第2話『魔王、ジョーカーを引く。」

文字数 2,494文字

 魔界からほど近い人間界の外れ。
 勇者一行は着実に魔王のもとへと向かっていた。
リュー、移動魔法でひとっ飛びさせてくれ。
怠すぎて眠たくなってくる。
お前はいつでもそうだろ!
残念だけど無理だよ。
移動魔法は、一度行ったことがある場所にしか使えないからねぇ。
勇者さん。頑張って歩きましょう。
まじかー。
てか、あとどれくらいあるんだこれ。
さぁねぇ……。
案外近くまで来てるかもしれないし、はたまたまだまだ序盤かもしれない。
要するに、分からないってことだね……。
やべえよこれ。
せっかくレベル上がったのに俺のヤル気レベルはただ下がりじゃねえか。
お前のヤル気レベルは最初から下がりっぱなしだろ!
どうやらユーンのレベルも相当上がったみたいだね。
なんの話をしてんだお前は!
ユーン、少し落ち着いて。
あ、ありがとうエレナ。そうするよ。
なんか、既に疲れた……。
おいおいそんなんで大丈夫か?
始まる前に力尽きてたら話にならないからねぇ。
お前らのせいだろ!
相変わらず賑やかだね。
むしろ格段に騒がしくなってるね。
きっとこれはアレですね。
決戦の前の武者震いのような、そんな類のアレですね。
エレナ! せめてあんたは普通でいて!
アタシだけ敵も味方も敵だらけだよ!
お前だけ難易度設定間違ったんじゃね?
ハードモードになってね?
お前らのせいでカオスだよ!
混沌に満ちてるよ!
な、なんかエグイ……。
戦士さん、お気持ちお察しいたします……。
あんただけだよ、そんなことを言ってくれるのは……。
あんたがいてよかっ――。
ってうぉい!
なに普通にいるんだお前!?
あーこれはあれだ。
今日一番の声が出てたな。
ユーン、体力が既に虫の息みたいです……。
これは魔王の罠かもしれないねぇ。
恐ろしい……。
お前らいい加減にしろ!
そんなことよりこいつだよこいつ!
え? 僕ですか?
あー、あんときの幻影かー。
全然気付かなかったわ。
幻影さんお久しぶりです。
お元気にしてましたか?
ええなんとか。
あなた方に勝ったせいで危うく消されかけましたが。
君がここにいるっていうことは……もしかして、偵察かな?
そうそう!
今の君達の実力を見るための捨て駒! 実験台なのさ!
ねえ、もしかしてヤケクソになってない?
知るかよってんだ!
もうあんなヴァカ達なんて知らねえよチクショウめぇ!
なにやら以前よりも深く心に傷を負っているようですね……。
 するとその時、いつぞやのように、突然遠くから花火が上がるような音が響き始めた。
 そしてその音は瞬く間に幻影に近付いていき――。
……ん?
うぼぉえ!?
 ――幻影の直近で、爆炎が巻き起こる。
隙あり――ですね。
またまた不意打ちかよ!
……とまあ、ここまではこの前と同じ流れなわけだが……。
……幻影さん?
 巻き起こる煙の中、幻影はゆらりと立ち上がる。
 そして――。
――痛い痛い!
超痛いんですけど!
 のたうち回ったのだった。
おー。効いてんじゃん。
けっこう軽めにしたんだけど、それでもかなりのダメージを与えたみたいだねぇ。
レベル上げの成果、あったね。
でも、さすがに可哀想なので……。
 エレナが呪文を唱えると、幻影の全身は暖かい光に包まれた。
これは……。
回復魔術です。
これで元気になれますよ。
エレナ……。
敵を回復するなんて、物好きだねぇ。
いやこれ、僕もうすぐ消える感じだわ。
なんでだよ!
だって僕、影だもん。
光に包まれたら消えちゃうじゃない。普通に。
……あ。
どうやら会心の一撃を与えたみたいだな。
回復すると見せかけてトドメとは……エレナもやるねぇ。
ご、ごめんなさい幻影さん!
私、そんなつもりは……!
いやいや、その気持ちだけでじゅうぶんですわ。
それに、ようやく僕も言いたかったことも言えるわけだし。
言いたかったこと?
そこで、ちょっと協力してほしいんだけどさ。
どういった?
難しいことじゃないから大丈夫大丈夫。
ちょっとだけだから大丈夫大丈夫。
とりあえず僕が何か言うから、その後にそれっぽいこと言ってくれればいいから。
オーケィ?
つまりはセリフに乗ればいいんだな。
そうそうそう!
でも一発勝負だからね!?
それなりに真剣にしてよね!?
こういうのは失敗しちゃったら超カッコ悪いからね!?
しっかり頼むよ!?
意外と余裕あるみたいで安心しました。ヒソヒソ
なー。
全然消える気配ねえじゃん。ヒソヒソ
このまま天寿を全うしそうな勢いだね。ヒソヒソ
まあいいじゃない。
ちょっと付き合ってやろうよ。ヒソヒソ
じゃあいくよ!?
ハィスタート!!
不覚を取ったか……。
だが、これで終わったと思わぬことだな。我らが魔王の力……我とは比べ物にならぬほど強大。
せいぜい、ひと時にしかすぎぬ勝利の美酒に酔いしれておくがいい……。
フハハハハ……!
…………はい今ー。どぞー。
これが、魔王の力か……!
フハハハ……!
――うぐっ!バタン
……。
……。
……。
(こんなところで何やってんだろ、アタシたち……)
……ハィカァット!
もう満点! 最高!
それが欲しかった!
 
満足していただいたみたいでなによりです。
うん! 満足満足!
じゃあ、そろそろ消えるね!
おー。達者でなー。
まあ回復魔術の効果が切れたら遊びに行くからさ!
またねー!
 そして幻影は、光の中に消えていった。
……って結局死ぬわけじゃないのかよ!
ともあれ、私たちの力が十分通用することは分かりましたね。
そうだねぇ。それは大きな収穫だね。
だったらとっとと行こうぜ。
早く終わらせて眠りたい。超だらけたい。
じゃあ、行こ! みんな!
 そして勇者一行は、意気揚々と再び魔王城へと進み始めたのだった。
 
 
 
 
 
 
 一方、魔王城。
 そこで魔王は……。
――……むっ!?
こ、これは……!
あ、魔王様!
今ジョーカー引きましたね!?
もー!
ダンゴくん言わないでよー!
言わなくても丸わかりだっつーの。
あんた顔に出過ぎだし。
まったくババ抜きに向かないお人ですね。
この調子だと、また魔王様の負けでしょうね。
それはやってみないと分からないですよ。
俺は勝ぁぁぁつ!
俺は負けない!
させるかぁぁ!
今度こそ絶対、僕が一番にあがって――!
――あ、私終わりました。
ぬわぁぁああん!
 ……ババ抜きに興じていた。
 
 いやホントに大丈夫かよお前ら……。
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登場人物紹介

魔王
若くして魔界を統べた英雄的新米魔王
めちゃくちゃ強いが、苦労人
ツッコむつもりもないのにツッコまざるをえない部下を多数持つ

イシリア
魔王の城のメイドさん
意外と真面目
魔王とは幼馴染

セルフィー
幼女と見せかけて単に幼児体型なだけ
ジョセフに恋する自称乙女
一度回復魔術を使えば、超絶スパルタウーマンと化す

スレイブ
戦闘&修行マニア
なんとか魔王をこっちへ引き込もうとしている
普通に強い

マリアンナ
魔界随一の魔術使い
敵であるはずの神を崇拝
いちおう味方

ジョセフ
色々謎な優男
そしてイケメン
女好き

ダンゴ
魔王の部下
一番の理解者兼一番の被害者
本名はルドル・バルト・シュバエルとかいう長ったらしい名前らしい
見た目からダンゴと呼ばれている

勇者
選ばれし者、英雄を約束されし者
そしてヤル気も既に失われし者
布団の中をこよなく愛する者

エレナ
回復術士
女神の如き優しさと寛大さを持ち合わせる聖女
単に天然なだけという噂もちらほら
ファンクラブは星の数ほどあるという

ユーン
女戦士、豪傑豪胆
勇者一行ツッコミ担当
そして勇者一行唯一の常識人

リュー
魔術師担当
おっとりとした口調が特徴
腹黒さは魔族並

ルルリエ

天界の聖天使。マジ天使。
大天使長リヒテルの実の妹
唯一とも言える良識人
魔王一派に圧倒されているが

リヒテル

天界の大天使長
なんか色々考えてるっぽい
めちゃくちゃ強い

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