第8話『魔王、対決する。②』
文字数 3,328文字
意識を失っていたユーンは、涼しい風に頬を撫でられ、微睡みの淵から目を覚ました。
今一つ意識ははっきりとしない。
なぜ自分がこの場所にいるのか。なぜ草原の上に横たわっているのか。自分が、何をしていたのか……。
霞がかった記憶の欠片を整理していると、ふと、隣から声がかかる。
スレイブを見た瞬間、ユーンの脳裏にそれまでのことがフラッシュバックする。
慌てて体を起こしたユーンだったが、全身に痛みが走り体を丸めることとなった。
そん時によ、あいつと出会ったんだよ。
あいつさ、言ったんだ。
“自分と勝負して、もしこっちが勝ったら協力しろ”ってな。
もちろん受けたさ。
どうせこいつも口先だけの雑魚だ。またすぐに終わっちまう。
そんな驕りを持ったままな。
そっから俺は、決めたんだ。
もっともっと修行して、ぜってーあいつに勝ってやるってな。
だから部下ってのはちょっと違うかもな。
俺は、あいつのライバルでいたいんだよ。そうなりたいんだよ。
だから、あいつの近くにいるんだ。
あいつの強さは桁が違うわ。底が見えねえんだよ。どこまで本気で、どこまでぼんやりしてんのか分かんねえ。
普段はひょうひょうとしてるくせに、戦ったらあり得ねえくらいにエグい攻撃を浴びせてきやがる。
掴めねえ強さって言うのかね。
たぶん一生かかっても、あいつの高みには辿り着けねえかもしれねえ。
それから、周囲の母様への態度は一変したんだ。なぜ男子を産まなかったのか。なぜ父様を死なせたのか。
なぜ……なぜ……。
むちゃくちゃな話だよ。どうしろっての。
だけど母様は、アタシにまで危害が及ぶのを危惧してさ。
幼かったアタシを連れて、王都を離れたんだ。
そっからは母様と二人でひっそりと暮らしたんだ。
幸せだったよ。とても。
だけどそれでも、アタシは思ってたんだ。
いつか絶対に、自分という存在を認めさせてやるんだ。
人々を助けて、騎士としての誇りを取り戻すんだ。
そしてみんなに、母様がアタシを産んでよかったって言わせるんだ。
誰かのために……自分が、そいつを守りてえから。何かのために……自分が、それを守りてえから。
そうしねえと、自分がつれえから。
自分が、自分が。
どんな言い訳とか詭弁並べてもよ、やっぱ最後には、そこに行き着くんだよ。
さっき俺と戦った時の最後……あれは良かったぜ。
あんときのお前、何を考えてた?
俺を斬ることだけを考えてたはずだぜ?
俺の隙を必死に探して、見つけて、ただぶった斬ることだけを考えてたはずだぜ?
あれを最初っからしてたらよ……。
スレイブの満面の笑みに、ユーンはため息を一つこぼす。
そして青々とした空を見上げ、遠くで戦っているであろう仲間に思いを送った。
こうして、ユーンとスレイブの戦いは幕を閉じたのであった。