第12話『魔王、対決する。⑥』
文字数 2,619文字
――天界。
――草原。
――森。
――城。
――魔王城前。
――荒野。
そこに、先ほどまでの荒野はなかった。
大地は割れ、地形が隆起する。流れていた暗雲は裂け、或いは散り、穴が空き、スポットライトのような陽光が至るところに差し込まれていた。
勇者が空中から剣を払う。マナの光が斬撃に変わり、大地に構える魔王を襲う。
魔王は左に跳び光の一撃を躱すと同時にマナを練り上げる。
魔王が詠唱を唱えると、かざした掌から嵐のように巨大な火柱が巻き起こり勇者へ放たれる。勇者は素早く地上へと降り立ち躱すが、魔王は既に追撃を構えていた。
振り抜かれた魔王の両手からは冷気が放たれる。放物線上に広がる冷気により、瞬く間に辺り一面の大地は氷河と化す。
そして氷の大地は着地したばかりの勇者の脚を捕らえ、結束させた。
勇者の刹那の動揺を魔王は見逃さない。レーザーのような雷の塊を勇者に放つ。轟音と地響きを上げながら、魔王の雷は勇者を襲う。
勇者はマナを昂らせ、周囲の氷を一瞬にして蒸発させる。そして向かい来る雷に直接マナをぶつけた。
雷と光が衝突すると凄まじい爆発が巻き起こる。爆風が岩や大地を吹き飛ばし、爆炎は空を突き抜ける。
魔王は省略出来るはずの詠唱を唱えていた。そうすることで、より一層強く魔術を放つことが出来るからである。
詠唱がなくとも、魔王の魔術は別次元に強力である。その力が更に強化され、魔王は既に別次元の存在へと化していた。
だが勇者は、その魔王と対等以上に戦う。尋常ならざる力を携え、未だかつてないほど魔王を追い詰める。
爆発が収束する間もなく、両者は同時に飛び出していた。爆炎と黒煙を突破した両者は、接近戦を展開させる。
魔王は両手に、勇者は剣にマナを纏わせる。光の拳と光の剣は繰り出され、幾度となく衝突を繰り返す。
互いに相手の攻撃を阻止し、その中でも致命の一撃を狙う。繰り返される打撃と斬撃は常人の目には捉えらぬほど速く、衝突の度に衝撃波が起こるほど重い。
見れば双方とも既に満身創痍であった。
服は至るところが破け、体のあらゆる部位から血飛沫が飛び散る。
普通であれば既に決着が付いていてもおかしくはない。だがそれでも、二人は戦うことを止めない。諦めない。互いが背負うもののために、戦い続ける。
魔王と勇者……空前絶後の戦いは、その激しさを増していく――。