第6話『魔王、やっちまう。』

文字数 2,701文字

 魔王城を出て数分後、魔王達はとある場所に立っていた。そこは天界の総本山とも言える、あの白い建物の前。
 光り輝く純白の城を前に、魔王とマリアンナはその全貌を眺めていた。
……とまあ、あっという間に天界の中心地に来ちゃったわけだけどさ。
そうですね。
あっという間でしたね。
そうそう、あっという間だったんだけど。
はい。
あっという間です。
……。
……。
……なんか、あっという間過ぎない?
と言いますと?
いやだってさ、仮にも敵対する世界に乗り込むわけじゃん?
めちゃくちゃ盛り上がるところじゃん?
そうかもしれませんね。
……全然盛り上がってなくね?
そうでしょうか……。
普通さ、色々冒険しながら手掛かり探してさ、そんで中ボスだのなんだの倒して、やっとこさここまで来る感じになるじゃん。
そんで敵陣中枢に来て言ったりするじゃん。
ここまで永かったぜ……。
的な。
はあ……。
全然そんなのないじゃん。移動魔法で即到着じゃん。
はい。快適な旅でしたね。
快適過ぎるってば!
城でトイレ行く時の方がよっぽど過酷じゃん!
お漏らししては大変ですからね。
そーいう話じゃないんだよなぁ!
ああもうなんか調子狂うなぁ!
とりあえず、どうしますか?
そうだねぇ。
まあこれ見よがしにドデカイ門があるわけだし。
 そう言って魔王は目の前の門に手を触れる。白き宮殿の門はかなりの大きさを誇り、まるで巨人の住処のようであった。
 単純な力では、到底開くことは出来ないだろう。
なんか開けるのめんどくさそうだね。
いえ、そうでもないですよ?
あれま簡単に言ってくれちゃって。
何しろ開門の呪文さえ知っていれば、誰でも開けることが出来ますからね。
……まさか、とは思うんだけどさ。
その呪文、知っちゃってたりする?
はい。ばっちりと。
ああもうロマンがないなぁ!
じゃあ開けちゃいますね。
セイセイセイ!
ちょっと待ちなマリアンナさんよぉ!
どうされました?
いやね、開けるのは簡単なんだろうけど、それじゃ余りにもありがたみが無さすぎると思うんだよ。
ストーリーとしても陳腐じゃん?
そうでしょうか……。
そもそもさ、いったいどこに天界と魔界を自由に行き来する魔王がいるのって話なわけよ。
では、どうされますか?
そこはあれよ。
何も知らない僕がなんとか開けるわけよ。
苦労しながら謎を解いて、この雰囲気ありまくりの扉を開けるんだよ。
謎ですか……。
残念ですが、謎はありませんよ?
謎は探すんじゃなくて見つけるもんだよ。
はぁ……。
まあそこで見ててよ。
物語ってのがどういうものか、見せてあげるよ……。
 ところ変わって、宮殿内の牢獄。薄暗く、通路の松明は怪しく動き影を揺らす。どこからともなく水滴が滴る音が響く。重く湿った空気が牢獄全体に広がり、不気味な雰囲気を産み出していた。
 数多くある檻の中の一部屋。そこの椅子には、ルルリエが目を閉じ静かに座っていた。まるで覚悟を固めているかのように、彼女は微動だにしない。
 その地下牢に、足音が近づいてきた。
……。
やあ、ルルリエ。
意外と落ち着いているんだね。
……処分が決まったのですか?
いきなりだね。
そんなに処分が待ち遠しいのかい?
そうではありません。
私はただ、自分の行動のけじめをつけたいだけなのです。
そう……。
確かに処分は決まってるけどね、そんなに簡単に決まったりしたわけじゃないよ。
何しろ元老院の爺達を言いまとめないといけないからね。
なかなか苦労するんだよ。
お戯れを……。
天使長様は、既に元老院をも掌握されているのでしょう?
もはやあなたの意思は天界の意思。そのどこに苦労があると?
ははは、そんなの誰から聞いたんだい?
聞かずともわかります。
聖天使を務めていれば、誰の目から見ても明らかです。
元老院があなたに媚びを売るところなど、数えきれないほど目にしてきましたから。
ふむ……。
どうやら、覚悟はとっくに出来ているようだね。さっきから言葉に棘がある。少し前の君なら、絶対に口にしなかったのに。
最期の時くらいは、私も飾らずに生きてみようと思っただけです。

なるほど……それほどの覚悟があるのなら、早々に言い渡してもいいよね。
……。
……聖天使ルルリエ。貴公の処分を言い渡す。
敵と内通し、天界の情報を流したその咎を悔い改めるべく、貴公は――。
 その瞬間であった。
 突如とてつもない爆音が響き渡り、建物全体が激しく揺れる。その直後から兵士達の動乱が聞こえ始め、警報音が鳴り響いた。

 そして一人の兵が息を切らし牢獄へと駆け込んできた。
――何事だ。
ほ、報告致します!
宮殿の門が……破られました!
……なに?
突如門が外から弾け飛び、もはや原型はありません!
外部からの襲撃と思われます!
そうか……。
至急状況の確認を行い、兵を直ちに門へ集めろ。手の空いた者は負傷者の救護。
賊を発見した場合、命令を待つことなく迎撃せよ。
りょ、了解!!
 兵はそのまま、慌てるように階段を駆け上がっていった。
 残る天使長は顎に手を添え、思案する。
……これはさすがに驚いたね。
まさか、宮殿の門が破られるとは……。
し、信じられません……。
大門は幾重にも防御結界が施されていたはず……。
それだけじゃない。
あの門は、天界で最も強固とされる鉱石で作られている。構えてこれまでの間、傷一つすらつかなかったというのに……。
それがいったいなぜ……。
――……そうか。なるほど、それならば……。
 何かを察した天使長は、ニヤリと笑みを浮かべた。
て、天使長……様……?
いや、君もずいぶんと好かれたようだね……。
――ッ!
ま、まさか――!?
 そして、門前の広場。
 辺り一面に粉塵が立ち込め、視界を遮る。その中で魔王とマリアンナは、半ば呆然と立ち尽くしていた。
 彼らの目の前にある巨大な門……もはや門とは言えないほどに崩れてしまい、拳大の破片が散乱していた。
……ほ、ほら……開いたよ……。
開いたと言うより、空けたという感じですね。
……。
これが、魔王さんの言う物語というものなのですね。
ま、まあね……。
ですが、がなかったような気がしますが……。
目に見えないからこそ謎なんだよ。
うん、そうそう。
そうなんですね。
私はてっきり、なんとか開けようとしたけどどうしても開かずに困った挙句ただ単に攻撃魔術で門を吹っ飛ばしたのかと思いました。
そ、そんなわけないからね!?
絶対まったくもってそんなことはないからね!?
本当だからね!?
こっちから声が聞こえるぞ!
兵を集めろ!!
あらあら。
兵隊さんがたくさん来そうですね。
……マリアンナさん?
はい?
もしかして~とは思うんだけどさ。
はい。
僕……やっちまった?
はい。やっちまいましたね。
 そして兵の大群が、魔王達に襲い掛かるのだった……。
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登場人物紹介

魔王
若くして魔界を統べた英雄的新米魔王
めちゃくちゃ強いが、苦労人
ツッコむつもりもないのにツッコまざるをえない部下を多数持つ

イシリア
魔王の城のメイドさん
意外と真面目
魔王とは幼馴染

セルフィー
幼女と見せかけて単に幼児体型なだけ
ジョセフに恋する自称乙女
一度回復魔術を使えば、超絶スパルタウーマンと化す

スレイブ
戦闘&修行マニア
なんとか魔王をこっちへ引き込もうとしている
普通に強い

マリアンナ
魔界随一の魔術使い
敵であるはずの神を崇拝
いちおう味方

ジョセフ
色々謎な優男
そしてイケメン
女好き

ダンゴ
魔王の部下
一番の理解者兼一番の被害者
本名はルドル・バルト・シュバエルとかいう長ったらしい名前らしい
見た目からダンゴと呼ばれている

勇者
選ばれし者、英雄を約束されし者
そしてヤル気も既に失われし者
布団の中をこよなく愛する者

エレナ
回復術士
女神の如き優しさと寛大さを持ち合わせる聖女
単に天然なだけという噂もちらほら
ファンクラブは星の数ほどあるという

ユーン
女戦士、豪傑豪胆
勇者一行ツッコミ担当
そして勇者一行唯一の常識人

リュー
魔術師担当
おっとりとした口調が特徴
腹黒さは魔族並

ルルリエ

天界の聖天使。マジ天使。
大天使長リヒテルの実の妹
唯一とも言える良識人
魔王一派に圧倒されているが

リヒテル

天界の大天使長
なんか色々考えてるっぽい
めちゃくちゃ強い

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