毒消し薬の精製
文字数 1,902文字
鉄鋼虫はすでにもう黒焼きになっているし、まだら白キノコは手に入った。あとは、サイハナの森にある『むらさきぽぽ』を加えれば、毒消しができる。
さらに、三つの月も満ちてきていた。あと、もう少しで三つ同時に満月になるだろう。
そうすると、月水花の毒消しになる月氷花の蜜も手に入る。
順調にことが進んでいることを感じながら、オウカはダイシンリンの空を飛んでいた。
サイハナ城が森の木々の間にみえてくる。
白壁の精霊族の城は、緑のつたに囲まれて陽の光を受けて輝いていた。
オウカは飛びながら、サイハナ城の精霊王が謁見をおこなう、二階の部屋の露台に着地する。
蔦がはう石作りの入口から内部へと入ると、精霊王の執務室へと直行した。
サイハナ城へ向かう前に、すでにオウカはシュレイユに連絡をとっていたので、執務室で待っているはずだ。そして、久しぶりにシュレイユの顔を見ることができるのも、オウカは嬉しかった。
執務室まえで姿勢をただし、布で出来た扉ごしに声をかけた。
「シュレイユさま、オウカです。まだら白キノコを採取してきました」
すると、傍に控えていたのだろう、ディーヤが入口の布をさっとめくってくれた。
「ディーヤ、まだら白キノコも集めて来たわ。シュレイユさまに会わせて」
「……。待っていました。こちらへ」
堅苦しい態度と口調でディーヤはオウカを促した。
オウカはいまいち、このディーヤが苦手だ。ディーヤはシュレイユの一番ちかしい部下だが、オウカはディーヤの考えていることがさっぱり分からない。みんなは細やかに気の利く優秀な精霊だと言うけれど、オウカにとっては慇懃無礼な、ただただ冷たい印象の精霊だった。
大人しく案内されて、広い部屋を執務机の方へあるく。シュレイユの執務室はたくさんの鉢植えや水耕栽培の植物がおいてある。オウカも何度もきたことがあるので見慣れていたが、今は春だけあって花がたくさん咲いていて、部屋を華やかにいろどっていた。
執務机に座っているシュレイユは、オウカを見ると嬉しそうに笑顔になった。
「オウカ、また見つけるのが早かったね。ご苦労さま。これで毒消しがつくれる」
「はい、シュレイユさま! あとは、もう一種類の毒消しを用意すれば万全ですね!」
「そうだね。では、さっそくみせてくれ」
オウカは腰にぶらさげていた採取袋を、そのままシュレイユへと手渡す。
シュレイユがそれを受け取って、中身を確かめた。
「……本当に毒キノコみたいだね」
「あはは……はい、私もそう思います」
「でも、これが薬になるのか。さっそく精製作業に入ろう」
シュレイユは珍しそうにまだら白キノコを見て、ディーヤの方へ向いた。
「むらさきぽぽの用意はできてるね。鉄鋼虫は黒焼きにしてあるし」
「はい、あとはそのキノコを細かく切って、煮だすようです」
「よし、やろう。オウカ、ご苦労だったね。あとは私たちが薬にする。ゆっくり休んでいて……と言いたいところだけど、もう一つ頼まれてくれないかな」
オウカは何だろうと思って首をかしげた。
「なんでしょうか」
「オウカの分の例のアレを、採取しておいてほしい。分かるね」
「……はい」
例のアレ、とは『オウカの大木の樹液』だろう。
もうひとつの毒消しの材料になるものだ。
あと少しで、ソウテン湖--ダイシンリンの毒が消える。
「もうひと頑張りだ、オウカ」
「はい」
シュレイユとオウカは見つめ合って、笑顔になる。
後ろでそれを見ていたディーヤは、そっと目を伏せた。
「では、失礼します」
オウカはシュレイユの執務室を出ると、自分の元体 のあるサイハナ城中庭へと向かった。
中庭の大木は、つぼみをたくさん膨らませていて、少しあまい芳香がただよいはじめていた。もうすぐ、ももいろの小さな花が、木いっぱいに咲きだすだろう。
オウカの大木の樹液は、春になると自然にしみだしてくるので、そこに採取用のうつわを付けておけば、集めることができる。
いちど植物研究所で採取用のうつわをさがし、それをもって大木へとまたもどり、設置した。
あとは、一晩まてばいいだけだ。
そこまですると、もう日はとっぷりと暮れてしまった。
空に見える星々にかこまれた三つの月は、いまは新円に近い。
もう少しで月氷花の蜜も採取できるだろう。
シュレイユとディーヤが作っている毒消しは、明日にはできる。
そうしたら、ソウテン湖へ行って毒消しをまくのだ。
明日にはきっと、このダイシンリンをむしばむ毒は消える。
そう思うとオウカは、明日が待ち遠しくなった。
夕食にシャンヨークの森でもらったビスカスの蜜水を飲んで、明日に期待し、その日は眠ってしまった。
さらに、三つの月も満ちてきていた。あと、もう少しで三つ同時に満月になるだろう。
そうすると、月水花の毒消しになる月氷花の蜜も手に入る。
順調にことが進んでいることを感じながら、オウカはダイシンリンの空を飛んでいた。
サイハナ城が森の木々の間にみえてくる。
白壁の精霊族の城は、緑のつたに囲まれて陽の光を受けて輝いていた。
オウカは飛びながら、サイハナ城の精霊王が謁見をおこなう、二階の部屋の露台に着地する。
蔦がはう石作りの入口から内部へと入ると、精霊王の執務室へと直行した。
サイハナ城へ向かう前に、すでにオウカはシュレイユに連絡をとっていたので、執務室で待っているはずだ。そして、久しぶりにシュレイユの顔を見ることができるのも、オウカは嬉しかった。
執務室まえで姿勢をただし、布で出来た扉ごしに声をかけた。
「シュレイユさま、オウカです。まだら白キノコを採取してきました」
すると、傍に控えていたのだろう、ディーヤが入口の布をさっとめくってくれた。
「ディーヤ、まだら白キノコも集めて来たわ。シュレイユさまに会わせて」
「……。待っていました。こちらへ」
堅苦しい態度と口調でディーヤはオウカを促した。
オウカはいまいち、このディーヤが苦手だ。ディーヤはシュレイユの一番ちかしい部下だが、オウカはディーヤの考えていることがさっぱり分からない。みんなは細やかに気の利く優秀な精霊だと言うけれど、オウカにとっては慇懃無礼な、ただただ冷たい印象の精霊だった。
大人しく案内されて、広い部屋を執務机の方へあるく。シュレイユの執務室はたくさんの鉢植えや水耕栽培の植物がおいてある。オウカも何度もきたことがあるので見慣れていたが、今は春だけあって花がたくさん咲いていて、部屋を華やかにいろどっていた。
執務机に座っているシュレイユは、オウカを見ると嬉しそうに笑顔になった。
「オウカ、また見つけるのが早かったね。ご苦労さま。これで毒消しがつくれる」
「はい、シュレイユさま! あとは、もう一種類の毒消しを用意すれば万全ですね!」
「そうだね。では、さっそくみせてくれ」
オウカは腰にぶらさげていた採取袋を、そのままシュレイユへと手渡す。
シュレイユがそれを受け取って、中身を確かめた。
「……本当に毒キノコみたいだね」
「あはは……はい、私もそう思います」
「でも、これが薬になるのか。さっそく精製作業に入ろう」
シュレイユは珍しそうにまだら白キノコを見て、ディーヤの方へ向いた。
「むらさきぽぽの用意はできてるね。鉄鋼虫は黒焼きにしてあるし」
「はい、あとはそのキノコを細かく切って、煮だすようです」
「よし、やろう。オウカ、ご苦労だったね。あとは私たちが薬にする。ゆっくり休んでいて……と言いたいところだけど、もう一つ頼まれてくれないかな」
オウカは何だろうと思って首をかしげた。
「なんでしょうか」
「オウカの分の例のアレを、採取しておいてほしい。分かるね」
「……はい」
例のアレ、とは『オウカの大木の樹液』だろう。
もうひとつの毒消しの材料になるものだ。
あと少しで、ソウテン湖--ダイシンリンの毒が消える。
「もうひと頑張りだ、オウカ」
「はい」
シュレイユとオウカは見つめ合って、笑顔になる。
後ろでそれを見ていたディーヤは、そっと目を伏せた。
「では、失礼します」
オウカはシュレイユの執務室を出ると、自分の
中庭の大木は、つぼみをたくさん膨らませていて、少しあまい芳香がただよいはじめていた。もうすぐ、ももいろの小さな花が、木いっぱいに咲きだすだろう。
オウカの大木の樹液は、春になると自然にしみだしてくるので、そこに採取用のうつわを付けておけば、集めることができる。
いちど植物研究所で採取用のうつわをさがし、それをもって大木へとまたもどり、設置した。
あとは、一晩まてばいいだけだ。
そこまですると、もう日はとっぷりと暮れてしまった。
空に見える星々にかこまれた三つの月は、いまは新円に近い。
もう少しで月氷花の蜜も採取できるだろう。
シュレイユとディーヤが作っている毒消しは、明日にはできる。
そうしたら、ソウテン湖へ行って毒消しをまくのだ。
明日にはきっと、このダイシンリンをむしばむ毒は消える。
そう思うとオウカは、明日が待ち遠しくなった。
夕食にシャンヨークの森でもらったビスカスの蜜水を飲んで、明日に期待し、その日は眠ってしまった。