第9話『魔王、カッコつける。』

文字数 2,296文字

 魔王を討ち英雄にならんとするニコルに囚われたイシリアとジョセフ!
 絶体絶命(にも見えないような)状況の二人の元に、魔王は救助に駆け付けた!
 だが魔王は、(自爆により)致命的な(精神的)ダメージを負ってしまったのだった……!
……見らんといてぇ。
穢れた僕を見らんといてぇ……。
これはこれは。
どうやら瀕死の重傷みたいですね。
なんであんな登場したのよ。もっと普通で良かったじゃないの。
だってあの状況なら何をやっても許されると思ったんだもん。
限度ってものがあるでしょうもん。
ボケるかカッコつけるかどっちかにしなさい。
それ知ってる!
二頭を追う者は一頭も得ず、だね!
惜しい。
正確には、二兎を追う者は一兎も得ず、ですね。
Oh……。
もうあんたは黙ってた方がいいわ。
喋るほど威厳という威厳が消滅するわよ?
そうしてみる……。
お前らいい加減にしろぉ!
あ、ごめんごめん。
ええと……どちら様?
今回の主犯よ。
あ、そうなんだ!
どうも初めまして。魔王と申します。
あ、こちらこそ。
ニコルと申しま――ってそうじゃねえ!
これは既に完全に吞まれていますね。
さっきさんざんカッコつけといてこれはダサいわ。
もう痛々し過ぎて直視できない。
お、お前らバカにしやがって……!!
そんなつもりもないんだけどね。
それもそうね。
むしろ呆れるくらい平常運行だわ。
そうですね。
城にいる時となんら変わりはありませんね。
おい魔王! 外の包囲網をどうやって潜り抜けてきやがった!
え? ああ、外にいた人達のこと?
あのさ、君達本当にちゃんと作戦練ってた?
どういうことだ?
いやね、外って視界も悪いし岩だらけで進みにくいでしょ?
そこに迷い込んだ僕を迎え撃つつもりだったもしれないんだけどさ……。
外の人達、僕に全く気付かなかったよ?
は……?
むしろこれが何かの策じゃないかって心配になったくらい気付いてくれなくてさ。
まあ確かに色々見づらかったのは確かだけどさ、周りの人達、一人残らず甲冑被ってたじゃん?
それってさ、僕より見づらくならない?
……あ。
真横歩いてるのにさ、全然気付いていないの。むしろ人によってはさ、仲間と間違えたんだろうね。
「魔王倒したら一緒に飲み行こうや!」なんて気さくに話しかけてきたくらいだし。
まあ僕がその魔王なんだけどね。
……。
思わず今度一緒に食事する約束しちゃったよ。
食事楽しみだなー。
当然行っちゃだめよ?
えええ……そんなぁ……。
ぐ……ぐぬぬ……!
これは……いや、なんと言えばいいか……。
ダサい。ダサすぎるわ。
ダサすぎて私そろそろもらい泣きしそうかも。
でも楽にここまでこれたからラッキーだったよ。
これぞ魔王の力ってか?
カッカッカッ!
いやそれって喜ぶところじゃないでしょ。
視点を変えれば、あんたに魔王としてのオーラが微塵もなかったってことだし。
Oh……。
お前らさっきからうるせえんだよぉぉおお!
いい加減喋ってんじゃねえぞコルァァァ!
ありゃ。怒っちゃった。
これ以上ない最大の挑発にはなったみたいですね。
おい!
まとめてぶっ殺せ!
お、おお!
うおおおおお――!
痛かったらごめんねー。
 言葉と共に、魔王は右の掌から光を放った。
へ?
――うぼぉぁっ!?
 光を受けた傭兵は凄まじい勢いで吹き飛ばされ、そのまま壁を突き破り外へと投げ出されてしまった。
あらー。壁突き破っちゃった。
ちょっと強くしすぎちゃったかも。
な、何をしやがった!?
魔術か!?
魔術なんてそんな。僕がろくに訓練も積んでいない人に魔術なんて使っちゃったら、それこそ蒸発しちゃうんじゃん。
今のは単純に魔力そのものを放っただけですね。
通常魔力は空気にも似た性質ですが、密度を高めた状態で相手にぶつけたらかなりの衝撃になりますので。
な――ッ!?
あんただって魔術をかじってるなら分かるでしょ? それがどれほど制御が難しいことで、どれほどの魔力が必要かって。
あいつは……魔王は、それを息するように出来るのよ。
――ッ!!
さて、この場にいるのは君だけになったね。
どうするつもり?
ぐ……!
逃げるなら逃げてもいいんだよ。それを誰も咎めはしないさ。
だって君の眼の前にいるのは、魔王なんだからさ。
――。
……。
う、うるせええ!
そんな無様な真似が出来るかよ!
……そっか。
そんなこと言われたら、ますます逃げられなくなるよね。
ごめんね。本当は怖いのに。
だ、誰が……!
君のその勇気に敬意を表して、僕もせめて最後くらいはそれっぽく振舞ってみるよ。
 そして魔王は改めてニコルの前に立つ。
 背筋を伸ばし、四肢に魔力を込め、悪魔の如き視線を彼にぶつけた。
 ……その猛々しい姿に、ニコルはもはや震えることしか出来なかった。
――我が名は魔王。魔界を統べ、人の世に災いをもたらす魔王なり……。
……!
人間よ。括目し、その眼に刻め。そして……。
――我が力の前に、
敵は無しと知れ!!
う、うわああああ……!!
天罰覿面!!
 魔王の掌に先程よりも更に強い光を帯びさせた。そして手を振りかざせば、流星の如き光の塊がニコルの頭上から強襲する。
 躱すこともままならなかったニコルは直撃を受け、凄まじい衝突音と共に床に叩きつけられた。
がっ……はっ……。
……。
(やったああ! 超決まった! 今のはかっこよかったはず!)
(さっきのまたどっかで言いたいな。あとでメモに残しておこ
……悦に浸っているところ悪いんだけど、最後が余計だったと思うわ。
全部台無しになっちゃってたし。
確かに、惜しかった気がしますね。
え? え? でも、よくなかった? 
満点近くない?
65点ってところね。
イヤァァァアアアァァァ……!
 そして再び、魔王の甲高い悲鳴が、岩場に響き渡るのだった……。
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登場人物紹介

魔王
若くして魔界を統べた英雄的新米魔王
めちゃくちゃ強いが、苦労人
ツッコむつもりもないのにツッコまざるをえない部下を多数持つ

イシリア
魔王の城のメイドさん
意外と真面目
魔王とは幼馴染

セルフィー
幼女と見せかけて単に幼児体型なだけ
ジョセフに恋する自称乙女
一度回復魔術を使えば、超絶スパルタウーマンと化す

スレイブ
戦闘&修行マニア
なんとか魔王をこっちへ引き込もうとしている
普通に強い

マリアンナ
魔界随一の魔術使い
敵であるはずの神を崇拝
いちおう味方

ジョセフ
色々謎な優男
そしてイケメン
女好き

ダンゴ
魔王の部下
一番の理解者兼一番の被害者
本名はルドル・バルト・シュバエルとかいう長ったらしい名前らしい
見た目からダンゴと呼ばれている

勇者
選ばれし者、英雄を約束されし者
そしてヤル気も既に失われし者
布団の中をこよなく愛する者

エレナ
回復術士
女神の如き優しさと寛大さを持ち合わせる聖女
単に天然なだけという噂もちらほら
ファンクラブは星の数ほどあるという

ユーン
女戦士、豪傑豪胆
勇者一行ツッコミ担当
そして勇者一行唯一の常識人

リュー
魔術師担当
おっとりとした口調が特徴
腹黒さは魔族並

ルルリエ

天界の聖天使。マジ天使。
大天使長リヒテルの実の妹
唯一とも言える良識人
魔王一派に圧倒されているが

リヒテル

天界の大天使長
なんか色々考えてるっぽい
めちゃくちゃ強い

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