第3話『魔王、泣かされる。』

文字数 3,432文字

 突如現れた天界の見習い天使、ルルリエ。
 会議室の中心に彼女を座らせた魔王達は、
厳しい尋問をすることとした!
――田舎のお袋さんがよぉ、泣いてんぜ。
は、母ですか?
そうともよ。ほら、全部吐いちまえよ。楽になんぜ?
いえ、具合は悪くありませんので……。
はん! おとぼけになさってやがる。
いいか? ネタはバレてんだよ。しらばっくれてんじゃねえよ。
そう言われましても……。
もういいんだよ。お前は頑張り過ぎだ。
……かつ丼、食うか?
さっきから何やってんのよダンゴ。
いえ、これが東洋の国で伝わる尋問方法らしいので。
めんどくさい言い方ですわね。
もいっかい確認するね?
君は本っっっ当に天界の見習い天使なわけだね?
魔王様! そんなにゆるーい尋問で吐くわけが……!
はい。
本っっっ当に天界の見習い天使です。
吐くんかーい!
あらまあなんて天使な笑顔でお答えするもんで。
呑気なことを言ってる場合ですか!
相手は見習いとは言え、あの天界の天使ですぞ!?
まあまあ。
一度落ち着きましょうシュバエルちゃん。
またもや私の真名を……!
はい! 落ち着きまくります!
相変わらず違和感だらけだね。
もはやダンゴが本名よね。
ダンゴという名前すらなくなってしまってはただの虫ですわ。
おいコラ。
聞こえてるからな。
ルルリエさん……でしたか?
はい!
ルルリエさんはどうして魔界に?
偵察ですか?
え、えええ!?
すんごいドストレートね。
さすがはジョセフ様! 清々しいですわ!
こういうことって清々しくしちゃダメじゃね?
あ、あの……私……。
ゆっくりでいいんですよ?
自分のペースで話してください。
は、はい……!
 ルルリエは二度ほど深呼吸をした。
 そして……。
……改めて名乗らせていただきます。
私は、天界の見習い天使、ルルリエです。
天使の修行の一環として、また自身の知見を広げるために、魔界へとやってきました。
社会科見学みたいなもんだね!
魔王様。バカっぽく見えるから黙っててくださいまし。
話が途切れて迷惑ですわ。
魔界の恥になるから口を挟まないで。
……あれ?
泣きそうかも……。
あ、あの……。
どうぞ気にせず続けてください。
で、では……。
魔界の各所を周った最後に、魔界の主、魔王城を見ることにしたのです。
そして、あわよくば天界にも轟く、かの魔王を……。
はいはいはい!
それ僕だよ僕!
いい加減にしてくださいまし!
あんたのせいで魔界全土がバカだと思われるじゃない!
次余計なことを喋ったら城から叩き出しますわ!
……ぅぇぇぇん……。
お、面白い魔王さんですね……。
精いっぱいのフォロー、ありがとうございます。
それで……魔王城の傍まで来たのは良かったんですが……。
ペンダントを落としてしまった、と……。
……はい。城が急に騒がしくなったので、思わず急いでしまい……。
急にというより、普段通りですが。
やはり外まで聞こえていたのですねわね。
予想は間違っていなかったね。
思わぬ防犯効果もあったみたいね。
それでいいのですか!?
え!? それでいいのですか!?
え、ええと……。
気にしないでくださいね。これがこの城の普通ですので。
それで? あんたはこれからどうするのよ。
落とし物が見つかったのですから、普通に考えれば天界に帰るのでは?
もちろんそのつもりです。
みなさんにはご迷惑をおかけしました。
迷惑だなんてそんな。
もういつでも来ていいからね!
魔王様魔王様。
それは捉え方次第では、天界への挑戦状にも聞こえますぞ?
そうですね。案外、軍を率いて戻って来たりするかもしれませんね。
そうなったら、あんた責任取りなさいよ?
えええ……。
ふふふ。本当にとても面白い方々ばかりです。
聞いていた魔界の民のイメージとは全く違いました。
ちなみにどういった風に聞いていたのですか?
人を喰らい、天使を喰らい、血で血を洗う混沌とした世界、種族。決して分かり合えることのない、敵を殺すことを躊躇わない野蛮な種族……そう聞いていました。
ずいぶんと飛躍した話ですわね。
交流が途絶えて遥かな時間が経過していますしね。一方的な価値観や敵視観が、そういった幻像を生み出しているのかもしれませんね。
まったくです。
血を血で洗ってもキューティクルは守れませんよ。
あんたのキューティクルって何を指すんだっつーの。
そういうの一切不要じゃないのよ、あんた。
いやマジでハンパねえよ?
世界が変わるよ?
後で教えてあげる。
ふふふ。さてみなさん、あまりルルリエちゃんを待たせるのも申し訳ないですし、この辺でお別れにしましょうか。
そうですわね。ルルリエ、忘れ物はなくて?
はい! 大丈夫です!
まあ気が向いたらまた遊びに来なさいよね。
あなたのような可愛らしい方ならいつでも大歓迎ですよ。
出来れば一人でお願いしますね。
軍隊とかシャレになりませんので……。
もちろんです。また近いうちに遊びに来ようと思います。
ではみなさん。
本当にありがとうございました。みなさんと出会えて、本当に楽しかったです。
あー、僕が城の外まで送ってあげるよ。
 そしてルルリエは全員に頭を下げた後、魔王と共に部屋を後にした。
 
 そして、エントランス。
 目の前の扉の隙間からは外の光が溢れ、その前で魔王は、徐に口を開いた。
 ほんじゃあ、気を付けてね。
は、はい……。
……。
……。
……もう、ダメだよ?
そういう表情は最後まで隠していなきゃ。
え……?
まあここには僕と君しかいないし、他のみんなの魔力も部屋から動いていないから安心してよ。
監視なんて無粋なことは僕もしたくないし、みんなだってしてほしくないからさ。
魔王さん……。
分かってるよ。
偵察に来てたんだよね?
……気付かれていたんですね。
まあね。うまく魔力をコントロールしてたようだけど、ここに来た経緯を話すときにさ、魔力が僅かに波打ってたよ?
ダンゴくんが嘘をつく時とおんなじ波動だったし。
それだけで……。さすがです。
僕だけじゃないと思うよ。たぶんマリアンナさんも気付いていたんじゃないかな。
それにしても、なかなか肝が据わってるじゃない。
堂々とペンダントを取りに来たり、迷うことなく天界の者というのを名乗ったりしてさ。さっき話してた魔界のイメージってのは本当だろうから、普通なら出来ることじゃないよ。
察するに……君さ、見習いじゃないでしょ?
……その通りです。
私は、天界の聖天使を務めています。
そっか……。
となると、けっこうヤバいかもしれないかな。天界、本腰になってきてるんじゃないの?
……天界は魔界の混乱を好機と見ています。
そのための偵察を、大天使長より命ぜられました。
あちゃー。やっぱりか。
……でも、そんなに話してもいいの?
だめですね。
だよねー。
大丈夫なの?
恥ずかしながら、私はここへ来るまで、みなさんを敵視していました。
ですが実際にみなさんと話して、それまで抱いていた感情が一方的なものだということを実感してしまい……。
先入観に囚われ、善意ある方を偏見の眼差しで見てしまっていたのです。
それは聖天使としてふさわしくありません。
その贖罪……と。
罰を受けるかもしれないよ?
私は構いません。
こうしてあなたと親密に会話すること自体、天使として懲罰を受けるだけのことになるので。その罰を受けることも、天使として当然のことです。
そしてみなさんのことは、天界に帰り話そうと思います。
敵は遥か昔に消え失せた、と……。
……なるほどね。それが天使ってわけだ。
でも、僕は嫌だな。こうして僕のせいで君が辛い思いをするなんてのはさ。
気にしないでください。
私は天界の者。もともとは干渉することのなかった存在。
全ては、私のせいなのです。
ルルリエちゃん……。
……では、そろそろ帰らせてもらいます。
魔王さん、ありがとうございました。
 そしてルルリエは扉を開き、外へと一歩足を踏み出した。
――ルルリエちゃん。
……はい?
もともとは干渉することがなかったのかもしれない。
君とは関わることはなかったのかもしれない。
それでも、僕らの中にはもう君はいるから。大切な友人として、心の中に刻まれているから。
それをなかったことになんかしないよ。
絶対に。
――……ありがとうございます。では……。
 そしてルルリエは城を後にした。
 エントランスに佇む魔王は、閉じられた扉を見つめる。その眼は揺れ動き、何かを訴えていた。
 彼女はこれからどうするのか。彼女が、どうなるのか。
 それを考えた魔王の心に、耐え難い悲しみが募る。
……ルルリエちゃん……。
 その名を発した魔王は、険しい表情のまま立ち尽くしていた。
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登場人物紹介

魔王
若くして魔界を統べた英雄的新米魔王
めちゃくちゃ強いが、苦労人
ツッコむつもりもないのにツッコまざるをえない部下を多数持つ

イシリア
魔王の城のメイドさん
意外と真面目
魔王とは幼馴染

セルフィー
幼女と見せかけて単に幼児体型なだけ
ジョセフに恋する自称乙女
一度回復魔術を使えば、超絶スパルタウーマンと化す

スレイブ
戦闘&修行マニア
なんとか魔王をこっちへ引き込もうとしている
普通に強い

マリアンナ
魔界随一の魔術使い
敵であるはずの神を崇拝
いちおう味方

ジョセフ
色々謎な優男
そしてイケメン
女好き

ダンゴ
魔王の部下
一番の理解者兼一番の被害者
本名はルドル・バルト・シュバエルとかいう長ったらしい名前らしい
見た目からダンゴと呼ばれている

勇者
選ばれし者、英雄を約束されし者
そしてヤル気も既に失われし者
布団の中をこよなく愛する者

エレナ
回復術士
女神の如き優しさと寛大さを持ち合わせる聖女
単に天然なだけという噂もちらほら
ファンクラブは星の数ほどあるという

ユーン
女戦士、豪傑豪胆
勇者一行ツッコミ担当
そして勇者一行唯一の常識人

リュー
魔術師担当
おっとりとした口調が特徴
腹黒さは魔族並

ルルリエ

天界の聖天使。マジ天使。
大天使長リヒテルの実の妹
唯一とも言える良識人
魔王一派に圧倒されているが

リヒテル

天界の大天使長
なんか色々考えてるっぽい
めちゃくちゃ強い

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