章最終話『魔王、調子乗る。』
文字数 3,860文字
ところ変わり、魔王城。
あれから魔王は牢獄にいたルルリエを連れ、魔界へと帰った。ルルリエは当初、天界を追放されたことにショックを隠せない様子であった。それについて、魔王もマリアンナも慰めることも同情することもしない。むしろ、敢えてさも当たり前のように彼女を引き連れ魔界へと帰ったのだった。
それが逆に、彼女の気持ちを楽にすることを知っていたからだ。
魔界へと戻ってきたルルリエは、城で待つ面々に暖かく迎え入れられる。
そしてその日の晩、魔王城では、宴が催されたのだった。
かんぱーい!!
会場にグラスを鳴らす音が響き渡る。
煌びやかなシャンデリアがテーブル上に並べられた数多くの料理を照らし出す。どこからともなく音楽が流れ、手作りの装飾が壁や窓に彩られていた。ある者は談笑し、またある者(というかスレイブ)はとにかく目の前の料理を頬張る。
和やかな雰囲気の中心にいたのは、言うまでもなくルルリエである。しかしながら、場慣れしていないのか、彼女は戸惑っている様子であった。
そんなこんなで、賑やかに時間は過ぎ去っていった。
それからしばらくした後、ルルリエは、一人会場脇にあるベランダにいた。
夜風が体を通り抜ければ、彼女の金色の髪を靡かせる。少し肌寒いが、会場で火照った体には心地よく感じた。
そこから見える魔界の風景。夜空に星々は煌めき、月明かりが優しく大地を照らす。闇に沈んでいるはずの木々は、どこか安らかに眠っているようにも思えた。
その全てを、ルルリエは揺れる瞳で見つめていた。
ふと、彼女の元へ歩み寄る人影があった。
イシリアとセルフィーである。
……イシリアさん、セルフィーさん。ありがとうございます。
私、色々不安だったんです。天界を追われて、未知の世界で住むことになって、これからどうなるんだろうって、これからどうすればいいんだろうって、そんなことばかり考えていました。
様々な想いが飛び交いながら、宴は遅くまで続くのであった……。
……さて、更にところ変わって人間界の辺境にある小さな祠。
その中で、とある人物が目の前のモンスターに致命の一撃を入れていた。
彼女の一撃を受け、モンスターは倒れる。
そして彼女の周囲の者も、静かに武器を収めた。
当然さ。
世界を救えとか言っておきながらたかだか数百ゴールドしか払わないなんて都合が良過ぎる話だからね。有り金全部払わせても足りないくらいだよ。
人に命かけさせるんだから、王様も人生かけてもらおうじゃないか。
そして勇者は、渋々出発するのであった。
魔界へと。魔王のところへと。
ついに、勇者がやって来る……。