第3話『魔王、スパルタを強いられる。』

文字数 2,289文字

 さて、これまた何の面白味もなく、移動魔法であっちゅー間に王都のすぐ近くまで移動した魔王一派と勇者一行の混合部隊の皆さま。

 さっそく街へと入ろうとしたが……どうやら、雲行きが怪しいようだ。

――検閲を行う!

フードを被っている者は顔を見せろ!

荷物、樽に至るまで、全てを確認する! 

王都に入らんとする者は、列に並び順番を待て!

こんな時期に検閲?

どういうことだよ。

知らねえのか?

なんでも、逆賊が王を狙っているって話らしいぜ?

本当か!?

どおりで検査が厳しいわけだ……。

――……どうやら、既に防衛線を引かれているようですね。

そうだね。用心のために王都の外までにしたのは正解だったかもね。

その噂の逆賊って言うのもおそらくは僕達のことだろうし、のうのうと王都の中に入ってたらたちまち捕まってたかもしれないね。

私達の行動なんてお見通しってわけね。

それにしても、王都の入口でこれだけ大々的に検閲がされるってことは、やっぱり人間界の王ってのは敵ってことになるんでしょうね。

王都の中も、相当な警備を張られていると考えるべきでしょうね。
……エレナ、大丈夫?

……私なら大丈夫です。

覚悟は既にできています。

どうする?

突破するか?

このメンツならそれも可能だろうけど、得策とは言えないかもね。

王都内部のことが分からない以上、迂闊にことを急ぐのは危険かもしれませんね。

場合によっては、早々に魔王さん達が酷い目に遭うかもしれませんし。

そうね。

もう面倒だし、さっさと突破するわよ。

さっさと突破してさっさと王をシメるわよ。

待て待て待て!

あんたさっきまでの話聞いてた!?

聞いてたわよ。

でもどうしようかとか考えれば考える程腹立って来るじゃん。

なにいっちょ前に人質になってんのよアイツ。

どんだけ迷惑かけてんのよ。

多少痛い目見た方がいいっつーの。

多少どころか下手すりゃ死ぬからね!?

命がけのスパルタ教育になるからね!?

まあ冗談はさておいて……。

いやいや絶対本気でしょ!

この人純度100%で本気でしょ!

さしあたっての問題は、どうやって王都に入るかってところだろうね。

人も多いし、エレナの姿を見られただけで騒ぎになるだろうから厄介だね。

他に入口はないのですか?

あることはありますが、おそらくはそちらも手が回っていると思います。

私の知っている秘密の入口も、全て父から教えてもらったものなので……。

八方塞がりってやつだね。

こうなりゃ、本当に一か八かで実力突破しかないかもしれないね。

このまま策を考えるとしても、突破するとしても、魔王さん達の安否が気になるところですね……。

 どう行動するべきか……。

 そう悩んでいた一行。その時、彼らに背後から声がかかる。

――……ん?

お前は……。

……?

なんか、聞いたことがある声が……。

 どこか聞き覚えのある声に気付いたイシリアは、背後を振り返る。

 そこには……。

……。
……。

あーーーーーーーーーッ!!

お前は、あの時の……ッ!!

ああ、あんた…………誰?

ざけんなお前!

忘れたとは言わせねえからな!


ええと……どちらさん?
イシリアちゃん、お知り合い?

いや全然。

見たこともないわ。

おい。

マジかおい。

うっさいわね……。

あんた誰よ。

さっさと名乗りなさい。

ニ コ ル だ !

とっくの昔に名乗ったじゃねえかよ!

だから知らないっつーの。
……。

な、なんか凄く落ち込んでない?

わ、忘れているってことはないんですか……?
忘れていたとしても記憶にないなら知らないのと同じよ。

超理論だな!

すげえ理屈だなおい!

よっ!

久しぶりだなぁ。

ちゃんと修行してたか?

――ッ!!

お、お前……覚えていてくれたのか……!?

あったり前じゃねえか!

お前、人間にしては強かったからな!

そういう奴はちゃんと覚えているぜ!

お前……いい奴じゃねえか……!

どこぞのメイドと違ってよ……!

あらスレイブ。

あんたこいつと会ったことあるの?

だからお前も会ったことあるんだよ!

……あなたは、確か西にある街の統治者のご子息ですね?

ニコル……という名も聞き覚えがあります。

――ッ!?

ひ、姫様――!?

 エレナに気付いたニコルは、すぐさま跪き頭を下げる。

あなたの噂は常々聞いていましたよ。

武術にも魔術にも長けた、秀でた才の持ち主と……。

も、勿体なき御言葉……!
さすがは姫君ですね。
こいつがここまでの態度を取るあたり、姫さんって話は本当みたいだな。

ぶっちゃけ半信半疑だったわ。

お前ら失礼極まり過ぎだろ!

処刑されろぉぉぉ!

顔を上げてくださいニコル。

あなたも王都へ?

は、はい……!

父の仕事の商談で、王都へと……。

姫様こそ、どうしてこのようなところに?

やむを得ない事情ってところだよ。
や、やむを得ない事情……?

……ニコル。あなたを信じて、全てを話します。

 そしてエレナは、全てをニコルに話すのだった。
――……というわけなのです。
そんな……まさか、王が……。

もちろん現時点では推測の域を出てはいません。

ですが、現状から考察すると、やはりそうとしか考えられないところはあります。

……。

……ニコル、私達は、なんとしても王都へと……父の元へと向かわねばなりません。

あなたの知恵を、貸しては頂けないでしょうか……。

もう正直どうすりゃいいか分からなくてさ……。

僕らのことは逆賊として兵達に伝えられている可能性が高いからさ。

もう正面突破しかねえって話になりそうだけどな。
ニコル……。

――……姫様、俺に、考えがあります。

マジ!?

ああ、マジだ。

その代わり、お前らにも協力してもらうからな……ククク……。

……何か、果てしなく嫌な予感がするわね……。
 ニコルな不気味な笑みに、イシリアは不安を募らせるのだった……。
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登場人物紹介

魔王
若くして魔界を統べた英雄的新米魔王
めちゃくちゃ強いが、苦労人
ツッコむつもりもないのにツッコまざるをえない部下を多数持つ

イシリア
魔王の城のメイドさん
意外と真面目
魔王とは幼馴染

セルフィー
幼女と見せかけて単に幼児体型なだけ
ジョセフに恋する自称乙女
一度回復魔術を使えば、超絶スパルタウーマンと化す

スレイブ
戦闘&修行マニア
なんとか魔王をこっちへ引き込もうとしている
普通に強い

マリアンナ
魔界随一の魔術使い
敵であるはずの神を崇拝
いちおう味方

ジョセフ
色々謎な優男
そしてイケメン
女好き

ダンゴ
魔王の部下
一番の理解者兼一番の被害者
本名はルドル・バルト・シュバエルとかいう長ったらしい名前らしい
見た目からダンゴと呼ばれている

勇者
選ばれし者、英雄を約束されし者
そしてヤル気も既に失われし者
布団の中をこよなく愛する者

エレナ
回復術士
女神の如き優しさと寛大さを持ち合わせる聖女
単に天然なだけという噂もちらほら
ファンクラブは星の数ほどあるという

ユーン
女戦士、豪傑豪胆
勇者一行ツッコミ担当
そして勇者一行唯一の常識人

リュー
魔術師担当
おっとりとした口調が特徴
腹黒さは魔族並

ルルリエ

天界の聖天使。マジ天使。
大天使長リヒテルの実の妹
唯一とも言える良識人
魔王一派に圧倒されているが

リヒテル

天界の大天使長
なんか色々考えてるっぽい
めちゃくちゃ強い

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