第7話『魔王、紅茶を飲む。』
文字数 3,097文字
魔王とマリアンナは瓦礫に腰を降ろし、紅茶を啜っていた。
魔王は周囲を見渡す。
彼らの周りには、ドーム状の碧光の障壁が張られていた。そしてその外側には、景色を埋め尽くすほどの兵の大軍が。手には武器、体には鎧を装着し、血眼になり障壁を破らんと刃を振るい、或いは魔術を放っていた。
怒声、雄叫びが飛び交い、障壁がなくなろうものなら、真っ先に魔王達に襲い掛かることだろう。
その時、突然上空から声が響き渡った。
――……兵達よ、武器を収めよ。
その者は私の客人だ。
丁重に出迎えよ。
その言葉を受けるなり、兵達は一斉に武器を下げ、なおかつ出迎えるように宮殿への道を開けた。
その動きは統一され、まるで何者かに操られているかのようにすら見える。
そして魔王達は結界を解き、宮殿の中へ足を踏み入れる。
意思もない亡霊のような兵に案内された彼らは、謁見の間へと通された。数多くの兵が連ね、皆眉一つ動かさない。
重々しい空気の中、魔王達は奥へと進んだ。
そして――。
そう言うと、天使長は魔王の後ろにいたマリアンナに視線を送った。
ですが、本当は分かっていたんです。
その命が、天界の一部の者の私欲のために下されていたことを。そして私が、それに利用されていたことを。
私は怖かったんです。
私の想いが裏切られ、汚され、無意味と化していたという事実を受け入れたくなかったんです。
……そしてある日、私は大天使長の命のもと、一つの村を焼き払いました。
神を討とうと画策する背教者の村……そう聞いていました。しかし、事実は違っていたんです。そこにそんな人などいなかったのです。
私はまた、無駄に多くの命を奪ってしまったのです。
炎に包まれる村の中で、一人の少女の亡骸を見つけました。天使の人形を抱きかかえ、頬には血と涙が混じっていました。
その子を見た時、耐え難い哀しみと絶望が私を包みました。
これが私がしたことだと、この子の血と涙は私が流させたのだと。これまで逃げていた真実を突き付けられた私には、私の存在意義が分からなくなっていました。
……その時の紅茶の暖かさと美味しさは、忘れられません。
そして、笑顔で色々なことを話しかけてくれる魔王さんがとても眩しく見えました。
この人はまったく自分を飾っていない。裏も策もなく、純粋に私と接してくれている。
そう思いました。
続く。