シュレイユの想い
文字数 1,931文字
――君が生まれる前から、君がどんな精霊なのか気になっていたし、君が生まれてくればいいのにって願っていたんだ
むかし、まだ私が精霊王になる前、私は先代の精霊王にとても可愛がられていた。それは、それ以前にある池に蔓延した『月水花』という毒花の特効薬になる『月氷花』の精が私だったからだ。さらに、月氷花に樹液を混ぜてつくった毒消しは、月水花には特効薬になると私は先代の精霊王に教えてもらった。樹液は、サイハナ城の庭に植わっている、あのオウカの木からとれたものだ。その当時は、まだ若木だった。
私は、自分と繋がりの深いこの木に、精霊が宿ればいいのにと思った。精霊が宿ったら、どんな精霊なのか、どんな子なのか。とても気になっていた。
何年もたって、私は先代の精霊王から引き継いで、次の精霊王になった。
そんなある日の、明け方のことだ。執務室からなにげなく外を見ると。
サイハナ城の中庭の、あの木が桃色に光っていたんだ。
私は初めあっけに取られて、その木をぼうっと見つめていた。
そうしたら、丸い桃色の光の中に、精霊の影がみえた。
オウカ、君が生まれたんだ。
今でも鮮明に覚えている。
明けの太陽に祝福されて生まれた君は、光に包まれてとても美しかった。
シュレイユはオウカを見て、思い出話を目を細めて懐かしそうにかたった。
「シュレイユさま……」
オウカは言葉が見つからず、彼の想いの深さを知って、こころが震えた。
オウカにとってシュレイユは、憧れの精霊王だ。とても優しくて、自分を気に掛けてくれていて。
でも、たったいま、それだけではない存在になって、オウカのこころにシュレイユの笑顔が刻み込まれた。
オウカは嬉しくて、シュレイユの肩に自分の頭を寄せた。こてっと肩に頭がのる。
シュレイユはそっとオウカの手に自分の手をそえた。
すると、ふと大きな影が二人の上をよぎった。
オウカとシュレイユがなんだろうと顔を合わせ、上を仰ぎ見ると、月氷花の影が自分たちに落ちている。真上にあたる夜空に、満ちた三つの月が煌々とあがっていた。
白銀の月、赤い月、黄色の月。
とうとうダイシンリンに、三つの月が満ちたのだ。
「オウカ。月氷花の蜜をとろう」
「はい」
シュレイユが花のある位置まで飛び立つと、オウカもそれにいついていく。
オウカは、あらかじめ用意していおいた採取器をシュレイユに渡し、シュレイユはそれで月氷花の蜜をひとすくいした。
大きな月氷花の蜜は、奥の方にたくさん溜まっていた。
「舐めてみる?」
シュレイユが聞くので、オウカは頷く。
器から指で蜜を絡めて、口へと運んだ。シュレイユも同じようにして。
「甘くて香りがいいですね。くどくなくてさっぱりしていて」
「私も何年振りに食べたかな。やっぱりおいしい」
花の蜜を吸う蝶のように飛ぶ二者は、蜜を採取すると地面へと降り立つ。
と、同時に、シュレイユの肩にのっているケサランパサランのサラから、大きな声が響いた。
『シュレイユさま、オウカ! 大変です! ソウテン湖が……!』
シュレイユとオウカは一気に緊張して、聞こえてきたディーヤの声に集中した。
「どうした? 何があったんだ」
『枯れたはずの水草の下から、新しいものが生えてきて、すごい勢いでソウテン湖を覆ってい行って……ああ、花が開く……すごい匂いだ……!』
「ディーヤ! 大丈夫か、しっかりしろ!」
そこでぶつりと通信は途切れてしまった。
オウカは背筋に冷たいものが伝うのが分かった。
「さっきの毒消しが効いたと思ったのに……! どうして!」
「……やはり昔はびこった月水花だった、ということだ」
「『三つの月の力で成長したときに、芳香を放ちながら毒を出す』っていう伝承どおりになりましたね……」
シュレイユが厳しい顔でオウカをみた。
「オウカ、樹液はどこにある?」
「サイハナ城にあります」
オウカもきびきびと答え、次の行動の準備をする。
「ならば、私は先に月氷花の蜜をもってソウテン湖へと行っている。みんなが心配だ。これは単独でも月水花には有効な毒消しになるからね。オウカは樹液を取りに行って、すぐにソウテン湖へと来てくれ」
「はいっ」
オウカはシュレイユと洞窟を出たそうそうに別れて、サイハナ城へと向かった。
そして、自分の部屋にあった樹液を採取した器をもって、すぐにソウテン湖へ向かって羽をはばたかせる。
上空からみたソウテン湖の方角、西の夜空は、何故か赤紫色に染まっていた。
「なに、あの色は……」
無気味な色に、さきほどのディーヤの焦った声がよみがえる。
尋常ではないことが起こっているのは、確かなのだ。
それはあの毒草--月水花のせいだ。
「はやくソウテン湖へ行かなくちゃ!」
むかし、まだ私が精霊王になる前、私は先代の精霊王にとても可愛がられていた。それは、それ以前にある池に蔓延した『月水花』という毒花の特効薬になる『月氷花』の精が私だったからだ。さらに、月氷花に樹液を混ぜてつくった毒消しは、月水花には特効薬になると私は先代の精霊王に教えてもらった。樹液は、サイハナ城の庭に植わっている、あのオウカの木からとれたものだ。その当時は、まだ若木だった。
私は、自分と繋がりの深いこの木に、精霊が宿ればいいのにと思った。精霊が宿ったら、どんな精霊なのか、どんな子なのか。とても気になっていた。
何年もたって、私は先代の精霊王から引き継いで、次の精霊王になった。
そんなある日の、明け方のことだ。執務室からなにげなく外を見ると。
サイハナ城の中庭の、あの木が桃色に光っていたんだ。
私は初めあっけに取られて、その木をぼうっと見つめていた。
そうしたら、丸い桃色の光の中に、精霊の影がみえた。
オウカ、君が生まれたんだ。
今でも鮮明に覚えている。
明けの太陽に祝福されて生まれた君は、光に包まれてとても美しかった。
シュレイユはオウカを見て、思い出話を目を細めて懐かしそうにかたった。
「シュレイユさま……」
オウカは言葉が見つからず、彼の想いの深さを知って、こころが震えた。
オウカにとってシュレイユは、憧れの精霊王だ。とても優しくて、自分を気に掛けてくれていて。
でも、たったいま、それだけではない存在になって、オウカのこころにシュレイユの笑顔が刻み込まれた。
オウカは嬉しくて、シュレイユの肩に自分の頭を寄せた。こてっと肩に頭がのる。
シュレイユはそっとオウカの手に自分の手をそえた。
すると、ふと大きな影が二人の上をよぎった。
オウカとシュレイユがなんだろうと顔を合わせ、上を仰ぎ見ると、月氷花の影が自分たちに落ちている。真上にあたる夜空に、満ちた三つの月が煌々とあがっていた。
白銀の月、赤い月、黄色の月。
とうとうダイシンリンに、三つの月が満ちたのだ。
「オウカ。月氷花の蜜をとろう」
「はい」
シュレイユが花のある位置まで飛び立つと、オウカもそれにいついていく。
オウカは、あらかじめ用意していおいた採取器をシュレイユに渡し、シュレイユはそれで月氷花の蜜をひとすくいした。
大きな月氷花の蜜は、奥の方にたくさん溜まっていた。
「舐めてみる?」
シュレイユが聞くので、オウカは頷く。
器から指で蜜を絡めて、口へと運んだ。シュレイユも同じようにして。
「甘くて香りがいいですね。くどくなくてさっぱりしていて」
「私も何年振りに食べたかな。やっぱりおいしい」
花の蜜を吸う蝶のように飛ぶ二者は、蜜を採取すると地面へと降り立つ。
と、同時に、シュレイユの肩にのっているケサランパサランのサラから、大きな声が響いた。
『シュレイユさま、オウカ! 大変です! ソウテン湖が……!』
シュレイユとオウカは一気に緊張して、聞こえてきたディーヤの声に集中した。
「どうした? 何があったんだ」
『枯れたはずの水草の下から、新しいものが生えてきて、すごい勢いでソウテン湖を覆ってい行って……ああ、花が開く……すごい匂いだ……!』
「ディーヤ! 大丈夫か、しっかりしろ!」
そこでぶつりと通信は途切れてしまった。
オウカは背筋に冷たいものが伝うのが分かった。
「さっきの毒消しが効いたと思ったのに……! どうして!」
「……やはり昔はびこった月水花だった、ということだ」
「『三つの月の力で成長したときに、芳香を放ちながら毒を出す』っていう伝承どおりになりましたね……」
シュレイユが厳しい顔でオウカをみた。
「オウカ、樹液はどこにある?」
「サイハナ城にあります」
オウカもきびきびと答え、次の行動の準備をする。
「ならば、私は先に月氷花の蜜をもってソウテン湖へと行っている。みんなが心配だ。これは単独でも月水花には有効な毒消しになるからね。オウカは樹液を取りに行って、すぐにソウテン湖へと来てくれ」
「はいっ」
オウカはシュレイユと洞窟を出たそうそうに別れて、サイハナ城へと向かった。
そして、自分の部屋にあった樹液を採取した器をもって、すぐにソウテン湖へ向かって羽をはばたかせる。
上空からみたソウテン湖の方角、西の夜空は、何故か赤紫色に染まっていた。
「なに、あの色は……」
無気味な色に、さきほどのディーヤの焦った声がよみがえる。
尋常ではないことが起こっているのは、確かなのだ。
それはあの毒草--月水花のせいだ。
「はやくソウテン湖へ行かなくちゃ!」