第2話『魔王、ジョーカーを引く。」
文字数 2,494文字
魔界からほど近い人間界の外れ。
勇者一行は着実に魔王のもとへと向かっていた。
リュー、移動魔法でひとっ飛びさせてくれ。
怠すぎて眠たくなってくる。
残念だけど無理だよ。
移動魔法は、一度行ったことがある場所にしか使えないからねぇ。
さぁねぇ……。
案外近くまで来てるかもしれないし、はたまたまだまだ序盤かもしれない。
やべえよこれ。
せっかくレベル上がったのに俺のヤル気レベルはただ下がりじゃねえか。
あ、ありがとうエレナ。そうするよ。
なんか、既に疲れた……。
相変わらず賑やかだね。
むしろ格段に騒がしくなってるね。
きっとこれはアレですね。
決戦の前の武者震いのような、そんな類のアレですね。
エレナ! せめてあんたは普通でいて!
アタシだけ敵も味方も敵だらけだよ!
お前だけ難易度設定間違ったんじゃね?
ハードモードになってね?
な、なんかエグイ……。
戦士さん、お気持ちお察しいたします……。
あんただけだよ、そんなことを言ってくれるのは……。
あんたがいてよかっ――。
お前らいい加減にしろ!
そんなことよりこいつだよこいつ!
ええなんとか。
あなた方に勝ったせいで危うく消されかけましたが。
君がここにいるっていうことは……もしかして、偵察かな?
そうそう!
今の君達の実力を見るための捨て駒! 実験台なのさ!
知るかよってんだ!
もうあんなヴァカ達なんて知らねえよチクショウめぇ!
なにやら以前よりも深く心に傷を負っているようですね……。
するとその時、いつぞやのように、突然遠くから花火が上がるような音が響き始めた。
そしてその音は瞬く間に幻影に近付いていき――。
……とまあ、ここまではこの前と同じ流れなわけだが……。
巻き起こる煙の中、幻影はゆらりと立ち上がる。
そして――。
けっこう軽めにしたんだけど、それでもかなりのダメージを与えたみたいだねぇ。
エレナが呪文を唱えると、幻影の全身は暖かい光に包まれた。
だって僕、影だもん。
光に包まれたら消えちゃうじゃない。普通に。
回復すると見せかけてトドメとは……エレナもやるねぇ。
ご、ごめんなさい幻影さん!
私、そんなつもりは……!
いやいや、その気持ちだけでじゅうぶんですわ。
それに、ようやく僕も言いたかったことも言えるわけだし。
難しいことじゃないから大丈夫大丈夫。
ちょっとだけだから大丈夫大丈夫。
とりあえず僕が何か言うから、その後にそれっぽいこと言ってくれればいいから。
オーケィ?
そうそうそう!
でも一発勝負だからね!?
それなりに真剣にしてよね!?
こういうのは失敗しちゃったら超カッコ悪いからね!?
しっかり頼むよ!?
まあいいじゃない。
ちょっと付き合ってやろうよ。ヒソヒソ
不覚を取ったか……。
だが、これで終わったと思わぬことだな。我らが魔王の力……我とは比べ物にならぬほど強大。
せいぜい、ひと時にしかすぎぬ勝利の美酒に酔いしれておくがいい……。
……ハィカァット!
もう満点! 最高!
それが欲しかった!
まあ回復魔術の効果が切れたら遊びに行くからさ!
またねー!
ともあれ、私たちの力が十分通用することは分かりましたね。
だったらとっとと行こうぜ。
早く終わらせて眠りたい。超だらけたい。
そして勇者一行は、意気揚々と再び魔王城へと進み始めたのだった。
言わなくても丸わかりだっつーの。
あんた顔に出過ぎだし。
させるかぁぁ!
今度こそ絶対、僕が一番にあがって――!
……ババ抜きに興じていた。
いやホントに大丈夫かよお前ら……。
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