第2話『魔王、オヤジギャグを放つ。』

文字数 3,060文字

 魔王城の会議室。そこに、城の面々(スレイブ以外)は集まっていた。多くの煌びやかなシャンデリアが室内を照らしていたが、それに反比例し椅子に座る皆の表情は険しい。
 その原因は、彼らの視線の先にあった。
 中心にあるテーブル上、件のペンダントである。
天界の稀光石、か……。
そんなものがどうして……。
さあね。まさか風が運んだわけでもあるまいし。
天界からの風が運ぶペンダント……どことなくロマンがありますね。
天界なだけに衝撃な展開ってか?
……。
……。
……。
……。
……。
……いや、ほんと、すんませんっした……。
調子乗り過ぎました……はい……。
まったく……つまらないオヤジギャグ飛ばしてる場合ではありませんぞ。
ことは深刻ですぞ。
そんなに深刻になることなの?
そうですね。これは魔王の城のすぐそばに落ちていたんですね?
そうだよー。
となれば、もっとも考えられる可能性は二つですね。
一つは、天界から偶然落とされたという線。そしてもう一つは……。
……誰かがそこで落としたという線、ですね。
誰かって……誰ですの?
そこまでは断定は出来かねますね。ただ……。
ただ……?
――天界の者が魔王城のそばまで来ていた、という可能性が高いということですね。
――ッ!!
まじかー。全然気が付かなかった。
呑気なものですわね。
それに、まだそうだと決まったわけではありませんわ。
もちろんその通りです。
ですが、稀光石は天界の至宝とも呼ばれているもの。それを天界以外の者が所持していたという可能性は低いでしょう。
ともなれば、やはり天界の者が落としたものだと考えるのが妥当でしょうな。
それなら問題は一つね。
どうして、そこにあったのか。
真っ先に思い浮かぶのは、やはり偵察でしょうね。
その最中に落としてしまった、と考えれば落ちていた理由にもなります。
ですわ。
遥か昔とは言え、天魔戦争の例もありますし。
こちらの内情を探り、様子を窺っていてもおかしくはありませんな。
特に魔界は、近年で大きく情勢が変わっています。
現状は天界側も把握しておきたいでしょうから、十分に考えられる話です。
……あのさ、天魔戦争って……なに?
はて? イシリアさんはご存知ありませんか?
呆れますわ。魔界の者でありながら天魔戦争を知らないなんて。
私そういうの興味ないのよ。
確かに、遥か昔の話ではありますからね。
天魔戦争ってのはね、遥か昔に起きた、天界と魔界の戦のことだよ。
天界と魔界の戦……。
その原因と結果は諸説ありますが、天魔戦争以降、魔界は世界の果てに、天界は天上にそれぞれ築かれたとされていますね。
戦は数百年に渡って繰り広げられ、その凄惨さは未だに語り継がれるほど。
もはや神話の領域ですな。
その時に魔界を率いていたのが、初代魔王なんだよ。
まあ、こんなところに押し込められたあたり、たぶん魔界側が負けたんだろうけどね。
ふーん……。
でも、どうして今になって偵察なんて……。
……今だからこそ、という考え方もありますね。
そうだね。
魔王が変わったばかりだし、兵はいないしで、今以上に攻めるチャンスはないだろうからね。
そんな他人事のように!
実際に天界側の偵察なら、それこそ大事ですぞ!
これ見よがしに情報が筒抜けですわ。
毎日賑やかですからね。
偵察側もさぞや仕事が楽でしょうね。
偵察どころか、昼寝してても話が聞き取れるレベルだしね。
セキュリティ性は一切ないだろうね。
悠長に言ってる場合ですか!
場合によっては天魔戦争の再来ですぞ!
まあまあダンゴくん落ち着いて。
さすがに天魔戦争の再来ってのはないよ。
そうですね。
稀光石が天界の至宝とは言え、あれだけの戦乱を再び起こそうという話にはなりにくいかと思います。
宝石一つで戦争なんて馬鹿げた話ですわ。
そもそも、そんなに大切なものなら持ち出すはずがありませんわ。
それもそうよね。
言われてみれば、それだけの宝物を偵察程度で持ち出すのも妙な話よ。普通なら、後生大事に保管するだろうし。
確かに。
となれば、やはり偶然天界から落ちて来たと結論付けても問題ないかと。
そ、そうでしょうか……。
それであれば、このペンダント、どうするおつもりですか?
そうだなぁ……。
まさか落とした本人が取りに来るってことはありえないだろうし――。
 その時、突然会議室のドアが勢いよく開かれた。
――おうお前ら!
邪魔するぜ!
あれ? どうしたのスレイブ?
いやさっき城の周りを千周ダッシュしてたんだけどよぉ。
千周ダッシュって……どういう体力してんのよ……。
相変わらずの修行バカですわ……。
そしたらこいつがなんかウロウロしててよ。
話聞いたら落とし物したとか言ってるもんだから連れて来たってわけよ。
こいつ……?
おい! こっちだ!
 するとドアの影から、一人の少女が顔を出した。
あ、あの……。
これはこれは、可愛いお嬢さんですね。
今度僕の部屋でご一緒に食事でもどうですか?
会って秒で発情とは……さすがね……。
もう……ジョセフ様ったら……。
それで、どうしたのですか?
あ、あの……私、探し物をしているのですが……。
探し物? どんな?
は、はい……。
赤い石が付いた、ペンダントを……。
持ち主キターーーーー!!
まさか本当に来るなんて……驚きですわ……。
事実は小説より奇なりね。
え? え??
ごめんごめん、こっちのこと。
もしかして、探し物ってこれ?
 そういうと、魔王はペンダントを手に取り彼女に見せた。
――ッ!!
そ、それです!!
あ、やっぱりそうなんだ。
じゃあはい、これ。返すね。
あ、ありがとうございます……!
良かった……。
ふふふ。凄く喜んでいますね。
いいことはするものね。
なんだか心が清められた気分ですわ。
ええ本当に。
今すぐにでも抱きしめたくなる衝動に駆られますね。
君だけ話のベクトルが違う気がするんだけど気のせいかな?
よく分からんが連れて来て良かったみたいだな!
なら俺は修行に戻るか!
次は底なし沼を千往復してくるぜ!
うおおおおおおおおおお!!
 そしてスレイブは、猛烈な勢いで部屋を後にした。
……あいつ、いつか死ぬわね。絶対。
だとしてもきっと本望ですことよ。
めちゃくちゃ満面の笑みで死んでそう。
……ところで魔王様?
そのペンダント、持ち主が困っていても返さないのではなかったのですか?
シャラップ。
少し黙っていようかダンゴくん。
ああ……! なんとお礼を言えばいいのか……!
本当にありがとうございました!
いいっていいって。
こっちも拾っただけだし。
とにかく、これでこの件は解決ね。
ええ!
一件落着! ですわ!
そうですね。天界のお嬢さんにお返しできましたし。
比較的に早く解決してよかったですな。
余計な心配だったかもしれませんね。
ほんとだよー。ダンゴくんが天魔戦争の再来なんて言うからさー。
うぐっ……忘れてくだされ……。
 会議室は笑い声で溢れかえった。
 和やかな雰囲気が室内に広がり、天界の少女も笑みを浮かべていた。
 そう、天界の少女も、笑みを……天界の少女も……。
……うん?
……はて?
……え?
……あら?
……おや?
……ん? みなさんどうかされました?
マリアンナさんマリアンナさん。
今ね、すっげー問題発言しなかった?
確か……このお嬢さんについてだったと思うのですが……。
天界のお嬢さんですか?
違いますか?
いいえ、その通りです。
私は、ルルリエ……天界に住まう天使見習いです。
て、天界の……!?
天使見習い!?
な、なんと……!
……これは驚きましたね。
……マジで?
 突如現れた天界の天使見習いの少女に、一同は唖然とする。
 天界なだけに衝撃の展開ってか?
 
 ……すみません。続きます。
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登場人物紹介

魔王
若くして魔界を統べた英雄的新米魔王
めちゃくちゃ強いが、苦労人
ツッコむつもりもないのにツッコまざるをえない部下を多数持つ

イシリア
魔王の城のメイドさん
意外と真面目
魔王とは幼馴染

セルフィー
幼女と見せかけて単に幼児体型なだけ
ジョセフに恋する自称乙女
一度回復魔術を使えば、超絶スパルタウーマンと化す

スレイブ
戦闘&修行マニア
なんとか魔王をこっちへ引き込もうとしている
普通に強い

マリアンナ
魔界随一の魔術使い
敵であるはずの神を崇拝
いちおう味方

ジョセフ
色々謎な優男
そしてイケメン
女好き

ダンゴ
魔王の部下
一番の理解者兼一番の被害者
本名はルドル・バルト・シュバエルとかいう長ったらしい名前らしい
見た目からダンゴと呼ばれている

勇者
選ばれし者、英雄を約束されし者
そしてヤル気も既に失われし者
布団の中をこよなく愛する者

エレナ
回復術士
女神の如き優しさと寛大さを持ち合わせる聖女
単に天然なだけという噂もちらほら
ファンクラブは星の数ほどあるという

ユーン
女戦士、豪傑豪胆
勇者一行ツッコミ担当
そして勇者一行唯一の常識人

リュー
魔術師担当
おっとりとした口調が特徴
腹黒さは魔族並

ルルリエ

天界の聖天使。マジ天使。
大天使長リヒテルの実の妹
唯一とも言える良識人
魔王一派に圧倒されているが

リヒテル

天界の大天使長
なんか色々考えてるっぽい
めちゃくちゃ強い

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