第12話『魔王、対決する。⑥』

文字数 2,619文字

 ――天界。
……これは驚いた……。
いかがされましたか?
千里眼で地上の様子を見ているんだ。
魔王と勇者の戦いをね。
ついに勇者が魔王と対峙したのですか?
ああ。
今その最中なんだよ。
……人間たちには悪いが、あの魔王は少々相手が悪い。
どれほど鍛錬を積もうとも、どれほど素質があろうとも、勝つことは困難を極めることだ。
事実上、不可能とも言える。
……その、はずだった。
違うのですか?
よもやこのような裏技を持った者が現れようとはな。
この世界の人間には到底出来ぬことだ。
まさに、選ばれし者だな。
魔王の分が悪い、と……?
そこまでは言わんよ。
ただ……今は、何とも言えないな。
(……魔王よ。お前の相手は、常識も力も、全てがこの世界から逸脱した存在だぞ)
(お前に、止めることが出来るか……?)
 ――草原。
……マジかよ……。
凄まじい力の波動を感じる……。
それも、二つ……。
ああ。一つは魔王のものだ。
相変わらず化物染みてやがる。
……が、問題はもう一つの方だな……。
魔王と同等……いや、それ以上かもしれねえ。
すっげえ強い力だ。
空がビビってやがる……。
――ッ!?
あいつと戦っているのは、確か……。
 ――森。
――あり得ないね。
彼は確かに強いけど、これほどの力はないよ。
……ですが、彼以外に魔王と戦っているという可能性は低いかと。
そもそも、これほどの力を持った人物が突然現れるという方が考えられません。
確かに彼の力の波動と似てはいるけどさぁ……。
でも、根本的な“質”は全然違うよ。
いずれにしても、私達は魔王さんのところへは迂闊に行けませんね……。
 ――城。
……魔王のところへ行けない?
なぜですか?
行けるものならとっとと行っていますわ。
ですが、これほどの力の激突……下手に動けば、かえって魔王の邪魔になってしまいますわ。
……。
……いずれにしても、この禍々しいまでの力はいったい……。
エレナ?
あなた、本当に心当たりありませんの?
……おそらくは勇者さんなのだと思いますが……それ以上のことは……。
……そう。
 ――魔王城前。
――ダンゴ!
今すぐにあいつを助けに行くわよ!
落ち着いてくだされ!
先ほども言った通り、私達が行っても足手まといにしかなりませぬ……!
これほどの力を持つ相手……魔王様とはいえ、一瞬でも気を抜けばたちまち致命の一撃を受けるでしょうね……。
で、でも!
このままでは魔王さんが……!
ルルリエさん。
お気持ちはわかりますが、今は……。
もういいわ!
みんな行く気がないのなら、私一人でも行って――!
――助けに行く気がないとお思いですか!?
――ッ!!
私だって!
今すぐにでも助けに行きたいですぞ!
行って魔王様の囮にでも楯にでもなりたいですぞ!
……ですが、それすらも叶わぬほどの相手なのですぞ!
私だって、悔しいのですぞ!
何も出来ない自分が、本当に悔しいのですぞ!
……。
……ダンゴさん……。
……ごめん。
……今は願いましょう。
魔王様のご無事を……。
僕達に出来ることは、それだけです……。
……はい。
……。
(……アルマ……)
 ――荒野。
 そこに、先ほどまでの荒野はなかった。
 大地は割れ、地形が隆起する。流れていた暗雲は裂け、或いは散り、穴が空き、スポットライトのような陽光が至るところに差し込まれていた。
――ハァッッ!!
 勇者が空中から剣を払う。マナの光が斬撃に変わり、大地に構える魔王を襲う。
 魔王は左に跳び光の一撃を躱すと同時にマナを練り上げる。
炎よッ!!
 魔王が詠唱を唱えると、かざした掌から嵐のように巨大な火柱が巻き起こり勇者へ放たれる。勇者は素早く地上へと降り立ち躱すが、魔王は既に追撃を構えていた。
凍えよッ!!
 振り抜かれた魔王の両手からは冷気が放たれる。放物線上に広がる冷気により、瞬く間に辺り一面の大地は氷河と化す。
 そして氷の大地は着地したばかりの勇者の脚を捕らえ、結束させた。
――ッ!?
雷ィッッ!!
 勇者の刹那の動揺を魔王は見逃さない。レーザーのような雷の塊を勇者に放つ。轟音と地響きを上げながら、魔王の雷は勇者を襲う。
舐めんなッ!!
 勇者はマナを昂らせ、周囲の氷を一瞬にして蒸発させる。そして向かい来る雷に直接マナをぶつけた。
 雷と光が衝突すると凄まじい爆発が巻き起こる。爆風が岩や大地を吹き飛ばし、爆炎は空を突き抜ける。
 魔王は省略出来るはずの詠唱を唱えていた。そうすることで、より一層強く魔術を放つことが出来るからである。
 詠唱がなくとも、魔王の魔術は別次元に強力である。その力が更に強化され、魔王は既に別次元の存在へと化していた。
 だが勇者は、その魔王と対等以上に戦う。尋常ならざる力を携え、未だかつてないほど魔王を追い詰める。
 爆発が収束する間もなく、両者は同時に飛び出していた。爆炎と黒煙を突破した両者は、接近戦を展開させる。
オオオオオオ!!
ハアアアアア!!
 魔王は両手に、勇者は剣にマナを纏わせる。光の拳と光の剣は繰り出され、幾度となく衝突を繰り返す。
 互いに相手の攻撃を阻止し、その中でも致命の一撃を狙う。繰り返される打撃と斬撃は常人の目には捉えらぬほど速く、衝突の度に衝撃波が起こるほど重い。
 見れば双方とも既に満身創痍であった。
 服は至るところが破け、体のあらゆる部位から血飛沫が飛び散る。
 普通であれば既に決着が付いていてもおかしくはない。だがそれでも、二人は戦うことを止めない。諦めない。互いが背負うもののために、戦い続ける。
このままでは君の寿命は尽きるぞ!
なぜそこまでして戦うんだ!
何が君を戦わせる!
お前がいる限り、世界は落ち着かないんだよ!
人々は怯え震えるんだ!
どんな奴かは関係ない!
そこにいるだけで世界に恐怖を撒き散らす魔王は、討たれるべきなんだよ!
乱暴な言い分を!
そういう思い上がりで、どれだけの魔界の民が討たれたと思ってるんだよ!
一方的に善悪を押し付けるほど、君達は偉いのか!?
完璧な存在なのか!?
そんなわけあるか!
完璧な存在なんているわけないんだよ!
全てを護ることなんて出来ないからこそ、何を護るかを見定めるんだよ!
だから俺はエレナ達が護りたいものを護るだけだ!
お前を倒してな!
傲るなよ人間!!
俺はただ掴みたいだけだ!
あの日掴めなかった手を、今度こそ掴みたいだけだ!
そして証明してやるんだよ!
こんな俺でも、何かを護れるってことを!
より多くの手を掴んでな!
傲るなと言っている!!
 魔王と勇者……空前絶後の戦いは、その激しさを増していく――。
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登場人物紹介

魔王
若くして魔界を統べた英雄的新米魔王
めちゃくちゃ強いが、苦労人
ツッコむつもりもないのにツッコまざるをえない部下を多数持つ

イシリア
魔王の城のメイドさん
意外と真面目
魔王とは幼馴染

セルフィー
幼女と見せかけて単に幼児体型なだけ
ジョセフに恋する自称乙女
一度回復魔術を使えば、超絶スパルタウーマンと化す

スレイブ
戦闘&修行マニア
なんとか魔王をこっちへ引き込もうとしている
普通に強い

マリアンナ
魔界随一の魔術使い
敵であるはずの神を崇拝
いちおう味方

ジョセフ
色々謎な優男
そしてイケメン
女好き

ダンゴ
魔王の部下
一番の理解者兼一番の被害者
本名はルドル・バルト・シュバエルとかいう長ったらしい名前らしい
見た目からダンゴと呼ばれている

勇者
選ばれし者、英雄を約束されし者
そしてヤル気も既に失われし者
布団の中をこよなく愛する者

エレナ
回復術士
女神の如き優しさと寛大さを持ち合わせる聖女
単に天然なだけという噂もちらほら
ファンクラブは星の数ほどあるという

ユーン
女戦士、豪傑豪胆
勇者一行ツッコミ担当
そして勇者一行唯一の常識人

リュー
魔術師担当
おっとりとした口調が特徴
腹黒さは魔族並

ルルリエ

天界の聖天使。マジ天使。
大天使長リヒテルの実の妹
唯一とも言える良識人
魔王一派に圧倒されているが

リヒテル

天界の大天使長
なんか色々考えてるっぽい
めちゃくちゃ強い

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