第11話『魔王、対決する。⑤』
文字数 3,264文字
各地で続々と決着が付く一方で、魔王と勇者は魔界の中心地、荒野にいた。
草木は全く見当たらず、辺り一面渇いた砂と石しかない。暗雲が空を覆い、風が吹けば砂塵を巻き上げ視界を遮る。
二人を邪魔する者もいなければ、見守る者もいない。無機質に広がる荒れた大地で、魔王と勇者は雌雄を決していた。
勇者は荒野を駆け抜ける。山のように動かない魔王の周囲を周りながら徐々に距離を詰める。
魔王は力なく立ちつつも、その視線は確実に勇者を捉えていた。
勇気は跳び上がり、一気に間合いに入る。そして剣を振り抜くが、魔王が生み出した光の障壁が雷電と共に刃を遮る。
だが勇者は動揺を見せない。あらゆる角度から何度も剣を振り抜き、隙を窺う。それでも魔王はあくまでも冷静に剣筋を見切り、全ての斬撃を防いでいた。
バチ……バチ……と。
稲光は魔王を囲むように光を放っていた。
小さく舌打ちをした勇者は大きく後ろに跳び、魔王から距離を取った。
そして着地と同時に剣を腰の鞘に収め、両の掌を合わせた。
詠唱と共に重なる両手の隙間から光が溢れる。そして勇者が投げ出せば、光は槍のように魔王へと襲い掛かる。
魔王はゆるりと右手を前に出す。そして光を掌で受ければ、光は渦巻きながら縮小し、やがて消えた。
魔術をも防がれた勇者だったが、彼に焦る様子は見られない。
勇者は頭を手でわしゃわしゃとかきながら、一つため息をこぼす。
そして勇者は表情を変えた。
その顔に、それまでの緩さはない。気の抜けた瞳には確かな光が宿り、真っ直ぐに魔王を見つめていた。
ああ。
その名のとおり、召喚された奴は時に忘れられるんだよ。
召喚された時のまま、そいつだけ、時が止まる……つまりは、一種の不老不死になるわけだ。
もちろん痛みは感じるし、ケガや病気で死ぬみたいだけどな。
それがなけりゃ、いつまでも今のまんまだ。
そして勇者は、四肢に力を込め始めた。
勇者は塞がれていた時を解き放つ。
その瞬間、周囲に異変が起こった。
空間は歪み初め、景色を曲げる。空は七色に染まり、禍々しいまでに彩られた。心がざわつき、耳鳴りが響く。魔王ですら気を抜けば倒れそうなほど、歪んだ圧力が勇者から放たれていた。
そして異変が終われば勇者の体は溢れんばかりの輝きに包まれる。やがて輝きは背後で収束し始め、一輪の、光の輪が形成された。
その膨大な力は、勇者の体が宙に浮く程であった。
……その光の輪は、君のマナそのものなんだね。
体からは溢れ出た凄まじいマナが具現化して、その輪っかを形成してるんだろうね。
理論上はあり得ないことはないだろうけど……まあ、あくまでも理論上での話。
現実的には、ぶっちゃけあり得ないね。
それこそ人智を遥かに超えたマナが必要だし。
勇者は魔王に向け滑空する。圧倒的な力を携えて。
そして魔王もまた、勇者を迎え撃たんがために構えを取るのだった。