第5話『魔王、天界へ行く。』

文字数 2,349文字

 かくして、いそいそと旅支度をしていた魔王は、追跡者となったダンゴに捕えられた。
 そして捕縛されたまま大ホールへと連行され、イシリア達に取り囲まれる形となったのである。
あ、あの……なんで僕は捕まったのかな?
なぜ捕まったのか分からないのですかな?
やだなぁダンゴくん。質問を質問で返さないでよ。
ていうか、あんた何しようとしてんのよ。
いや、ちょっと天界へ。
ちょっとのレベルではないでしょうに!
ピクニックだよピクニック。
お花畑でお散歩的なやつだよ。
あんたが天界のお花畑でピクニックなんてしたら魔界が焼け野原になるっつーの。
えぇぇ……。
あなた、ご自分の立場をお忘れで?
魔界の王たるあなたが天界に行こうものなら、それこそ侵略行為と捉えられてもおかしくありませんわ。
うん……まあ、そうかもしれないけどさ……。
それでも行こうとする、何か理由でもあるんですか?
……。
魔王様。だんまりはダメですぞ。
ことはあなた様だけの問題ではありませぬゆえ。
何か事情がおありのようですわね。
……まあ、なんとなくわかるけどさ。
……やっぱりわかっちゃう?
当たり前よ。いったいいつからの付き合いだと思ってんのよ。
……ルルリエちゃん、ですね?
まあそんなところですわね。
……うん。
どうしてそこまで彼女にこだわるのですか?
彼女が聖天使だからでしょう。
やっぱりただの見習いではなかったのね。
彼女が聖天使だと言うことは、何かしらの任務を受けていたと考えられますね。
当然、偵察ですわね。
天使長から任務を受けていたんだって。
魔界の状況を見て来い、みたいな。
大天使長……!
そこまで彼女が魔王さんに話したとなると、処罰は免れませんね。
そりゃ、背信行為でしょうからね……。
彼女はね、それを承知で僕に全部を話してくれたんだ。
それが自分なりの贖罪だって……。
つまりは、それを止めるために天界へ行く……そういうことですか?
そこまで強硬なことをするつもりはないよ。
ただ、大天使長って人に聞きたいんだ。彼女をどうするつもりなのか。
聞いてどうするのですか?
仮に処刑すると言われた場合、はいそうですかとでも言うつもり?
それは……うーん……。
魔王様の性格上、それはないでしょ。
下手すりゃ大暴れですな。
天界始まって以来の激しい駄々の始まりね。
迷惑な駄々っ子ですこと。
ううーん、否定できない……。
とにかく!
妙な思い付きで行動するのはやめてくだされ!
天界には天界のルールがあるのです!
こう言ってはいささか薄情ではありますが、ルルリエさんはあくまでも天界の住民!
我々魔界の民が過度に干渉するべきではありませんぞ!
……とは言え、やっぱり心配なのは心配ね……。
ルルリエ……なぜ話してしまったのかしら……。
彼女は、聖天使でいるには優しすぎるのかもしれませんね。
監視対象と割り切ることが出来ず、私達を友人と見てしまったのでしょう。
彼女の不遇を僕達が嘆いても仕方がないことかもしれません。
それより今は、これからどうするのかを考えるべきでしょう。
天界に行く。
うぉい!
なんでそうなるのですか!
だってこれからどうなるかなんてわかんないし、そもそも元々天界は魔界を敵視してるんだよ?
このままほっといても天界はきっと攻めて来るだろうし、遅いか早いかの違いしかないよ。
先手を打って、天使長と話をつけるのですね?
まあね。それで話がつくかは分からないけど、このまま向こうの出方をじっと待つのは得策じゃないでしょ。
むしろこっちが大胆な行動を取れば、向こうだって警戒して逆に様子を見て来るだろうし。
それは確かに言えているわね。
まさか魔王が直々に天界に来るなんて想像もしていないだろうし。
よもやただの無計画で無謀でわがままな行動とは夢にも思わないでしょうね。
想像を凌駕するバカってことね。
そんなに褒めないでよ。
照れちゃう。
呆れてんのよ。
まったく、相変わらず能天気なんだから。
とにかく! 
僕は天界に行くからね!
絶対行くからね!
……あーあ、始まってしまいましたね。
こうなってはもう言うことなんて聞かないですよ、こりゃ。
ほんと、子供なんだから……。
ですがこの思い付き、案外うまくいくかもしれませんね。
天界はおそらく相当混乱することでしょう。
だよね!?
そうだよね!?
調子乗り過ぎですわ。
少し自重なさってくださいませ。
自重してたらバカなことなんて出来ないって。
バカなことでも何もしないよりはマシだよ。
何もしない方がマシってこともあるでしょうに。
セルフィーさん。もはや何を言っても無駄ですぞ。
魔王さん?
天界へ行くなら、私も同行してよろしいですか?
へ? マリアンナさんも来るの?
はい。
意外ね……。マリアンナがそんなこと言い出すなんて。
少し用件があるので。
まさか、神に近いところで祈りを捧げたいからなんて言わないでしょうね?
それもありますね。
あるんだ。
あっちゃうんだ。
しかし、マリアンナさんが一緒なら確かに安心ですな。
確かに、なんだかんだでマリアンナはしっかりしてますから保護者に最適ですわね。
それでもこれ以上の随行は賛成しかねますね。
城の警備面が弱くなりますし。
そうね。入れ違いで天界の軍勢が来ようものなら最悪だしね。
そうなった時はスレイブを存分にこき使ってやりますわ。
早々簡単には死なせませんことよ。
ね? ダンゴくん。だから言ったでしょ?
超絶スパルタウーマンだって。
お、恐ろしや……。
とにかく、天界に行くんだから色々注意しなさいよ。
それで出発はいつ?
もちろん今から。
思い立ったが吉日って言うし。
とんだ吉日ですこと。
とりあえず行ってくるよ。
城の番をお願いね。
みなさん行ってきますね。
あと、お花の水やりもお願いします。
 そして魔王とマリアンナは、一路天界へと出発する。
 残された一行は一抹の不安を抱えながらも、彼らを見送るのだった。
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登場人物紹介

魔王
若くして魔界を統べた英雄的新米魔王
めちゃくちゃ強いが、苦労人
ツッコむつもりもないのにツッコまざるをえない部下を多数持つ

イシリア
魔王の城のメイドさん
意外と真面目
魔王とは幼馴染

セルフィー
幼女と見せかけて単に幼児体型なだけ
ジョセフに恋する自称乙女
一度回復魔術を使えば、超絶スパルタウーマンと化す

スレイブ
戦闘&修行マニア
なんとか魔王をこっちへ引き込もうとしている
普通に強い

マリアンナ
魔界随一の魔術使い
敵であるはずの神を崇拝
いちおう味方

ジョセフ
色々謎な優男
そしてイケメン
女好き

ダンゴ
魔王の部下
一番の理解者兼一番の被害者
本名はルドル・バルト・シュバエルとかいう長ったらしい名前らしい
見た目からダンゴと呼ばれている

勇者
選ばれし者、英雄を約束されし者
そしてヤル気も既に失われし者
布団の中をこよなく愛する者

エレナ
回復術士
女神の如き優しさと寛大さを持ち合わせる聖女
単に天然なだけという噂もちらほら
ファンクラブは星の数ほどあるという

ユーン
女戦士、豪傑豪胆
勇者一行ツッコミ担当
そして勇者一行唯一の常識人

リュー
魔術師担当
おっとりとした口調が特徴
腹黒さは魔族並

ルルリエ

天界の聖天使。マジ天使。
大天使長リヒテルの実の妹
唯一とも言える良識人
魔王一派に圧倒されているが

リヒテル

天界の大天使長
なんか色々考えてるっぽい
めちゃくちゃ強い

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