シャンヨーク城
文字数 2,587文字
メルフィオル王とその供といっしょに、オウカはシャンヨークの森へとわたる。
シャンヨークの森は、サイハナの森に流れている小川とは別の小川をくだっていけば着く。
オウカは川沿いの道を進んで行く途中で、メルフィオル王の供についていたタクスという少年に声をかけた。
「ねえ、タクス。この小川の水も有翼種族には匂うのかしら」
「ああ。くさいよ」
少し不貞腐れた態度でタクスはオウカに応じた。
貴重な水が汚染されてしまたったことに、とても腹をたてているようだ。
「解毒薬をつくるために、あんたはシャンヨークの森に来るんだって聞いた。本当か?」
「ええ、本当よ」
「ならば、俺はその手伝いができるように、メルフィオルさまに言うよ。これが何となるなら、なんでもする」
「……ありがとう」
口や態度は悪いが、この事態をどうにかしたいという、やる気はあるらしい。
ひらけた場所へつくと、シャンヨークの森まで翼を広げて飛ぶことになった。
オウカも、翼とは違う精霊の羽を広げて、メルフィオル王たちについていく。
藍色の空には銀色の星々がきらめき、三つの月が煌々とひかっていた。
一番大きい蒼い月、二番目の赤い月、小さい黄色い月。
それらはみんな、微妙な欠け方をしていた。
三つの月が満月になるときまで、まだまだ時間があった。
どこまでもつづく緑の森の景色はサイハナの森と変わらないが、シャンヨークの森には有翼種族たちの城がある。
森のひらけた場所で翼や羽をしまい少し歩くと、木で出来た門があった。
その門をくぐると、何本もの木の上に出来た、大きな集落が見えた。
オウカの目には『城』というよりも木の上の空中にある集落にみえたのだ。
ところどころに提 がっているランプのだいだい色の光が、建物を幻想的にあたたかくいろどっている。
木材を組み立てて、ツタやロープを使って建物を木の上にしばっていた。ロープのつり橋や木でできた梯子などで、木々の上を渡り歩いたり、翼で飛んで移動したりする。とびきり大きな集落――それがシャンヨーク城だ。
メルフィオル王がシャンヨーク城の前につくと、オウカを振り返った。
「ようこそ、シャンヨーク城へ」
「おじゃまします。これが、シャンヨークの有翼種族たちが住んでいるところなんですね」
目の前の壮大な建築物を見て、オウカはその迫力に大きく息をはく。
他種族間では、使者以外が城の行き来をすることは稀だったので、オウカもここに来るのは初めてだった。
その、冒険心あふれた不思議な城に、ひたすらに感心する。
「オウカ。今日はもう遅い。部屋を用意するから休むといい」
「はい、ありがとうございます」
「ではな。俺ももうやすむ」
「おやすみなさい」
オウカはメルフィオル王と別れ、供のものに木の上の城の内部へ案内された。
梯子を上って、つり橋をわたり。
迷ってしまいそうな複雑なつくりの城だ。
一室に案内されると、天井からやはりだいだい色に光るランプがさがっていて、布でできた寝床がある。
そこに横になると、今日の疲れがどっと出て、寝てしまいそうになる。
しかし、せっかくシュレイユにケサランパサランのランを預かったのだ。無事についたと報告しておこうと思った。
肩に乗っている存在を軽くなでる。
ケサランパサランは、きゅるるる、と鳴いて、またオウカの頬にすりすり身体をおしつけてきた。
「か、かわいい……」
またもや、あまりの可愛さにぽっと頬が赤くなる。
「ねえ、あなたのこと、ランちゃんって呼んでもいい?」
「きゅるるる~」
白い毛玉は「いいよ」というように、鳴き声をあげた。
「そう、いいのね。ねえ、ランちゃん、シュレイユさまと話がしたいのだけど」
そうオウカが頼むと、ケサランパサランは目をつむって、本当に毛玉のみになった。
「話しかけてもいいのかな? シュレイユさま?」
声をかけると、ふわんと声が洞窟の中のように響いた。
「ああ、オウカ。シャンヨークの森には無事に着いた?」
シュレイユの声が響いて来て、オウカは一瞬おどろいた。
けれど、もともと通信用に託された毛玉だ。それがこの毛玉の役割なのだ。
気をとりなおして、ケサランパサランに話しかける。
「はい。明日から、鉄鋼虫をさがしてみます。それにしてもシャンヨークのお城ってすごいんですね。初めて見たからびっくりしました」
ふっと息を吐く気配がして、オウカはシュレイユが少し笑んだような気がした。
「そうだね、あの城は少し変わっている」
「シュレイユさまは来たことがあるんですか?」
「ああ。私もわりと長く生きているからね。有翼種族の王も何代か変わっているけれど、あの城は補修しながら、ずっとあのように使っているみたいだね」
「そうなんですね……。ちょっと感動しました」
手作り感が満載なところに、オウカは素直に感心した。
「もう一つ聞いていいですか?」
「なに?」
「シュレイユさま、このランちゃんで、どうやって声がきこえているのでしょうか」
シュレイユはああ、と頷き、オウカに説明する。
「こちらにランの片割れのケサランパサランがいる。サラというのだけど、この子たちの不思議な力で声をとどけることができるんだ」
「サラちゃんですか。この前、シュレイユさまの手で分かれた、片割れですね。この子たちって可愛いですよね」
「そうだね。とてもかわいいね」
シュレイユからも明るい声が返ってきた。
「オウカ。月が出てからしばらくたつ。夜も深いからもう眠ったほうがいい」
「はい、シュレイユさまもおつかれさまでした。おやすみなさい」
「おやすみ、オウカ」
ふつん、とシュレイユの声が途切れた。
白い毛玉はくるんと黒くて丸い目を開けると、くびを傾げてきゅるる~と鳴く。(どうだった?)とオウカに問いかけているように見える。
「ありがとう、ランちゃん。シュレイユさまの声が聞けたわ。これで明日も頑張れそう」
「きゅるる~」
ケサランパサランはまたオウカの頬にすりすりと身を寄せると、肩にぽんっと跳ねて、ゆかに着地する。
目が半分閉じてゆらゆらと揺れている。それはとても眠たそうにみえた。
あまりの愛らしさに、くすりと笑みがうかぶ。
「本当にもう寝ましょう。ランちゃん、おやすみ」
「きゅるる~」
だいだい色にひかるランプを消して、寝床に横になる。
昼間の疲れもあって、すぐにオウカは眠りに落ちた。
シャンヨークの森は、サイハナの森に流れている小川とは別の小川をくだっていけば着く。
オウカは川沿いの道を進んで行く途中で、メルフィオル王の供についていたタクスという少年に声をかけた。
「ねえ、タクス。この小川の水も有翼種族には匂うのかしら」
「ああ。くさいよ」
少し不貞腐れた態度でタクスはオウカに応じた。
貴重な水が汚染されてしまたったことに、とても腹をたてているようだ。
「解毒薬をつくるために、あんたはシャンヨークの森に来るんだって聞いた。本当か?」
「ええ、本当よ」
「ならば、俺はその手伝いができるように、メルフィオルさまに言うよ。これが何となるなら、なんでもする」
「……ありがとう」
口や態度は悪いが、この事態をどうにかしたいという、やる気はあるらしい。
ひらけた場所へつくと、シャンヨークの森まで翼を広げて飛ぶことになった。
オウカも、翼とは違う精霊の羽を広げて、メルフィオル王たちについていく。
藍色の空には銀色の星々がきらめき、三つの月が煌々とひかっていた。
一番大きい蒼い月、二番目の赤い月、小さい黄色い月。
それらはみんな、微妙な欠け方をしていた。
三つの月が満月になるときまで、まだまだ時間があった。
どこまでもつづく緑の森の景色はサイハナの森と変わらないが、シャンヨークの森には有翼種族たちの城がある。
森のひらけた場所で翼や羽をしまい少し歩くと、木で出来た門があった。
その門をくぐると、何本もの木の上に出来た、大きな集落が見えた。
オウカの目には『城』というよりも木の上の空中にある集落にみえたのだ。
ところどころに
木材を組み立てて、ツタやロープを使って建物を木の上にしばっていた。ロープのつり橋や木でできた梯子などで、木々の上を渡り歩いたり、翼で飛んで移動したりする。とびきり大きな集落――それがシャンヨーク城だ。
メルフィオル王がシャンヨーク城の前につくと、オウカを振り返った。
「ようこそ、シャンヨーク城へ」
「おじゃまします。これが、シャンヨークの有翼種族たちが住んでいるところなんですね」
目の前の壮大な建築物を見て、オウカはその迫力に大きく息をはく。
他種族間では、使者以外が城の行き来をすることは稀だったので、オウカもここに来るのは初めてだった。
その、冒険心あふれた不思議な城に、ひたすらに感心する。
「オウカ。今日はもう遅い。部屋を用意するから休むといい」
「はい、ありがとうございます」
「ではな。俺ももうやすむ」
「おやすみなさい」
オウカはメルフィオル王と別れ、供のものに木の上の城の内部へ案内された。
梯子を上って、つり橋をわたり。
迷ってしまいそうな複雑なつくりの城だ。
一室に案内されると、天井からやはりだいだい色に光るランプがさがっていて、布でできた寝床がある。
そこに横になると、今日の疲れがどっと出て、寝てしまいそうになる。
しかし、せっかくシュレイユにケサランパサランのランを預かったのだ。無事についたと報告しておこうと思った。
肩に乗っている存在を軽くなでる。
ケサランパサランは、きゅるるる、と鳴いて、またオウカの頬にすりすり身体をおしつけてきた。
「か、かわいい……」
またもや、あまりの可愛さにぽっと頬が赤くなる。
「ねえ、あなたのこと、ランちゃんって呼んでもいい?」
「きゅるるる~」
白い毛玉は「いいよ」というように、鳴き声をあげた。
「そう、いいのね。ねえ、ランちゃん、シュレイユさまと話がしたいのだけど」
そうオウカが頼むと、ケサランパサランは目をつむって、本当に毛玉のみになった。
「話しかけてもいいのかな? シュレイユさま?」
声をかけると、ふわんと声が洞窟の中のように響いた。
「ああ、オウカ。シャンヨークの森には無事に着いた?」
シュレイユの声が響いて来て、オウカは一瞬おどろいた。
けれど、もともと通信用に託された毛玉だ。それがこの毛玉の役割なのだ。
気をとりなおして、ケサランパサランに話しかける。
「はい。明日から、鉄鋼虫をさがしてみます。それにしてもシャンヨークのお城ってすごいんですね。初めて見たからびっくりしました」
ふっと息を吐く気配がして、オウカはシュレイユが少し笑んだような気がした。
「そうだね、あの城は少し変わっている」
「シュレイユさまは来たことがあるんですか?」
「ああ。私もわりと長く生きているからね。有翼種族の王も何代か変わっているけれど、あの城は補修しながら、ずっとあのように使っているみたいだね」
「そうなんですね……。ちょっと感動しました」
手作り感が満載なところに、オウカは素直に感心した。
「もう一つ聞いていいですか?」
「なに?」
「シュレイユさま、このランちゃんで、どうやって声がきこえているのでしょうか」
シュレイユはああ、と頷き、オウカに説明する。
「こちらにランの片割れのケサランパサランがいる。サラというのだけど、この子たちの不思議な力で声をとどけることができるんだ」
「サラちゃんですか。この前、シュレイユさまの手で分かれた、片割れですね。この子たちって可愛いですよね」
「そうだね。とてもかわいいね」
シュレイユからも明るい声が返ってきた。
「オウカ。月が出てからしばらくたつ。夜も深いからもう眠ったほうがいい」
「はい、シュレイユさまもおつかれさまでした。おやすみなさい」
「おやすみ、オウカ」
ふつん、とシュレイユの声が途切れた。
白い毛玉はくるんと黒くて丸い目を開けると、くびを傾げてきゅるる~と鳴く。(どうだった?)とオウカに問いかけているように見える。
「ありがとう、ランちゃん。シュレイユさまの声が聞けたわ。これで明日も頑張れそう」
「きゅるる~」
ケサランパサランはまたオウカの頬にすりすりと身を寄せると、肩にぽんっと跳ねて、ゆかに着地する。
目が半分閉じてゆらゆらと揺れている。それはとても眠たそうにみえた。
あまりの愛らしさに、くすりと笑みがうかぶ。
「本当にもう寝ましょう。ランちゃん、おやすみ」
「きゅるる~」
だいだい色にひかるランプを消して、寝床に横になる。
昼間の疲れもあって、すぐにオウカは眠りに落ちた。