第3話『魔王、仕切る。』

文字数 2,441文字

 ――翌朝の魔王城。
ふぁあああぁぁぁ……。
みんな、おはよー。
全然おはやくないっつーの。
もうすぐ夕方よ。
とんだグータラ魔王ですわ。
皆々、きちんと朝には起きてましたのよ?
スレイブですらとっとと修行に出てったというのに……。
まあまあ。
昨晩はずいぶんと楽しそうでしたからね。
うん!
思わず白熱しちゃった!
白熱し過ぎですぞ!
いったい何回皆にババ抜きをさせたと思っているのですか!
34回ですね。
よくもまあそんなにしたものね。
付き合う私らも私らだけど……。
そして魔王様は33回連続ドベという……。
あそこまでババ抜きが弱いと、もはやある意味才能ですわね。
途中何度心が折れそうになったことか……。
あんたって妙なところだけ負けず嫌いなんだから。
勝つまでやる!なんて言うからよ。
みるみる顔色が悪くなっていましたよね。
で、でも!
最後には勝てましたよね!
そうそう!
僕とルルリエちゃんの一騎打ちだったけど、僕が勝ったんだよね!
はい!
私が負けました!
もっとも、それまでルルリエさんは33回連続で1位抜けでしたがね。
驚くべき幸運さでしたね。
さすがは元聖天使ですね。
だいたいさ。
最後はルルリエがわざと負けてたじゃない。
え゛っ!?
気付いてなかったんかい……。
そ、そんなことは……。
ルルリエ、あいにくながら否定は無理がありますわ。
何せこの御人、顔芸並に顔に出てたわけですし。
ジョーカーに手を伸ばせば、はち切れんばかりの満面の笑みを浮かべていましたね。
逆にジョーカー以外のカードはこの世の終わりのような顔をしていましたしね。
あれに素で負けるなら、世の中生きていけないわよ。
生存能力自体に異常をきたしてるわ。
それにそれまで33回連続1位だった人が突然最後になって33回連続ドベに負けるなど、もはや天文学的な確率ですぞ。
うぅぅ……なんてこった……。
あ、あの……すみません……。
あんたが謝る必要はないわよ。
おかげで終わりなき勝負に終止符が打たれましたしね。
それはそうと、なんか忘れてる気がするんだけど気のせいかな?
はて?
そうですかな?
うーん……思い出せない……。
あ、あの……幻影さんのこと、ではないでしょうか……。
あ。
あ。
あ。
あ。
すっかり忘れていましたね。
ハハハ。僕もわすれていました。
言われてみれば、なんか気配消えてる……。
じゃあ倒されたってことじゃない?
たぶん……。
少し前は瞬殺されていたのに、その幻影を破るとは……。
想像以上に力を付けているんでしょうね。
対策を取るべきですわ。
もはや並の魔物でも太刀打ちできないと考えるべきですし、そうなればこの城へ来るのも時間の問題ですわね。
そうだねぇ。
とりあえず……どうしようかな。
討って出ましょう!
先手を打つのです!
落ち着きなさいダンゴ。
そもそも、今どこにいるのは分からないじゃない。
た、確かに……。
周辺を警戒するにも、人員が圧倒的に足りませんね。
魔術で魔界全土を索敵をしてみましたが、気配はありませんね。
おそらく既に魔界には入っているでしょうし、勇者さん達の中にも相当な魔術使いがいるようです。
さて、どうするか……。
あ、あの……。
うん? 
ルルリエさん、どうかされましたか?
交代で門から監視するというのはどうでしょうか。
以前魔王城の周囲を見ましたが、人間界から来るのであれば荒野を抜けなければなりませんし、肉眼で一行を捉えることは可能だと……。
なるほど……それはいいかもしれませんね。
限られた人員と現在の状況からすれば、最善とも言える策ですね。
うん! 採用!
さっすがルルリエちゃん!
頼りになるー!
……!
あ、ありがとうございます……!
どこぞの魔王とは違いますわね!
今すぐ魔王様ととっかえっこしたいですな!
ふほほほほ!
何も反論出来ねえぜ!
泣けるぜ!
……。
……人を支えるということの形は様々ですわ。
え?
別の誰かに居場所を奪われそうに感じる気持ちはわかりますが、焦る必要はありませんことよ?
わ、私は……別に……。
あなたにはあなたにしか出来ないことがありますわ。それを努々忘れずに、自分に自信を持ってくださいませ。
きっとそれが、誰かの支えになりますわ。
……。
……ありがと。セルフィー。
よっしゃ!
順番は僕が独断と偏見で勝手にサクサク決めさせてもらうからね!
文句はダンゴくんに言ってよね!
なぜ私ですか!?
ていうかなんであんたが仕切ってんのよ。
手柄を横取りするつもりですわね。
黙らっしゃい!
それと、はいもう順番決めた!
最初はマリアンナさん! で、あとは順次言ってく!
なんだかえらく適当ね。
なかなか決められないよりはマシかと。
ともあれ、頼みましたぞ!
マリアンナさん!
はい。頑張りますね。
肝は如何に勇者達を発見することにありますわね。
そうだね。
仮に発見が遅れても、少なくとも城への侵入は断固として阻止しなきゃ。
マリアンナさん、お願いします。
はい。
とりあえず、我々は奥で待機しておきましょうか。
そうだね。
マリアンナさん、何かあったらすぐ教えてね。
 全てをマリアンナに託した魔王達は、城の奥へと戻って行った。
 かくして、勇者進攻を阻止するための戦いが始まったのだった。最初の番人はマリアンナ。
 そして彼女は……。
……。
……。
……あ。
――……どうやら、ここみたいだね。
魔界の果てにあるお城ですし、そうでしょうね。
まさに魔王城って感じだし、ここだろうねぇ。
おー。やっと着いたかー。
みなさん。お待ちしておりましたよ。
――ッ!?
お前は――!?
さぁ、どうぞこちらへ。
紅茶の準備をしておきましたので、ゆっくりしてくださいね。
……行っちゃったねぇ。
どういうこと!?
これ、やっぱり罠!?
いや違うだろ。
とりあえず休んでこうぜ。
付いて行くつもりなの!?
ですが、殺気や妙な気配は一切感じられませんでしたね。
同感だね。
たぶんここは魔王城じゃないんじゃないかな?
じゃなければ、あそこまで無防備に招いたりしないだろうし。
そりゃまあ……確かにそうだけどさ……。
ってことで、お邪魔しまーす。
 ……あっさりと、勇者達の侵入を許すのであった……。
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登場人物紹介

魔王
若くして魔界を統べた英雄的新米魔王
めちゃくちゃ強いが、苦労人
ツッコむつもりもないのにツッコまざるをえない部下を多数持つ

イシリア
魔王の城のメイドさん
意外と真面目
魔王とは幼馴染

セルフィー
幼女と見せかけて単に幼児体型なだけ
ジョセフに恋する自称乙女
一度回復魔術を使えば、超絶スパルタウーマンと化す

スレイブ
戦闘&修行マニア
なんとか魔王をこっちへ引き込もうとしている
普通に強い

マリアンナ
魔界随一の魔術使い
敵であるはずの神を崇拝
いちおう味方

ジョセフ
色々謎な優男
そしてイケメン
女好き

ダンゴ
魔王の部下
一番の理解者兼一番の被害者
本名はルドル・バルト・シュバエルとかいう長ったらしい名前らしい
見た目からダンゴと呼ばれている

勇者
選ばれし者、英雄を約束されし者
そしてヤル気も既に失われし者
布団の中をこよなく愛する者

エレナ
回復術士
女神の如き優しさと寛大さを持ち合わせる聖女
単に天然なだけという噂もちらほら
ファンクラブは星の数ほどあるという

ユーン
女戦士、豪傑豪胆
勇者一行ツッコミ担当
そして勇者一行唯一の常識人

リュー
魔術師担当
おっとりとした口調が特徴
腹黒さは魔族並

ルルリエ

天界の聖天使。マジ天使。
大天使長リヒテルの実の妹
唯一とも言える良識人
魔王一派に圧倒されているが

リヒテル

天界の大天使長
なんか色々考えてるっぽい
めちゃくちゃ強い

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