第1話『魔王、なんか拾う。』

文字数 2,030文字

 気が付けば、イシリア誘拐(?)事件から数日が経過していた。
 すっかりいつもの日常に戻った魔王城。その城の門のすぐ付近では、魔王がのんびりとゆったりと散歩を楽しんでいた。
 心地よい日射しを全身に浴びながら、魔王は笑顔で歩く。
いやぁ心地よい朝だなぁ。
今日の朝ご飯も美味しかったし、昼ご飯も楽しみだし。
もうハッピーだよハッピー! 人生ハッピー!
僕魔王だけどね!
 ……その時、ふと足元に光る何かを見つけた魔王。
おんやぁ? これなんだろ……。
これ……ペンダント?
綺麗だなぁ。
 それは赤い宝石をあしらったペンダントだった。
 これまで見たこともないような美しさを放つペンダントに、魔王は見惚れてしまった。
 
 どうするか迷った魔王だったが、とりあえずそれを持ち帰ることにした。
 ――城通路。
これはこれは魔王様。
朝の散歩はどうでしたかな? 
楽しかったよぉ。気持ちよかったし良い物拾ったし。
やっぱり早起きは三文の得だね!
そういうセリフは早起きしてから言ってくだされ!
ギリギリ午前中に起きて!
もう昼前ですぞ!
いいの!
午前中に起きたんだから早起きでいいの!
まったく……。
……ん? ところでさきほど、何か拾ったとおっしゃいましたか?
あ! そうそう!
これなんだけどさ……。
ほほぉ……。これは何とも美しいペンダントですなぁ。
私の美意識が存分に刺激されるほどの、至高の一品ですぞ!
(ダンゴ虫の美意識って……)
それで? どうされるおつもりですか?
ん? どうするって?
決まっておるでしょう!
このペンダントをどうされるのかということです!
そうだねぇ……。
たぶん誰かの落とし物だろうから、関係機関に届けようかなぁ。
クソ真面目ですか!
そんな道徳心に満ち溢れた魔王がどこにいるんですか!
ええ……。でも、落とした人も困ってるだろうし……。
別にいいじゃないですか!
そもそも魔王ってそういうものでしょ!
人を困らせてなんぼでしょ!
じゃあ……どうすれば?
もちろん……我が物とするのですよ!
えええ!?
それってネコババじゃん! 
左様……。落とし主が困っていると分かっていながら、それでもそれを我が物とする……。
これぞ! 魔王の正しき姿!
で、でも大丈夫かな?
そんな大々的に犯罪行為しちゃって……。
魔王がケチ臭いこと言ってはなりませぬ!
貴方様は、魔王様ですぞ!?
……。
……。
……よ、よーし。いっちょやったるか……。
――ッ! そ、それでは――!?
このペンダントをネコババするぜ!
持ち主が困ってても返してやらないぜ!
おおお……!
なんと勇ましい……!
へへへ……。
悪だぜぇ……もうめっちゃ悪だぜぇ……!
僕ってばスッゲエ悪だぜぇ……!
すばらしいお考えですぞ!
これぞ、魔王です!
――うぐっ!?
ど、どうされましたか!?
か、呵責がぁ……!
良心の呵責がぁ……!
耐えるのです!
負けてはダメですぞ!
 ――居間。
――我が名は、魔王なり。
ま、魔王様……なんと頼もしくなられて……。
肩で風を切りまくっておりますぞ!
あんた達さっきから何やってんのよ。
ふふふ。なにやら楽しそうですね。
へ、へへへ……!
僕ぁ、悪だぜぇ……。
なんか気持ち悪いわね。
何かあったのですか?
いや、実はですね……。
 そして、ダンゴはことの経緯は説明する。
――……あんた達の魔王観って……。
なんだか可愛らしい魔王さんですね。
そう言ってくださるな。
魔王様は今、大いなる一歩を踏み出したのです。
どっちかと言うと踏み外した感じだけど。
もう人の道には戻れないぜぇ……!
あんたは元々人の道にいないっつーの。
まあまあイシリアさん。
ところで、そのペンダントとは?
あ、これだよー。
……確かに綺麗ね……。
そうでしょそうでしょ!
私の美意識もビンビンですぞ!
(ダンゴ虫の美意識って……)
へへ~ん。いいでしょ。
ふふふ。確かに珍しい宝石をあしらっていますね。
天界の稀光石ですし、これは自慢してもいいと思いますよ。
もう自慢しまくる!
ちょっとマリアンナ。あんまり調子に乗らせない方がいいって。
いいじゃありませんか。本当に嬉しそうですし、見ている私も嬉しくなってきます。
まあ、確かに嬉しそうではあるけどね……。
……ん?
え?
んん?
ん? みなさんどうかされましたか?
ねえマリアンナ。今、この宝石についてなんか言った?
はい。珍しい宝石だと。
その後は?
嬉しそうだから私も嬉しくなります?
惜しい。もうちょい巻き戻して。
天界の稀光石……?
それだぁぁ!!
マリアンナ? 天界の稀光石って?
天界の限られた鉱山でしか採取できない、天界でも稀少な光石です。
特徴として炎のような赤い色をしており、魔力を帯びた光を仄かに放つというものがあります。
この宝石も同様の特徴が見られるので、間違いないかと。
……それでは、このペンダントは……。
はい。天界で作られたものでしょうね。
となると、この持ち主は……。
天界の者、ということでしょうね。
な、なんと……。
……マジで?
 さてさて、何やら面倒なことになりそうな予感。このあとどうなるのやら……。
 
 続く。
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登場人物紹介

魔王
若くして魔界を統べた英雄的新米魔王
めちゃくちゃ強いが、苦労人
ツッコむつもりもないのにツッコまざるをえない部下を多数持つ

イシリア
魔王の城のメイドさん
意外と真面目
魔王とは幼馴染

セルフィー
幼女と見せかけて単に幼児体型なだけ
ジョセフに恋する自称乙女
一度回復魔術を使えば、超絶スパルタウーマンと化す

スレイブ
戦闘&修行マニア
なんとか魔王をこっちへ引き込もうとしている
普通に強い

マリアンナ
魔界随一の魔術使い
敵であるはずの神を崇拝
いちおう味方

ジョセフ
色々謎な優男
そしてイケメン
女好き

ダンゴ
魔王の部下
一番の理解者兼一番の被害者
本名はルドル・バルト・シュバエルとかいう長ったらしい名前らしい
見た目からダンゴと呼ばれている

勇者
選ばれし者、英雄を約束されし者
そしてヤル気も既に失われし者
布団の中をこよなく愛する者

エレナ
回復術士
女神の如き優しさと寛大さを持ち合わせる聖女
単に天然なだけという噂もちらほら
ファンクラブは星の数ほどあるという

ユーン
女戦士、豪傑豪胆
勇者一行ツッコミ担当
そして勇者一行唯一の常識人

リュー
魔術師担当
おっとりとした口調が特徴
腹黒さは魔族並

ルルリエ

天界の聖天使。マジ天使。
大天使長リヒテルの実の妹
唯一とも言える良識人
魔王一派に圧倒されているが

リヒテル

天界の大天使長
なんか色々考えてるっぽい
めちゃくちゃ強い

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