第8話『魔王、空気になる。』
文字数 2,424文字
マリアンナと大天使長――リヒテルは、鋭い視線をぶつけ合っていた。
二人から生み出される重々しい空気に、自我を捨てたはずの兵ですらも頬に汗を流す。
ただの重い空気ではない。
それ以外にも、何か目に見えない因縁めいたものが感じられた。
もちろん基本的にはそのやり取りは毎回しなきゃならない。
でもそのやり取りをずっと繰り返したら……こちらが欲しいものが、言わずと用意出来るようになるわけだよ。
だから詠唱なんていうまどろっこしいステップが省けるってわけ。
リヒテルの言葉と共に、それまで静観していた兵達が一斉に動き始める。各々が武器を構え、殺意を剥き出しにし、魔王とマリアンナを睨み付けていた。
彼の言葉に、兵達は一斉に武器を下げる。そして元の位置まで戻り、再び静観を始めた。
そして魔王は、それまでの表情を一変させる。鋭い視線でリヒテルを射貫き、声に力を込めた。
魔王から放たれる覇気に、室内の空気は鋭さを増すばかりであった……。