだった。
精霊王とその側近は、結果がでるまでひとまず蜜水を飲んで休憩をとることにした。