内緒話
文字数 2,168文字
キザンの館に向かうと、門にはカグラがおらず、石を投げてサユリが心もとなく一人で遊んでいた。その姿が寂しそうだったので、オウカは声をかけた。
「サユリちゃん、カグラはいないの?」
「ん」
サユリは小さな声で応える。
「どこへ行ったのかしら」
「きょ、は、ソ…テン…湖」
「ソウテン湖?」
意外な言葉を聞いてオウカは驚く。館の門番が、ソウテン湖になんの用があるのだろうか。
「てつだい、いった」
「ああ、なるほど」
それでオウカは納得する。今のソウテン湖は鬼族のものたちが、例の毒の水草を除草しているのだ。その手伝い、ということなのだろう。
……そこまでソウテン湖の除草は大変なのだろう。
「あた…も…前に…いった。すごく…楽し…った」
小さな声でオウカを見て言うと、にこりと笑う。
サユリが言っているのは、昔カグラと行ったことのある、ソウテン市場のことだろう。
オウカにその話をしているサユリは、とても幸せそうな顔をしていた。
きっと、ソウテン市場でカグラと二人で買い物をして、楽しく過ごしたことがあるのだろう。
……そんな日がまた戻ってくればいいのに。
オウカはしらずソウテン湖の方角の空をみあげていた。
そこには、きれいすぎる青い空がひろがっていた。
キザンの館に帰って、部屋に戻ると、ケサランパサランをつかってシュレイユに連絡をとった。
シャンヨークの森であったような商人がキザンの山にもきていることを告げると、シュレイユは頷いた。
「そうか。では近々、サイハナの森にも商人がやってくるかもしれないね」
「商人は貴重なものを売っていましたよ。こちらの商人のナートは、道具作りの材料になる金属や玉石などもあつかっていて」
「サイハナの森にはどんな商人がくるだろうか。来たら何を売ってくれるか、聞いてみよう」
「はい」
シュレイユとは、そんなたわいのない話をして、通話を切った。
布団は部屋に入る前に館のものが敷いてくれていたので、そこに横になると、またすぐに眠ってしまった。
翌朝、昨日のように朝の祈りの時間に起きだして、里の人々と一緒に広場へ向かう。
毎朝行われる神への祈りに人々は集まる。
今日もカグラとサユリは、来ていた。
ソウテン湖へ応援にいっていたカグラはもう帰ってきたようだ。
にこりと笑顔を向けられる。
「おはよう、オウカ」
「おはようございます、カグラ」
「昨日はサユリがお世話になったみたいだな。ありがとう」
昨日少しサユリと話したことを言っているのだろう。大したことをしたわけでもないのに、オウカは礼を言われた。それだけサユリはこの村では浮いた存在で、話相手もいないのだろう。
「大したことじゃないわ」
「いや、サユリは俺しか話をするものがいないからな。誰かと話をして、楽しいと感じてくれるのは、とても嬉しい」
いかつい顔を柔らかくして、カグラは顔つきを緩める。
「それと、少し話したいことがある」
カグラは声をひそめて、オウカに近寄った。
「俺はたまにソウテン湖に行くんだが。そこで、夕方にあのソウテン湖に何かを入れている者をみたことがある」
「……え?」
何か、とは。重要なことを言われているような気がして、オウカは耳をそばだてた。
「背に翼があった。だから有翼種族だろうな。そいつが、片手にもったなにかを、手のひらを反すようにして、ソウテン湖に落としたんだ」
「落とした? 何を?」
「さあ。そこまではわからない。でも、それはあの湖に月水花がはびこる前だった」
オウカは必死になって頭を巡らした。
有翼種族の誰かが、ソウテン湖に何かを入れた。
それは、月水花の種? 球根?
それで、ソウテン湖に月水花が蔓延してしまった?
重要なことを伝えられて、オウカは息を詰める。
すると、よこからサスケが顔をだし、真剣な声でカグラに詰め寄った。
「なんだって? 有翼種族たちがソウテン湖になんかいれたんっすか?」
その声は怒りに燃えていた。
「俺ははじめから有翼種族って嫌いだったっすよ」
サスケは、憤まんやるかたなしという風情だ。
「サスケ、声が大きい。まだ決まったわけでは無いんだ」
カグラにたしなめられて、サスケはバツが悪い顔をする。
「でも……あのタクスってやつも、ソウテン市場によく来るデラールってやつも、気に喰わなかったっす。とくにデラールってやつは俺たちを馬鹿にしていたっすよ。有翼種族たちはあんまり好きじゃないっす」
「サスケ、そんなこと言わないの。ごめん、うちの旦那、子供みたいで」
マユが申し訳なさそうに頭をさげた。
オウカも動揺しながらも、今やるべきことを確認する。
「いまは、まだら白キノコを採取することが第一目的だわ。ソウテン湖の毒の原因に犯人がいたとしても、それはまだら白キノコが見つかったら、考えましょう」
「……まあそうだな。今は一刻も早くこのダイシンリンの毒を消さないとっす」
不承不承ではあるが、サスケが納得した。
すると、口数のすくないサユリが、オウカに近づき、小さな声で何かをいった。
「あた…し、知ってる」
「え?」
何を知っているのか、考えを巡らせる。
「もしかして。まだら白キノコのありか?」
「ん」
「青い斑点 のある、白いキノコみたいだけど、それ?」
「そ」
そして、サユリはオウカの耳もとで、小さな声でまだら白キノコのありかを伝えた。
「サユリちゃん、カグラはいないの?」
「ん」
サユリは小さな声で応える。
「どこへ行ったのかしら」
「きょ、は、ソ…テン…湖」
「ソウテン湖?」
意外な言葉を聞いてオウカは驚く。館の門番が、ソウテン湖になんの用があるのだろうか。
「てつだい、いった」
「ああ、なるほど」
それでオウカは納得する。今のソウテン湖は鬼族のものたちが、例の毒の水草を除草しているのだ。その手伝い、ということなのだろう。
……そこまでソウテン湖の除草は大変なのだろう。
「あた…も…前に…いった。すごく…楽し…った」
小さな声でオウカを見て言うと、にこりと笑う。
サユリが言っているのは、昔カグラと行ったことのある、ソウテン市場のことだろう。
オウカにその話をしているサユリは、とても幸せそうな顔をしていた。
きっと、ソウテン市場でカグラと二人で買い物をして、楽しく過ごしたことがあるのだろう。
……そんな日がまた戻ってくればいいのに。
オウカはしらずソウテン湖の方角の空をみあげていた。
そこには、きれいすぎる青い空がひろがっていた。
キザンの館に帰って、部屋に戻ると、ケサランパサランをつかってシュレイユに連絡をとった。
シャンヨークの森であったような商人がキザンの山にもきていることを告げると、シュレイユは頷いた。
「そうか。では近々、サイハナの森にも商人がやってくるかもしれないね」
「商人は貴重なものを売っていましたよ。こちらの商人のナートは、道具作りの材料になる金属や玉石などもあつかっていて」
「サイハナの森にはどんな商人がくるだろうか。来たら何を売ってくれるか、聞いてみよう」
「はい」
シュレイユとは、そんなたわいのない話をして、通話を切った。
布団は部屋に入る前に館のものが敷いてくれていたので、そこに横になると、またすぐに眠ってしまった。
翌朝、昨日のように朝の祈りの時間に起きだして、里の人々と一緒に広場へ向かう。
毎朝行われる神への祈りに人々は集まる。
今日もカグラとサユリは、来ていた。
ソウテン湖へ応援にいっていたカグラはもう帰ってきたようだ。
にこりと笑顔を向けられる。
「おはよう、オウカ」
「おはようございます、カグラ」
「昨日はサユリがお世話になったみたいだな。ありがとう」
昨日少しサユリと話したことを言っているのだろう。大したことをしたわけでもないのに、オウカは礼を言われた。それだけサユリはこの村では浮いた存在で、話相手もいないのだろう。
「大したことじゃないわ」
「いや、サユリは俺しか話をするものがいないからな。誰かと話をして、楽しいと感じてくれるのは、とても嬉しい」
いかつい顔を柔らかくして、カグラは顔つきを緩める。
「それと、少し話したいことがある」
カグラは声をひそめて、オウカに近寄った。
「俺はたまにソウテン湖に行くんだが。そこで、夕方にあのソウテン湖に何かを入れている者をみたことがある」
「……え?」
何か、とは。重要なことを言われているような気がして、オウカは耳をそばだてた。
「背に翼があった。だから有翼種族だろうな。そいつが、片手にもったなにかを、手のひらを反すようにして、ソウテン湖に落としたんだ」
「落とした? 何を?」
「さあ。そこまではわからない。でも、それはあの湖に月水花がはびこる前だった」
オウカは必死になって頭を巡らした。
有翼種族の誰かが、ソウテン湖に何かを入れた。
それは、月水花の種? 球根?
それで、ソウテン湖に月水花が蔓延してしまった?
重要なことを伝えられて、オウカは息を詰める。
すると、よこからサスケが顔をだし、真剣な声でカグラに詰め寄った。
「なんだって? 有翼種族たちがソウテン湖になんかいれたんっすか?」
その声は怒りに燃えていた。
「俺ははじめから有翼種族って嫌いだったっすよ」
サスケは、憤まんやるかたなしという風情だ。
「サスケ、声が大きい。まだ決まったわけでは無いんだ」
カグラにたしなめられて、サスケはバツが悪い顔をする。
「でも……あのタクスってやつも、ソウテン市場によく来るデラールってやつも、気に喰わなかったっす。とくにデラールってやつは俺たちを馬鹿にしていたっすよ。有翼種族たちはあんまり好きじゃないっす」
「サスケ、そんなこと言わないの。ごめん、うちの旦那、子供みたいで」
マユが申し訳なさそうに頭をさげた。
オウカも動揺しながらも、今やるべきことを確認する。
「いまは、まだら白キノコを採取することが第一目的だわ。ソウテン湖の毒の原因に犯人がいたとしても、それはまだら白キノコが見つかったら、考えましょう」
「……まあそうだな。今は一刻も早くこのダイシンリンの毒を消さないとっす」
不承不承ではあるが、サスケが納得した。
すると、口数のすくないサユリが、オウカに近づき、小さな声で何かをいった。
「あた…し、知ってる」
「え?」
何を知っているのか、考えを巡らせる。
「もしかして。まだら白キノコのありか?」
「ん」
「青い
「そ」
そして、サユリはオウカの耳もとで、小さな声でまだら白キノコのありかを伝えた。